2016年03月17日15時03分掲載  無料記事
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≪気になる映画≫『バナナの逆襲』 バナナのしっぺ返しでドールは墓穴を掘る

  『バナナの逆襲』の試写を観た。妙な既視感が漂う。「あったこと」を「なかったこと」にしようと画策する多国籍企業ドールの姿は、近くは『美味しんぼ』の「鼻血騒動」に重なる。それはまた、キャスター降板が相次ぐ日本のマスコミの姿とも重なる。「なかったこと」したい勢力は、場所や時代を超えて跋扈している。しかし、あきらめずに戦い、勝利を得た弁護士や監督に希望を見る。(有機農業ニュースクリップ) 
 
  『バナナの逆襲』は、ニカラグアの農業労働者が農薬被害の補償を求めてドールを訴えた裁判と、そのドキュメンタリー映画の上映をめぐる顛末を描いた2本の関連する作品を並べた2話構成となっている。2本目の作品を第1話とする変則的な構成だが、観終わって、この構成しかなかっただろうと思わせる作品である。邦題の『バナナの逆襲』の通り、ドールは大きなしっぺ返しを食らった。2作とも87分と長いが、その長さを感じさせない。2月27日からユーロスペースで公開される。配給は「きろくびと」。 
 
  第1話は、2009年に制作された第2話の米国での上映を阻止しようとするドールが起こしたスラップ訴訟の顛末を描いた作品で、邦題は『ゲルテン監督、訴えられる』(2011年)。第2話は、ニカラグアのバナナ農園の労働者が、使用禁止農薬の使用による農薬被害の賠償を求めてドールを訴えた裁判でのやり取りを軸にして描いた作品で、邦題は『敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』 (2009年)。 
 
 ・第1話『ゲルテン監督、訴えられる』 
  原題 『Big Boys Gone BANANAS!』 
  2011年/スウェーデン/87分 
 
 ・第2話『敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』 
  原題 『BANANAS!』 
  2009年/スウェーデン/87分 
 
 ・きろくびと 
  『バナナの逆襲』 
  http://kiroku-bito.com/2bananas/ 
 
 ・ドキュメンタリー映画『バナナの逆襲』 劇場予告編 
  https://www.youtube.com/watch?v=F6zCPt6cBoM 
 
 
 ●第1話『ゲルテン監督、訴えられる』 
 
  第1話は、2009年のロサンゼルス映画祭で第2話『BANANAS!』の上映をめぐる監督とドールの戦い=スラップ訴訟を追った作品。映画祭での上映を嫌ったドールが、裁判をちらつかせ、あの手この手で阻止に動く。びびって、だんだんと弱気なっていく映画祭主催者側の姿が情けなくもあり、ドールという巨大な多国籍企業の力を見せ付けられる。作品(第2話)は、最後まで妥協しなかった監督と、ドールの脅しに屈して上映したくない主催者の妥協で、小さな会場での上映にこぎつける。 
 
  ドールは、マスコミやジャーナリストを抱きこみ、「ウソで固めた映画」という「印象操作」を図り、監督を名誉毀損で訴える。 
 この戦略は成功したかにみえた。しかし、監督の本拠であるスウェーデン議会で作品が上映されたり、スウェーデンの議員や市民の支持を背景に、問題は「言論の自由」とその圧殺だとする声が高くなる。ドールのボイコットも一部で始まり、形勢不利を見たドールは訴えを取り下げる。 
 
  一方、監督サイドは、ドールによる訴訟はスラップ訴訟だとして、米国で反訴する(作品では、スラップ訴訟と反訴という点は、 
 ほとんど語られない)。陪審員の表決や判決で上映の自由を勝ち取ろうとする監督は、ドールの画策する和解を蹴って、20万ドルの賠償判決を得る。 
 
  第1話では、ドールがスウェーデンの弱小制作会社と監督を訴えてまで、『BANANAS!』(第2話)の上映を阻止したかったのかが、スラップ訴訟に象徴されるその工作のえげつなさとともに浮かび上がってくる。そして、映画祭主催者を含めて、ドールに丸め込まれるジャーナリストも、容赦なくその醜悪な姿をさらけ出している。 
 
  ドールは、自社の汚点を隠そうと作品の上映阻止に動いた結果、 世界的に注目を浴びてしまうという、みっともない墓穴を掘る破 
 目に陥った。因果応報を絵に描いたような展開である。 
 
 
 ●第2話『敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』 
 
  2009年に制作された第2話は、ニカラグアのバナナ農園労働者 
 の農薬被害を描いたドキュメンタリー。 
 
  中米コスタリカ、ホンジュラス、ニカラグアなどでバナナ農園を展開する多国籍企業のドールは、1997年に米国で健康被害(生殖障害)をもたらすとして使用禁止になった農薬DBCPを使い続ける。これにより被害を受けたバナナ農園の労働者12名が、ドールに損害賠償を求めて米国で裁判を起こす。この裁判は、外国の原告が米国で、米国企業の責任を問えるかが争われた裁判でもあった。 
 
  提訴には、被害を知った米国の「敏腕」弁護士によるニカラグア現地での原告掘り起こしが背景にある。キューバからの移民でもあったドミンゲス弁護士は、路線バスの車体に広告を出すなど派手な宣伝もするが、弱者の側に立つことを公言し、敗訴では費用を取らないという。 
 
  作品は、このドミンゲス弁護士を軸に展開する。声高に農薬被害を訴えることもなく、裁判での農園労働者の証言とともに、労働現場の映像と農園労働者の語りを淡々とつないでいくことで、劣悪な農園労働を描いている。子供を4人欲しいと思っていたと語る証言のシーンは、観ていて悲しくなる。絶句し証言台に突っ伏し嗚咽する。危険性を知りながらドールが使い続けた農薬DBCPにより無精子症となったこの労働者が、自分の子供をその手に抱くことはなかった。 
 
  裁判では、ダウ・ケミカルが、健康被害を理由にして、農薬DBCPの製造中止と回収を明らかにした数日後、ドールは、契約履行を迫り、DBCPの在庫190万リットルを全て引き取るやり取りも明らかになる。そこでは、賠償問題が将来起きた場合の責任にまで話されていた。証人尋問に立ったドールの社長は、原告弁護士の質問に、平然と「購入するだけなら問題はないと思った」と答えにならない答えを述べているのが印象的だ。こうした被告に不利な証拠もあり、原告6名への損害賠償とドールへの懲罰的賠償の判決を勝ち取る。 
 
  原告側の弁護士の「誰かが死ぬたびに、ドールの勝ちなんだ」という一言が、バナナ農園の労働者のおかれた悲惨な被害の状況と多国籍企業ドールの立場を的確に言いえている。確かに、ドールが何としても公開を阻止したかった作品である。 


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