2016年05月08日23時52分掲載
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核・原子力
【たんぽぽ舎発】熊本地震と免震棟 九電川内原発が放棄した安全対策 山崎久隆
熊本地震が起きる直前に免震構造で作るべき緊急時対策所を含む重大事故対処施設を、原子炉建屋と構造が同じ耐震構造で作るとし、震源が拡大し続ける中でも運転を止めるつもりがない九州電力の行為は、到底許されるものではない。この安全対策の値切りを規制委員会が「結果として」受け入れるならば、福島原発震災の教訓どころか、これまでの安全対策要求さえ放棄するものとなる。(本文から)
◆免震重要棟がなかったら、東京も避難地域になっていたかも知れない。
3000万人の広域避難が現実のものとなっただろう。
そのことは吉田昌郎所長や清水正孝社長(いずれも当時)の証言により明確だ。
福島第一原発事故の教訓を踏まえて作られることになったのが免震構造の建屋による緊急時対策所だったはずである。
原子力規制委員会が策定した規程『実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈 第61条』の『a)基準地震動による地震力に対し、免震機能等により、緊急時対策所の機能を喪失しないようにするとともに、基準津波の影響を受けないこと』と規定したのである。すなわち、緊急時対策所が免震機能を有することを求めていると解釈するべきだ。
同第39条の規程には地震による損傷の防止として『例えば、設計基準事故対処設備は剛構造であるのに対し、特定重大事故等対処施設に属する設備については、免震又は制震構造を有することをいう。』と明確だ。
なお、特定重大事故対処施設とは、航空機の墜落やテロ攻撃による破壊を受けても炉心溶融を防止することを目的として設置されるものだ。
◆免震機能を要求していることの意味
設置許可基準規則の解釈において緊急時対策所に免震機能を要求していることの意味は何か。
設置許可基準規則34条で、緊急時対策所を原子炉制御室以外の場所に設けることを要求しているのは、原子炉を冷温停止させるために必要不可欠な制御室が使えない場合、代替手段として同等の機能を有する設備が必要になるからだ。
今回の熊本地震のようなケースを例に取るならば、制御施設が使えなくなった場合、原子炉建屋ないし補助建屋にある制御室は剛構造の耐震構造であるが緊急時対策所が同じ耐震構造であるとしたら、揺れの大きさにより制御室が損傷を受けるような規模であるとすると同程度の強度を有する緊急時対策所も同じく使用不可能となる危険性が高いと見るべきだ。しかし緊急時対策所を免震構造にしておけば、そのリスクは明らかに低くなる。
耐震構造(岩盤に岩着させて強固に作ること)で作られている原子炉制御室と免震構造で作られている免震施設は、2種類の異なる構造で安全性をより強化したものである。
設置許可基準規則の解釈で、「免震機能等により、」と明記している以上、規制委員会の求める性能は明らかに緊急時対策所を免震機能で建てることを要求している。
◆法令に違反する九州電力
熊本地震が起きる直前に免震構造で作るべき緊急時対策所を含む重大事故対処施設を、原子炉建屋と構造が同じ耐震構造で作るとし、震源が拡大し続ける中でも運転を止めるつもりがない九州電力の行為は、到底許されるものではない。
この安全対策の値切りを規制委員会が「結果として」受け入れるならば、福島原発震災の教訓どころか、これまでの安全対策要求さえ放棄するものとなる。
もともと「免震重要棟」と呼ばれる緊急対策施設が東電福島第一原発に存在したのは、中越沖地震により被災した柏崎刈羽原発の教訓からであった。
その必要性は2007年から明白であったのに、東電が新潟県から要求されてやっと建てたのである。もし福島にそれがなかったならば、地震とその後の爆発による爆風で大破した事務棟に居続けることになった従業員と下請作業員に大量の死傷者が出た後、全員が退避を余儀なくされたであろう。
◆泉田裕彦新潟県知事の談話
「2007年の中越沖地震の時、柏崎刈羽原発の東電のサイトと連絡が取れなくなりました。ホットラインのある建物が地震で歪んでドアが開かず、入れなかったというのですが、地震の際、事故は複合で起きるわけだから、ホットラインが使えないと困ると、かなり言ったんです。もう知事、そろそろいいんじゃないかという話も多々ありましたけど、断固としてやってくれと言った。そうしたら造ってくれたのが免震重要棟なんです。あわせて、福島にも免震重要棟を造った。完成したのが、東日本大震災の8か月前でした。だからあの時、私がひよって、言うべきことを言わなかったら、あの福島に免震重要棟はなかったんですよ。免震重要棟がなかったら、いま東京に住めないんじゃないですか。」(「注目の人直撃インタビュー」より日刊ゲンダイ2013年10月24日)
免震重要棟がなかった場合、1号機のほとんど真横に建っている事務本館で収束作業を行なわねばならないが、地震の被害を受けていた上、原発の爆発をまともに受け、大勢の犠牲者が出て緊急対策施設としては機能を失ったであろう。(幸い、事務本館は入室禁止で爆発時に誰も居なかった)
その結果、作業ができる人は誰も居なくなり、結果として関東一帯を含む170から250キロ圏が居住不能地域になったかもしれない。被災者は3000万人にも上ったであろう。
東電の清水正孝社長(当時)も2012年の国会事故調の参考人聴取で「あれ(免震棟)がなかったら、と思うとぞっとする」と証言している(国会福島原発事故調査委員会・第18回委員会にて2012年6月8日)。
それでも福島第一の免震重要棟は災害規模に対して狭すぎた。現場作業を行った人々はろくに休むところもなく、廊下や床に段ボールを敷いて寝ていたという。おそらく体調を崩す人が大勢いただろう。
死にたくないのだったら原発職員こそ声を上げるべきだ。
◆免震機能設備は規制基準の要求だ
免震棟は九電の社長が言うように「同じような機能があればいい」という程度のものではない。「基準規則第61条」には「重大事故等に対処するために必要な指示を行う要員がとどまることができ」「重大事故等に対処するために必要な情報を把握できる設備を設けたもので」「内外の通信連絡をする必要のある場所と通信連絡を行う」ことができることと規定している。
この法令解釈で言っているのは「基準地震動による地震力に対し、免震機能等により、緊急時対策所の機能を喪失しないようにする」ことである。
そして「例えば、設計基準事故対処設備は剛構造であるのに対し、特定重大事故等対処施設に属する設備については、免震または精神構造を有することをいう」(関西電力 高浜原発・設置許可規則基準規則と技術基準規則の比較表より)としている。特定重大事故等対処施設は航空機墜落やテロ攻撃を想定しているが、基準地震動を超える地震時(残余のリスク)にも持ちこたえることを要求していると考えるのが妥当だ。
緊急時対策所の機能喪失を防ぐには免震機能でなければならない。それは耐震構造だけでは出来ない。耐震構造ならば原発こそ最も高い耐震性を有するが、福島第一原発で見ても分かるとおり建屋がどんなに頑丈に出来ていても、大きな揺れに揺さぶられて内部の構造が破壊されては元も子もない。特に電源や配管周りは脆弱であり、建物が強固であればあるほど附属設備が脆弱ならば破壊される危険性は高まる。
要求される免震機能の建屋には、過酷事故対策のための設備を入れる。指揮命令を行うスタッフが常駐し、大勢の人々が被曝を避けて待機できるスペースと、第二制御室の設備にバックアップの電源装置、冷却材を注入する配管などが複雑に設置されるはずだ。こんなものを剛構造で基準地震動に耐えられるように作るのならば原発をもう一基建てるほどの金をかけなければ無理だ。
もとより事業者は、そんなことをする気はさらさらない。免震棟で作るならば100〜200億円程度、耐震構造で想定するのはその半分以下だ。
そのような災害が予見できる時に、事故収束の拠点となる施設を免震構造で安定した設備として作る必要性を認めない電力会社に、そもそも核を扱う資格などない。これだけで原発の設置許可が取り消されてしかるべきだ。
◆九電川内原発の運転を止めよ
熊本地震が収まっていないからこそ声を大にして訴えたい。免震棟を含む過酷事故対策設備もない、避難経路は地震や津波で壊滅する。次の地震が川内原発を直撃したら、同じ規模でさえ最悪の過酷事故を起こしかねないばかりか、発電所職員も周辺住民も放射性物質から逃れる術もない。
九州から四国沖にかけて、地震活動が収まるまでは緊急停止すべきだし、それが収まったとしても緊急時対策所と重大事故対処施設を免震構造の建物に設置し、それでも安全性が保たれるかを地震学者や地質学者と周辺住民も含めて十分議論し結論を見るまでは、再稼働はすべきではない。
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