2016年02月19日12時22分掲載
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反戦・平和
自衛隊監視訴訟 防衛省、上告断念 「原告」は上告へ 根本行雄
2016年2月16日、自衛隊の情報保全隊にイラク派遣反対活動を監視された東北地方の住民たちが国に損害賠償などを求めた訴訟で、仙台高裁は公表していない本名や勤務先の情報収集はプライバシー侵害で違法だと認定し、男性1人に10万円を賠償するよう国に命じた。これに対し、防衛省は上告を断念することを明らかにした。これで、自衛隊の監視行為の違法性を認めた判決が確定したことにる。住民は上告へ。まだまだ、人民の戦いは続く。
陸上自衛隊情報保全隊によるイラク派遣反対集会の監視活動は、共産党が「情報保全隊の内部文書に記されている」として、2007年、コピーを公表したことによって明らかになった。
□ 訴訟の経緯
毎日新聞(2016年2月2日)の記事を引用する。
「戦時中のように憲兵が市民の行動を監視し、自由を奪った時代を繰り返してはいけない」。原告団事務局長の堤智子さん(68)は1月20日、仙台市の街頭で支援者と声を張り上げた。
堤さんらが各地で参加した自衛隊イラク派遣の反対集会やデモの場所、シュプレヒコールの内容などの情報は、知らぬ間に自衛隊に収集されていた。情報保全隊の内部文書に記されているとして共産党が2007年、コピーを公表した。
その後、住民約100人が提訴した。12年の仙台地裁判決は、文書は情報保全隊が作ったと認定。氏名や職業、思想信条に直結する所属政党などの情報を収集された5人に計30万円を支払うよう国に命じた。人格権である個人情報をコントロールする権利を侵害されたと判断した。監視差し止め請求は退けた。
12年3月の、1審の裁判長は「自衛隊員に直接働きかけたわけでもなく、公表していない本名、勤務先の情報を集めるのはプライバシー侵害」であると認定した。「正当な目的がなければ(行政機関に国民は)個人情報を収集・保有されない」とし、違法な情報収集であると判断した。原告107人中5人の支払いを命じる一方、差し止め請求は退けられた。憲法判断はしなかった。
□ 控訴審判決
1審判決後には、別の内部文書も明らかになった。2010年12月の3週間分の活動が記され、仙台市でこの訴訟の決起集会が開かれたとの記載もあった。住民側はこの文書を仙台高裁に証拠として提出し、「自衛隊がイラクから撤収した後も監視を継続しており、権利侵害は続いている」と差し止めを強く求めている。
陸上自衛隊情報保全隊がイラク派遣反対集会を監視したのは違憲として、東北6県の住民たちが国に監視差し止めと損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2月2日、仙台高裁であった。
仙台高裁は控訴審判決において、1審に続き、国による人格権侵害を認定した。2012年の仙台地裁判決は5人に賠償するよう国に命じていたが、古久保正人裁判長は、1審が情報収集による人格権侵害を認めた原告5人のうち1人への違法性を認めて国に10万円の支払いを命じた。他の4人については「共産党地方議員で、公に近い情報」として請求を退けた。憲法判断は示していない。
毎日新聞(2016年2月3日)より、本橋敦子記者の記事を引用する。
判決は、1審が国の賠償責任を認めた原告5人のうち、イラク派遣反対の音楽ライブを開いていた宮城県内のアマチュア歌手の男性について「公表していない本名、勤務先の情報を集めるのはプライバシー侵害だ」として10万円の賠償命令を維持。他の4人は共産党の地方議員で「肩書や活動などは秘匿性に乏しい」と賠償を取り消し、差し止め請求は1審に続いて退けた。
会見で、原告団長を務める仙台市の写真家、後藤東陽さん(90)は「1審に続き国の違法行為が認められた」と話した。弁護団の十河(そごう)弘弁護士は「国は判決内容を十分理解し、国民の権利を守ることが必要」と力を込めた。
□ 防衛省は、上告を断念。住民側は、上告へ。
仙台高裁は、公表していない本名や勤務先の情報収集はプライバシー侵害で違法だと認定し、男性1人に10万円を賠償するよう国に命じた。これに対して、防衛省は16日、上告を断念することを明らかにした。
防衛省は「主張の一部について裁判所の理解が得られなかったが、内容を慎重に検討した結果、上告しないことにした」とのコメントを出した。
また、賠償を認められた男性も上告していないため、上告期限の17日午前0時で、自衛隊の監視行為の違法性を認めた判決が確定した。
住民側は15日、監視活動の違法性を一部認めながらも住民全員への賠償は命じず、差し止め請求を退けたことを理由として、控訴審判決を不服として上告した。
上告したのは東北6県の75人。住民側弁護団は記者会見し「全員が自分の情報をコントロールする権利を侵害された」と強調した。却下された差し止め請求については「最高裁は(門前払いせず)きちんと審理してほしい」と訴えた。
□ 濫訴のすすめ
今回の、「自衛隊監視訴訟」において、住民側弁護団事務局長の小野寺義象弁護士は「国が違法行為を認めたことになり、非常に画期的だ」と語っている。
この訴訟が続いている間に、特定秘密保護法が施行され、昨年9月には「安保法制」と呼ばれる安全保障関連法が成立し、集団的自衛権の行使が容認された。今や、私たちが「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿を決め込んでいると、自民党・安倍政権の民主主義政治を破壊する暴走はさらに加速し、止まることがないだろう。市民の政治活動は監視され、その監視内容を隠すことが正当化され、内部告発者も出にくくなっていくことだろう。そして、監視による言論、思想弾圧が進んでいくことだろう。それは、確実に戦争に結びついていく。
松下竜一さん(ノンフィクション作家)は、「濫訴の弊」というコトバをとりあげて、裁判闘争を活発に行なうことはよいことだという趣旨の文章を書いていた。自民党・安倍政権の暴走を食い止めるためには、裁判闘争を活発に行なうことも、一つの闘い方として評価することができる。
人権は人と国家についての一般理論の論理的産物ではなく、差別や弾圧に対する人民の闘いの歴史の産物である。
日本国憲法第12条には、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と書かれている。
人権も、平和も、ツバメの雛のように、大きな口をあけていれば、何もしないでいても、誰かが与えてくれる、そういうものではない。じつは、ツバメの雛でさえ、大きな声で主張しているのだ。親鳥は大きな声で鳴いている雛にエサを優先的に与える傾向がある。だから、大きな声を出しているものほど、たくさんのエサを食べることができるのだ。
2015年12月21日、弁護士たちが中心になって活動している「安保法制違憲訴訟の会」が衆議院第二議員会館で記者会見を開いた。そして、2015年9月に成立した「安全保障法制」が違憲であり、無効であるとして、集団的自衛権行使の差し止めや、国家賠償を求める裁判を起こすことを発表した。現在、原告を募集し、訴訟の準備を進めている。「日刊ベリタ」の読者にも、原告になることをおすすめしたい。インターネットなどで、「安保法制違憲訴訟の会」のホームページをご覧のうえ、原告になってもいいとお考えの方は、会の方へ、FAX、メール、郵便などで、連絡をしてください。
今年は「さる年」だが、「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿を決め込んでいる訳にはいかない。一人ひとりが、できることをしていこう。
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