2016年02月20日00時52分掲載
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反戦・平和
日本の責任を問う戦後補償裁判の現状 〜弁連協＆戦後補償ネットワーク主催「戦後補償裁判の現状と課題２０１６」
長きにわたって戦後補償問題に取り組む「戦後補償裁判を考える弁護士連絡協議会」（弁連協）と「戦後補償ネットワーク」は１月中旬、東京・霞が関の弁護士会館で毎年恒例の公開フォーラム「戦後補償裁判の現状と課題２０１６」を開催した。
日本が関係する戦後補償裁判について、裁判に関わる弁護士など関係者が進捗状況等を報告するこのフォーラムは、今年で１９回目を迎え、戦後補償ネットワーク世話人代表の有光健さんが司会を務める中、現在日本で行われている、�―天通戯絞滅�撃訴訟・東京地裁判決、��中国人強制連行国家賠償請求訴訟・大阪地裁提訴、�２�縄戦訴訟・南洋戦訴訟のほか、韓国と中国で行われている戦後補償裁判について報告された。
＜重慶無差別爆撃訴訟・東京地裁判決＞
日中戦争において、日本軍が１９３８年から約５年間、重慶市や四川省で断続的に２００回以上実施した大規模爆撃の被害者ら１８８人が提訴した重慶無差別爆撃訴訟〔第１次提訴（２００６年３月）〜第４次提訴（２００９年１０月）〕は、昨年２月２５日に東京地裁で判決が言い渡され、東京地裁は重慶大爆撃の加害と被害の事実は認めたものの、「国家賠償法が施行された１９４７年以前の行為に関して国は賠償責任を負わない」とする“国家無答責”などの法理論で原告の請求を棄却した。
弁護団長の田代博之弁護士は、裁判の意義について、
「重慶無差別爆撃訴訟は、単に国から賠償金を取るとか、国に謝罪させることではなく、２１世紀の今なお、地球上で無差別爆撃が行われていることに対して抗議し、無差別爆撃を地上から一掃したいという理念で闘った裁判です」と訴えるとともに、裁判を勝利に導くかどうかの決め手は、法廷外での闘争をいかに強められるかに掛かっているとして、控訴審では法廷内での闘争に頼るのではなく、裁判所を包囲するなど法廷外の闘争を強めていくと語り、支援を呼びかけた。
控訴審第１回は、今年の３月から４月頃に行われる予定である。
＜中国人強制連行国家賠償請求訴訟・大阪地裁提訴＞
中国の華北地方等で日本軍に逮捕、監禁されて日本に連行され、大阪市の造船所等や秋田県花岡町（現大館市）の鹿島組花岡出張所で労働に従事させられた中国人元労働者２人と遺族１１人が昨年６月２６日、加害企業ではなく日本国を相手に総額７，１５０万円の損害賠償と謝罪を求める訴訟を大阪地裁に提起した。第１回公判は昨年１０月３０日に行われている。
この「中国人強制連行国家賠償請求訴訟」にアドバイザーとして関わる元・花岡事件訴訟弁護団長の清井礼二弁護士は、訴訟の特徴について次の３点を説明した。
� ．汽鵐侫薀鵐轡好街嶇他鯡鵑琉�用によって請求権が消滅したとする最高裁の判断（２００７年４月）を覆そうという、最高裁に再チャレンジする狙いがある。
�◆‘�本の最高裁判決に対し、中国政府がいかなる態度を取りながら、強制連行問題について積極的に関わっていけるかどうかを探る“リトマス試験紙”のような狙いもある。
�� 元・花岡事件訴訟原告たちの「鹿島とは和解に至ったものの、日本国に対する責任追及は当初から行っていなかった訳で、やはり国の責任も追及すべきだ」という強い思いから提訴に至った今回の裁判は、 “強制労働”に重きを置いた花岡事件訴訟と異なり、“強制連行”に重きを置いた構成を採っている。
第２回公判は３月１日、第３回公判は５月２３日に予定されている。
＜沖縄戦訴訟・南洋戦訴訟＞
沖縄戦に巻き込まれた住民や遺族ら７９人が国を訴えた「沖縄戦訴訟」と、サイパンなど旧南洋群島やフィリピンで被害に遭った住民ら４５人が国を訴えた「南洋戦訴訟」の両訴訟で弁護団長を務める瑞慶山茂弁護士は、沖縄戦訴訟・那覇地裁判決が今年３月１６日、南洋戦訴訟も今年中に判決が出る見通しであると報告し、支援を訴えた。
沖縄戦訴訟では、原告が「戦後に発生した心的外傷後ストレス障害（ＰＴＳＤ）など、戦争が原因の精神障害について、損害賠償を請求する権利は消滅しない」と主張するのに対し、国は「国家賠償法が施行された１９４７年以前の行為に関して国は賠償責任を負わない」（国家無答責）と反論しており、裁判所が国賠法による賠償責任を認めるか否かが争点になっている。
＜韓国における戦後補償裁判＞
韓国人強制動員被害者とその遺族らが、韓国政府からの支援金支給額が現在価値を反映した正当な補償ではないなどと主張し、支給を定めた韓国の国内法「太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者等支援に関する法律」と１９６５年に締結された韓日請求権協定について「財産権などを侵害するとして違憲だ」と訴えた裁判で、韓国の憲法裁判所は昨年１２月２３日、国内法について不備を認めなかった上、韓日請求権協定について「審判の要件を満たしていない」として原告の請求を却下し、憲法判断を回避した。
韓国では、大法院（最高裁に相当）が２０１２年に「日本の国家権力が関与した反人道的な不法行為、植民地支配と直結した不法行為に対し、個人が損害賠償を求める権利は、韓日請求権協定の対象外である」と判断したのを機に、元強制動員被害者やその遺族が次々と日本企業を相手に損害賠償を求める訴訟を提起しており、現在、大法院で審理中の訴訟について判決が待たれる状況が続いている。
張完翼（チャン・ワニク）弁護士は「憲法裁判所による今回の却下決定は、強制動員被害者問題の解決にとって障害物になった。韓日請求権協定について憲法裁判所が判断しないから、大法院は自らが最終解釈しなければならない負担を抱くようになる。これで、大法院において現在係争中の事案（被告＝新日鉄住金、三菱重工業）について、判決が出る見通しが立たなくなった」と語った。
＜中国における戦後補償裁判＞
弁連協事務局主任の高木喜孝弁護士は、中国において提訴された訴訟案件のうち唯一、北京第１中級人民法院（地裁に相当）で受理された強制連行・強制労働事件集団訴訟の現状について、次のとおり報告した。
� “鏐陲了杏�マテリアルと三井鉱山の両事件が併合して受理されている。
�◆〇旭羚杙海賄�弁書を提出せず、併合審理に異議も提出せず、出頭もしない（欠席裁判となる）状況である。
�� 三菱マテリアルは「強制労働などが行われた場所は北京でないため、『権利侵害地』は北京市ではない。したがって、北京第１中級人民法院に裁判の管轄権は無い」と異議を申し立て、訴えの却下を求めている（中国民事訴訟法には管轄について明文規定がある）。
�ぁ〇杏�マテリアルは原告に和解案を提示したものの、被害者団体間で足並みがそろっておらず、合意に至っていない状況にある。
そして高木弁護士は、北京第１中級人民法院での審理が、争点整理のために双方代理人が出頭して意見聴取された昨年４月以降、一向に進まないまま事実上停止していることについて、「審理が進行停止状態にあるのは管轄問題が原因ではない。中国共産党による何らかの配慮が働いているのであろう」と語った。
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いつもながら公開フォーラムで戦後補償裁判の報告を聞くと、戦後７０年が経つのに謝罪や賠償を受けられずにいる被害者らが未だ存在することに気持ちが暗くなる上、戦争は多くの人々の心と体に癒すことのできない傷を負わせるものであることを再認識させられる。
安倍政権は、今年３月施行される安全保障関連法に基づき、ＰＫＯ（国連平和維持活動）に参加する自衛隊に対して新たに“安全確保活動”や“駆け付け警護”といった任務を課すが、任務遂行の結果、後々になって日本の責任が問われる新たな戦後補償裁判が提起されないことを祈るばかりである。（坂本正義）
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