2016年04月10日12時08分掲載
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文化
【核を詠う】(番外篇・憲法詠) 「九条歌人の会」編の『歌集 憲法を詠む 第八集』を読む(2) 「デモに散りし樺美智子の顔ふとも 今なお背負うかなしみなりて」 山崎芳彦
「憲法九条を守る歌人の会」(九条歌人の会)編の『歌集 憲法を詠む 第八集」の作品を読んでいるが、この「九条歌人の会」の呼びかけ人の一人に、筆者が「核を詠う」連載の第一回で読ませていただいた長崎の原爆被爆歌人の故・竹山広さんの名がある。竹山さんの名は短歌界を超えて広く知られているし、遺された膨大な作品群を収録した「竹山広全歌集」(ながらみ書房刊)がある。この竹山さんの歌集『空の空』(2007年、砂子屋書房刊)に、「遷りゆく意志』と題する憲法を詠んだ一連の作品があるが、九条歌人の会の呼びかけ人に名を連ねた時期に詠まれた作品として、改めて読み返しながら、筆者は感慨を深くした。その一連を記しておきたい。
竹山さんの作品を記すまえに、佐佐木幸綱氏が俳人・金子兜太氏との対談(『語る 俳句 短歌』黒田杏子編、2010年6月 藤原書店刊、対談は2009年9月29、30日に行われた。)で、竹山さんについて語っている部分を引用させていただく。対談を司会した黒田氏が「現代の歌人と俳人からお一人ずつ、ユニークな作家を挙げてください。読者にとって、こんな作家もいるのだと学びたくなる俳人と歌人を。」と問いかけたのに対して、金子氏が俳人として市堀玉宗の名を挙げ詳しく語っているのに対して、佐佐木氏は竹山広を挙げて語った。その一部を引用する。
「短歌のほうも一人紹介させてもらいます。竹山広さんという長崎在住の歌人で、現在八十九歳です。私と同じく『心の花』の古くからの会員です。一九二〇年生まれですから、金子さんより一つ下です。/なぜこの歌人を取り上げたかということですが、竹山さんは長崎で被爆をされました。原爆にかかわる歌をずっとうたいつづけてきた歌人ですが、短歌史で一番重要な作品を残されたと僕は思っています。広島で被爆した峠三吉(詩人、一九一七~五三)の詩集『夏の花』、同じく広島で被爆した正田篠江(一九一〇~六五)の歌集『さんげ』、井伏鱒二(小説家、一八九八~一九九三)の『黒い雨』、林京子(小説家、一九三〇~)の『ギヤマンロード』など原爆の文学がありますが、竹山広『とこしへの川』以下の歌集は、そのどれにもひけをとりません。短歌では一番です。」
と紹介して、、竹山さんについてその作品を挙げながら詳しく語っている。(竹山さんは、この対談の6カ月後の2010年3月30日に逝去した。)
筆者も、竹山広さんを敬愛する一人であるが、佐佐木氏のこの対談の中での竹山評に深く共感しながら読んだことを、改めて思い起しながら、竹山さんの「遷りゆく意志」一連の作品を記す。
◇竹山広歌集『空の空』の「遷りゆく意志」11首◇
九条を改むべしといふ声すおそろしや国の遷りゆく意志
戦はず軍を持たずと誓ひたりき告解室の青年のごと
敗れたるこころに誓ひ合ひしこと純粋にしてながくつづかず
持て余すまで強大な軍となりぬ防衛防衛と言ひたるままに
国にありわれらにもある面目に営々と育てあげられし軍
雨満つるゆふぐれの空ああかつて非武装中立といふ論ありき
自衛隊の予算を福祉に回せよと声高くいふ党もなくなりぬ
サマワ市民に真水を飲ませやるまでに養ひあげき五十年かけて
隊員二十四万年予算五兆円かかる軍隊につひに仕上げたり
武装せる兵を国外に出ださずと言ひつづけきしことも終りき
憲法にもの申すまで強大な軍となりたりもう戻り得ず
以上が「遷りゆく意志」一連11首だが、このほかにも歌集『空の空』のなかに、
○憲法九条危ふ危ふといふ声のただなかに日日耳は眠りつ
○核兵器保持を言ひ出でし閣僚の誰なりしかをまたしも忘る
○核武装せんとまでいふ 本気だな 一人ではない二人ではない
○兵はいや戦(いくさ)はいやとおし通しきし心魂も耄(ほ)くるにかあらむ
などの歌もある。
「九条歌人の会」編の『歌集 憲法を詠む 第八集』から、応募作品の部を読んでいく。全国各地から寄せられた、憲法を自らの生活、体験、思いにひきつけて短歌表現した作品は、憲法が傷つけられ、壊され、改憲を射程圏にしようと急ぐ勢力の策謀が現実化しつつあるいま、その動きを撥ね返し、許さない力の結集の一翼として大切であると思う。一首一首の持つ力、その背景にある人びとのつながる力を思いながら、読みたい。
◇応募作品①(1人1首、五十音順)◇
駅前に機銃掃射に撃たれいし友を見たりと声詰まらせる
(東京 青木容子)
不戦を誓ふ世界への証憲法を損なふ者をわれは許さず
(静岡 青野たつ江)
五年生で習いし『あたらしい憲法のはなし』戦争の放棄を丸暗記しぬ
(鹿児島 赤崎耀子)
プラスター掲げる全国午後一時炎天の下「アベ政治をゆるさない」
(東京 赤司喜美子)
ゲージにて飼われていたる幼あり三日に一度の食餌のみにて
(東京 秋山公代)
平和への歩みを今日もきざみつつ憲法九条しかと守らん
(東京 浅尾 務)
子も孫も学びし小学校の投票所「戦争立法ノー」私の一票
(東京 阿部美保子)
原爆を受けなかったら結婚もしたろうと語る女性テレビに
(埼玉 新井竹子)
ぱしぱしと線香花火の尽くるまで父と見てゐた昭和の日暮れ
(神奈川 池内桂子)
鉄条の向かうはいつも外国で垂直離陸飛行機の飛ぶ
(神奈川 石井秀樹)
「日本国憲法を遵守します」と宣誓す教職に就きし日の胸の昂揚(たかぶり)
(東京 石川靖子)
声なき声声高となりひひけども何と傲慢 強行採決
(東京 石本一美)
七十年たちても思ふ空襲に見返ることもなく失せし家
(愛知 泉田圭子)
胸深く日本国憲法抱きいて憲法どおりの世を育まん
(埼玉 伊藤敬子)
日比谷公園樹々こぼれ来る光うけ列動き出す九条を守れ
(埼玉 乾 千枝子)
「九条」を記す黄色のバンダナをシャキッと結び今日が始まる
(茨城 岩上順子)
草の根が脈脈育ちし九条の会若きらの根よこの夏うれし
(埼玉 臼井千恵子)
介護され預金通帳残高を厚生省は言うコピーを示せ
(静岡 江川佐一)
憲法は空気となり/害なせば悪ははびこる/夏のひまわり
(千葉 大久保和子)
チェルノブイリ被爆の体験語るのち「ふるさと」を歌うナターシャ・グジー
(埼玉 大島喜美子)
合格率七十九倍とう予科練の海原に散りし昭和の少年
(茨城 太田初枝)
雨がふる爆弾がふる雪がふる自然なことと思ふ子のゐて
(東京 太田征宏)
壕掘る人慰安婦となる人日本は朝鮮の人を人と思わず
(埼玉 大野英子)
九一八八一五戦争十五年命(いのち)累累聖憲法永遠
(東京 大のとくヱ)
人を殺しまた殺される愚かさを正義とよびてゆくを怖るる
(埼玉 大畑悳子)
デモに散りし樺美智子の顔ふとも 今なお背負うかなしみなりて
(東京 岡 貴子)
発想を地球は回ると変えて見よ英知の9条日本憲法
(北海道 岡田三朗)
闇深く安保法案ずんずんと六月の空より雹(ひょう)降り来
(東京 岡田泰子)
県庁に「憲法をくらしに活かす」の垂れ幕を再び掲げると意気込み語る
(埼玉 尾崎真琴子)
いのちとは安きものらしまず総理あなたが敵地へ赴きなされ
(東京 小野かほる)
「伊達判決を今に生かさん」憲法の危機に抗して声上がりおり
(東京 尾山高子)
『あたらしい憲法のはなし』/生徒と音読したあの日/「もう戦争はしないんだ!」/叫んだ
(愛知 香川武子)
よりぬきの憲法学者に崩されて論議の土台に違憲の烙印
(大阪 垣内輝子)
妻を誘い孫の写真を旗にして集団的自衛権反対を叫ぶ
(東京 河西 毅)
アメリカは戦(いくさ)する国につぽんは戦せぬ「九条」掲げゐる国
(高知 梶田順子)
少年兵われを駆り立てし世を矯(ただ)し生れし憲法九条護り継ぐべし
(福岡 勝野禎二)
憲法に定める故徴兵せぬと憲法護らぬ首相の答弁
(新潟 亀山和子)
母子四人月十万で暮らす友餓死線上でなお生きてゆく
(神奈川 河村澄子)
英霊はもういりません アベノミクスの矢はどこまで
(東京 菅野稔子)
昭和の戦争昭和の戦後も消してゆく<平成>といふウイルスの毒
(東京 菊地宏義)
一億玉砕を言挙げて生(せい)ありし身は憲法九条の不戦を誓ふ
(東京 木下孝一)
七十年一人も撃たず殺さずの憲法九条まもらむぞ夏
(埼玉 轡田正江)
自らの言葉で集会・デモ行進シールズの活動 若さ輝く
(埼玉 黒崎美芳)
海外に兵を送るは違憲なり見過ごしはせぬ私は主権者
(長野 黒田晃生)
国会前を埋める人、人、人叫んでさけんで叫んで反対
(千葉 黒沼春代)
生きることを恥とした時代の再来 迷彩服に死ぬことの意味を
(群馬 剣持政幸)
次回も『歌集 憲法を詠む 第八集』の作品を読む。 (つづく)
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