2016年05月05日23時59分掲載
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核・原子力
天の声、地の声、人の声。原発の運転をただちに止めよ 根本行雄
2016年3月9日、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)を巡り、大津地裁(山本善彦裁判長)は「安全性が確保されていることについて(関電側は)説明を尽くしていない」などとして、運転の差し止めを認める決定を出した。4月6日、福岡高裁宮崎支部(西川知一郎裁判長)は九州電力川内(せんだい)原発の運転を容認した。原発運転に伴う事故の可能性について、社会では「ゼロリスク」を求めていないと認定し、大津地裁決定とは異なる判断をした。4月14日、熊本地震が発生し、被害が拡大している。2つの判決と熊本地震、天の声、地の声、人の声、さまざまな声が聞こえてくる。事故が起きる前に、すべての原発をただちに止めよ。
2011年3月11日、東日本大震災が起こり、東京電力福島第1原発が爆発し、メルトダウンを起こした。多くの人が被災した。人的にも、物的にも、その被害は深刻なものである。この大災害が起こるまで、国や電力会社は「原発には大事故は起きない」と宣伝し、それを信じている人が多かった。そして、今もなお、「原発には大事故は起きない」と思い込んでいる人々がいる。この2つの判決が大きく判断が異なった要因は、「原発には大事故は起きない」と思い込んでいるかどうかなのだ。
大津地裁の仮処分決定の要旨は次の通り。
■安全性の主張立証責任の所在について
福島第1原発事故を踏まえ、原子力規制行政が大幅改変された後の事案だから、関西電力は原子力規制行政がどう変化し、本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどう強化され、関西電力がこの要請にどう応えたかについて主張及び疎明を尽くすべきだ。
■過酷事故対策について
相当の対応策を準備していると言えるが、新規制基準以降になって設置されたのか否かは不明だ(空冷式非常用発電装置や号機間電力融通恒設ケーブル及び予備ケーブル、電源車は新たに整備)。
新規制基準で新たに義務化された原発施設内での補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことが相当の根拠や資料で疎明されたとは言い難い。
使用済み燃料ピットの冷却設備も基本設計の安全性に関わる重要な施設として安全性審査の対象となるというべきだ。使用済み燃料の処分場さえ確保できない現状はあるが、使用済み燃料の危険性に対応する基準として新規制基準が一応合理的であることについて、関西電力は主張及び疎明を尽くすべきだ。
■耐震性能について
敷地ごとに震源を特定して地震動を検討する方法自体は従前の規制から採用されているが、現在の科学的知見の到達点として、ある地点(敷地)に影響を及ぼす地震を発生させる可能性がある断層の存在が相当程度確実に知られていることが前提となる。
関西電力はこのように選定された断層の長さに基づき、その地震力を想定するものとして選択した方式が、地震規模想定に有益であることは当裁判所も否定しないが、その基となったのはわずか14地震だ。サンプル量の少なさからすると科学的に異論のない公式と考えることはできない。
■津波に対する安全性能について
新規制基準の下で特に具体的に問題とすべきなのは、1586年の天正地震の震源が海底であったか否かだが、これが確実に海底であったとまで考えるべき資料はない。しかし、海岸から500メートルほど内陸で津波堆積(たいせき)物を確認したとの報告もみられ、関西電力の津波堆積物調査やボーリング調査の結果によって、大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか、疑問は残る。
■避難計画について
関西電力は万一の事故発生時の責任は誰が負うのか明瞭にし、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要がある。不合理な点がないか相当な根拠、資料に基づき主張する必要があるが、尽くされていない。
■差し止めの必要性
本件各原発については、福島第1原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点がある。津波対策や避難計画にも疑問が残るなど、住民の人格権が侵害される恐れが高いのに、その安全性が確保されていることについて関西電力が主張を尽くしていない部分がある。3号機は1月29日に再稼働し、4号機も2月26日に再稼働したので差し止めの必要性が認められる。
福岡高裁宮崎支部の決定要旨は次の通り。
【司法審査の在り方】
どのような事象でも原子炉施設から放射性物質が放出されることのない安全性を確保することは、少なくとも現在の科学技術水準では不可能だ。わが国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかの社会通念を基準として判断するほかない。
【新規制基準の合理性】
基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)の策定、耐震安全性確保や重大事故対策に関する新規制基準に不合理な点はなく、施設が新基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も不合理とは言えない。九電は相当の根拠、資料に基づく説明を尽くした。
基準地震動を上回る地震のリスクはゼロではないが、耐震安全性の確保の観点から新基準は極めて高度の合理性を有する。住民に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在するとは言えない。
【火山の危険性】
火山の噴火時期や規模を的確に予測できるとする規制委の前提は不合理だが、日本全体で見れば破局的噴火は約1万年に1回程度だ。極めて低頻度で経験したことがない規模の自然災害の危険性については、安全性確保の上で考慮されないのが実情であり、無視できるという社会通念がある。このような危険性を自然災害として想定するかは政策判断に帰するが、現行法制度では想定すべきとの立法政策は取られていると解釈できない。立地不適とは言えない。
【その他の危険性】
竜巻による飛来物が使用済み燃料ピットに衝突し重大な被害が生じる具体的な危険があるとは言えない。テロリズム対策も新基準に適合するとした規制委の判断は不合理ではない。戦争による武力攻撃対策は国の防衛政策に位置づけられ、危険性を検討する余地があるとしても、九電による人格権侵害の恐れがあるとは言えない。
【避難計画の実効性】
避難計画は、施設からの距離に応じた対応策が合理的かつ具体的に定められていることを確認したとして原子力防災会議で了承されている。段階的避難の実効性や避難経路の確保などの問題点を指摘することができるとしても、避難計画が存在しないのと同視することはできない。原発の運転で、直ちに九電による人格権侵害の恐れがあるとは言えない。
「ゼロリスク」という発想法
大津地裁(山本善彦裁判長)は想定を超える災害が過去にたびたび繰り返されてきたことに触れ、原発が新規制基準に合格したとしても「公共の安寧(社会平和)の基礎にはならない」と指摘し、基準地震動についても「安全上の余裕をとったとは言えない」とした。
福岡高裁宮崎支部(西川知一郎裁判長)は、原発運転に伴う事故の可能性について、社会では「ゼロリスク」を求めていないと認定した。「新基準に反映された科学技術知見が最新であっても、予測を超えるリスクは残る」として、「ゼロリスク論」を排除し、「リスクは残るものの、具体的な危険が存在するということはできない」とした。
政府は2011年3月の東京電力福島第1原発事故を受け、原発の安全対策を厳しくする新規制基準を導入した。政府は、安全対策を厳しくすれば、「原発には大事故は起きない」と思い込んでいるばかりか、たとえ、起きたとしても、さまざまな設備や対応策をとることにより、住民の避難計画などの対策をとり、その被害を最小にすることができればいいのだと思い込んでいる。原発を推進している人々は、そのような政府の態度を歓迎し、容認している。
この2つの判決も、政府の態度も、原発を安全に管理し、運転できるという立場からのものである。それは大きな誤りである。彼らは、原発が安全に、事故を起こさずに廃炉になったとしても、原発の施設も、さまざまな設備も、廃棄物となり、放射能のゴミとなるということを忘れている。
原子力発電は、ウランの核分裂を利用して電気を作るシステムである。ウラン原子が分裂したあとのかけらが放射能となる。いろいろな放射能ができるが、その中でもプルトニム239の半減期は2万4100年とされている。わたしたち人類の祖先であるホモ・サピエンスが地球上に誕生したのが約4万年前だから、桁違いの長さである。
放射能からはさまざまな放射線がでる。私たち人間が放射線を一度に大量にあびると即死する。ごく微量でも、細胞にはさまざまな悪影響が起こる。原発とはこのような放射能を生み出してしまうシステムである。
そして、原発が安全に、事故を起こさずに廃炉になったとしても、原発の施設も、さまざまな設備も、廃棄物となり、放射能のゴミとなる。これらを少なくとも、1万年以上は厳重に管理しなければならない。
私たち人間の寿命は長めにみても、約100年である。そのような人間がこのような危険なものを1万年以上も、厳重に管理することができるだろうか。できるはずがない。
政府も、電力会社も、御用学者も、2つの判決も、私たち人間には原発の廃棄物を厳重に、安全に、管理することはできないということを理解していない。
フクシマ3・11が起きるまで、政府、電力会社、御用学者たちは、原発は「安全だ」、「安上がりだ」と主張し、「何重もの安全装置があるから大丈夫だ」と宣伝してきた。しかし、今もなお、原子力発電を推進し、継続しようとしている人々は、設備の安全性、地震、津波などの自然災害対策、避難計画など、さまざまな対策を立てさえすれば、原発は「安全だ」、「安上がりだ」と主張し続けている。原発を管理し、たとえ事故が起こったとしても、その被害を最小限にし、住民の安全を守ることができると宣伝をしている。そして、今もなお、原発の再稼働を推し進めている。規制委は19日、伊方原発3号機の再稼働前に必要な全審査を終えた。20日には関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)について新規制基準に適合しているとする審査書を正式決定した。これで新基準に適合した原発は計7基になった。
4月14日に熊本県熊本地方で発生したマグニチュード(M)6・5の地震(震度7)以降続いていた一連の地震は、16日未明のM7・3の「本震」を経て、同県阿蘇地方や大分県も含めた3地域で同時多発的に地震が相次いでいる。16日未明のM7・3の地震の規模は阪神大震災に匹敵する。広い範囲で強い揺れを引き起こし、被害の拡大を招いている。
気象庁によると、熊本、大分県を中心に続いている地震の発生回数(震度1以上)は14日夜から28日正午までの累計で1006回に上った。比較的早いペースといい、同庁は「さまざまな所で地震が起きているからでは」とみている。
熊本地震で、気象庁は16日にマグニチュード(M)7.3の地震が発生して以降、「余震発生確率」の発表を取りやめている。大きな地震が発生した際に防災情報の一つとして発表してきたが、震源域が拡大するなど「過去の事例にあてはまらない」事態となり、余震発生確率を出せない状態が続いているからだ。
国土地理院(茨城県つくば市)は21日までに、熊本県を中心とする地震を起こした布田川断層帯と日奈久断層帯に沿って、上下方向に最大で1メートル以上の地殻変動があったことが人工衛星の観測で分かったと発表した。
九州中央部は活断層が連なる「別府-島原地溝帯」がまたがり、地震が起きやすい地域とされている。熊本から大分を結ぶ線の先に、四国から近畿に続く国内最大級の断層群「中央構造線断層帯」があり、南側には伊方原発が建っている。
毎日新聞(2016年4月25日)の「それでも原発再稼動か」という記事に、米原発会社「ゼネラル・エレクトリック」で18年間、原発技術者として働いた原子力コンサルタントの佐藤暁さんの意見が紹介されている。
「米国では、原発周辺に大型ハリケーンが来襲すると予報されれば原発を止める。原発に被害がなくても、送電線や鉄塔が倒壊して外部電源が喪失し、深刻なリスクを及ぼしかねないからだ。地震も同様。本震で原発が大丈夫でも、余震で送電線などが損傷する可能性があると考えれば、あらかじめ運転を止める選択もある」
熊本地震は、日本が「地震大国」であることを改めて再確認させた。続発する揺れによる被害拡大が心配でならないが、それとともに、心配でならないのは原子力発電所への影響だ。一連の震源域の近くには、全国で唯一稼働している九州電力の川内(せんだい)原発(鹿児島県)と、海を挟んで四国電力の伊方原発(愛媛県伊方町)がある。政府と、原子力発電を推進し、継続しようとしている人々は、今でもなお、川内原発の運転を止めず、その他の原発でも再稼働に向けた準備を進めている。第2のフクシマ3・11が起こらないと、原発を止めようとしないようだ。
事故が起きてからでは遅い。すべての原発の運転をただちに止めよ。
追記 この文章を書くにあたって、いつもように、毎日新聞の記事を参考にさせてもらっている。本来ならば、一つ一つ、記事の掲載日時と記者の名前を明記すべきところであるが、読みづらくなるのを避けるために、今回は割愛し、明記しなかった。
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