2016年03月31日05時23分掲載
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人権/反差別/司法
施行された安保法制と戦前の「治安維持法」 戦前、処罰対象は「行為」から「思想」そのものに
今、施行されたばかりの一連の安保法制は集団的自衛権を前提に、日本が攻撃されていなくても日本国内が戦時体制になりうることを可能にする一連の法制であり、それは2013年12月に可決した特定秘密保護法とセットになっています。
今年の夏、参院選が予定されていますが、自民党と公明党は3分の2を参院でも確保することを目指し、改憲の手続きを実現しようとしているのです。そういう意味で今、憲法改正が国民の関心事項となっています。しかし、戦時体制への法制度の改造は憲法だけではなく、具体的な刑法上の法律改正や新法の制定が今後さらに加速する可能性があります。特に注意すべきなのは戦前に存在した治安維持法ではないでしょうか。これに詳しい刑法学者の中山研一京大名誉教授はこう記しています。
「「いわゆる「治安維持法」については、戦前の代表的な人権侵害の悪法として歴史的な評価が確定しているはずのものである。私自身も、かつての『現代社会と治安法』(1970年、岩波新書)の中で、戦前の治安法の典型として触れたが、その特色は、反体制的な目的を持った「行為」を処罰するとしながら、その目的に資する行為から言論に至るまで無限定に拡大を重ねることによって、まさに「思想」そのものを処罰の対象にしたという点に現われている。また、治安法を運用するために、「特高警察」がその権限を著しく濫用したこととともに、全国各府県単位にも「特高課」が設けられていたことも忘れられてはならない。」
治安維持を合言葉に戦前の社会で起きた人権の弾圧が、日本で繰り返される可能性はあるのです。入り口は「テロとの戦い」=戦時体制への移行であり、非常時だから通常の法体系では対処できないという論理です。しかし、アメリカを見てもわかりますが、テロとの戦いに終わりはなく、非常時がいつの間にか日常化していくのは容易に想像できます。米国内で戦争はないとしても、パキスタンなど中東各地で米国はテロとの戦争を絶え間なく継続し、無人飛行機で爆撃して市民も巻き添えにする戦闘を続けてきました。日本もこのテロとの戦いに巻き込まれる可能性が高まってきました。しかしもしひとたび、非常時となって、全権が首相に譲渡されたとしたら、その期限はあってなきがごとしです。ドイツのヒトラーの場合の全権委任法も4年間という期限をつけた時限立法であったにかかわらず、敗戦の1945年まで4年ごとに更新され続けたことはファシズムの研究者にとっては明白な歴史です。
政治哲学者ハンナ・アレントはファシズムについて次のように書いていました。
全体主義国家のもとでは市民はいつ何が問題で逮捕投獄されるかわからない。戦争するための体制なのだから当然ながら社会の中に秘密事項が増え、その結果、秘密を守るために秘密警察の設置が合理化される。これがファシズム国家での市民生活である。伝統的な立憲国家であれば罪刑法定主義であり、法の順守がまずある。しかし、ファシズム国家になると国家は運動体であり、それは常に国家の内部に敵を作りだすことで求心力を高める政治体制である。そのためには市民は疑心暗鬼となり、常に同朋を密告することを勧められる。ファシズム国家の恐ろしさは戦場にあるだけでなく、銃後の社会全体が丸ごと監視下に置かれ、政府批判をすれば逮捕され、投獄されることである・・・
中山教授はこの治安維持法が戦後、米軍の占領下でようやく廃止された経緯を書き記しているのですが、それは極めて米国の主導によるものだったと言います。
「この治安維持法は、戦後に廃止されたが、それは当時の日本政府の独自の判断によるものではなく、占領軍の強い要請(覚書)によって、ようやく実現したものである。そして、日本国憲法は、「思想及び良心の自由」(19条)をはじめとする基本的人権の保障を前面に押し出すことによって、治安維持法は形式的にも実質的にも憲法に違反するものとなったのである。」
安倍政権は今の憲法は米国によって強いられた憲法だから、日本人にあった憲法に改正しなくてはならないという持論ですが、この考え方でいけば治安維持法も遅かれ早かれ復活して出てくる可能性があるのではないでしょうか。
■山口定著「ファシズム」2 〜全権授与法(全権委任法)と国家総動員法〜
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