2016年05月29日03時51分掲載
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国際
パリの「立ち上がる夜」 市民が自前で広場に設置したテレビ局「立ち上がるTV」の人気インタビュアー Marjorie Marramaque
パリの共和国広場では夜ごとに市民が集まって様々な議論を繰り広げています。民主主義について。今、国会で議論されている労働法改正問題について。格差社会やパナマ文書について。男女間の差別や住宅問題について、難民問題について。そのほか様々。ここに小さな放送局が生まれ、毎日議論の模様をyoutubeで紹介しています。
有志が民生用機材を持参してつなげた最小限のスタジオ。パソコン2台に小型ビデオカメラ2台。そして小さな椅子が3つ4つ。その市民テレビ(TVdebout=立ち上がるTV)のインタビュアーがマージョリー・マラマク(Marjorie Marramaque) さんです。以下は「立ち上がるTV」の番組のリンクで、マラマクさんが市民オーケストラの指揮者にインタビューをしています。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=87&v=ldQYwWRPeO0
マージョリー・マラマクさんにどういういきさつで「立ち上がる夜」に参加し、市民テレビの司会をしているのか聞いてみました。
(マージョリー・マラマク)
私は映画の助監督です。実を言うと高校には行っていませんし、高等教育を受けたことすらありません。私はセルフメイドの人間です。ジャーナリストでもないのです。「立ち上がるTV」に参加するまで、インタビューをしたことは一度もないんですよ。
「立ち上がる夜」(Nuitdebout)で行った私の最初のインタビューですが、私がカメラに映った最初の映像に関しては、インタビュアーは別の人でした。ギリシアからヤニス・バルファキス元財務大臣が共和国広場に来ていることがわかって、「立ち上がるTV」(TVdebout)でインタビューをしようということになったのです。それで通訳が必要になりました。バルファキスさんは広場の総会に参加しましたが、そこでの通訳のスピードが遅かったためにその通訳から離れてしまったんです。そこで私が通訳をやりましょうと申し出たのです。でもそれは難しい経験でした。というのは周囲の雑音が大きくて聞き取り自体が難しかったのです。そのうえ、バルファキスさんはとても早口なんですよ。でもなんとかうまくやりとげることができました。彼も満足してくれました。これが私が「立ち上がるTV」(TVdebout)でカメラの前に立った初体験でした。この体験で私は自分の役割に目覚めることができたわけです。
(以下がバルファキス氏のインタビュー映像。マラマクさんはバルファキス氏の英語をフランス語に同時通訳している)
https://www.youtube.com/watch?v=CLDeKCiS3ek
バルファキスさんのときは別にして、私が行った最初の「立ち上がるTV」(TVdebout)のインタビューは映画監督のシリル・ディオンへのインタビューだったと思います。彼は「明日」(Demain)というタイトルのドキュメンタリー映画を作りました。女優のメラニー・ローランとの共同監督作品です。ディオン監督は映画を共和国広場で無料上映することに賛同してくれました。劇場公開中であったのもかかわらずです。それは監督からの素敵な贈り物でした。広場に集まっていた人々はメディアに登場する著名人に対しては多少懐疑的でした。そんな中、ディオン監督は広場についたとき多少やじられましたが、映画上映が終わるまでじっとその場で待機していました。映画に対する質疑応答を行うためでした。広場は寒かったのですが、たくさんの人々がそこにとどまっていました。そして映画のクレジットが流れると大きな拍手が起きました。それは監督が映画で提示したことや映画作りに費やした情熱に対する観客の感謝のしるしでした。シリル・ディオン監督は惜しげなく、辛抱強くみんなの意見に耳を傾けました。それは素晴らしい出会いでした。私自身もディオン監督に出会って新たな道を拓くことができたのです。
これまで何十人とインタビューしてきた中で印象に残ったものの1つが暴力理論委員会の人びとへのインタビューでした。この委員会の人たちは街の広告や銀行とかマクドナルドの外側が襲撃の対象になる理由を説明していました。そこにはよい労働者やおとなしい消費者になるような考え方はありませんでした。世界の人びとは資本主義のシステムによって大きな暴力にさらされているため、このシステムを拒否しようというのです。
また10歳の子供のルカ君のことも思い出します。ルカ君は総会で発言したのですが、そのあとテレビの方にお母さんと一緒に来てもらいました。ルカ君は「お金はよいものではありません」とみんなの前で発言したのです。私はルカ君の母親がいったいどのようにして、子供たちに自分たちを取り囲む世界を批判的に見つめるようになることを教えなくてはならない、と言う風に考えるようになったのか理解したいと思ったのでした。インタビューの終わりに少年は母親の手からマイクを奪って「いったいどこにテレビで報じられているような乱暴者がこの広場にいるんだい?どこにもいないじゃないか!」と言ったのです。このエピソードはそれまでのどんな長い言葉よりも、私の中に大きな希望を呼び起こしました。
私は学校を15歳の時に去り、バカロレアの試験は受けていません。ですから、私のバカロレアは2以下ということになります。フランスの学校制度では5年間の中等教育を受ければ+5という単位を得ることができます。でも、私は成績は良かったのです。語学は英語、ドイツ語、日本語、ラテン語の4言語を履修していました。グランド・ゼコールに挑戦することもできたでしょう。でも、私は十分に学校教育は受けたと思ったのです。私の母は私が子供の頃から自分でものを考えるように教育してくれました。私は読むことも書くことも計算することもピアノを演奏することも英語の勉強も4歳から始めたのです。ですから常に他人より2年早くものごとを学んでいたのです。とりわけ数学がそうです。私はある時ゼロ点をつけられたことがありました。フランスではFという烙印です。数学教師が教えたのとは異なる方法で問題を解いたからで、結果は同じなのですが、私がカンニングしたと教師は考えたのでしょう。
私は自分で学ぶことが好きで、自分の自由を守りました。そして15歳から働きはじめ、一人で生きるようになりました。これまでに様々な仕事をしてきたものです。ウエイトレス、ホステス、電話マーケティング、販売員などなど。その後、やがてレストランでの地位も上がっていきました.私は常識と反射を使って若いころからやるべきことを成し遂げてきました。そのおかげで、共同プロジェクトのコーディネートの仕事に携わるようになり、そして最後に映画の助監督の仕事に就きました。
私はこれまでいかなる政党にも所属したことがありません。でも常に私は左翼でした。母は私に人文主義的な価値と、社会主義的な価値を教えてくれました。母はアルジェリアからフランスに逃げてきましたが、というのはアルジェリアにおいては女性の権利が確立されていなかったからでした。そこでは女性は男性の欲望に奉仕する存在なのです。そうした文化であるとともに、宗教の解釈もそのようなものだったのです。母は私に自分の人生の主役になるように、と常に教えてくれました。心も、体もです。母は常に物事をよく考え、問いかけたり、興味を持ったりするように促してくれました。また私に80年代の当時に存在した唯一の黒人のバービー人形を買ってくれました。また、母の友達にはゲイの人が多かったため、私の周りにはそうした人々がたくさんいました。彼らは私の実の父親以上に私の面倒を見てくれました。しかし、そんな中の一人は1984年に石打の刑で殺されてしまったのです。それはホモフォビアによる犯罪でした。私はそのときの葬儀を覚えています。この記憶から私はいかなる人間も誰か別の人の上に位置付けることを断じて拒否します。思うにお金と言うものは個人の生活の便利のために作られたものです。それは人々の生活の利便のために存在するので、人々がお金のために存在するのではないのです。一人の人間の生活以上の価値を持った商品というものはありません。
今日私は相応の身の処し方をすればたくさん稼ぐこともできるのですが、それはしたくありません。私の生き方がそういう道とは別の道を選ばせるのです。自分を裏切り、自分を失うくらいなら、お金が不足している方がよいのです。私は自分の脚本や映画で自分の役割を成し遂げることに希望を持っています。それが私のよい生き方なのです。でも、そのためには誠実さが入りますし、金や権力のために何十万と言う人々の暮らしを踏みつけるような、低俗な人びとの仲間には入りたくありません。
私はもっと多くの人の役に立つ存在になりたいと思い始めて2年になります。ただお金を稼ぐだけの目的で朝目を覚ますことはもうできないと思います。たとえば広告の仕事を行うことは良心の問題を呼び覚まさずにはおきません。私には1つのシステムを批判することも、またそれを改めさせて絶え間なしの消費に追いやることもできませんでした。私はどのようにしたら自分自身を有益な存在にできるのだろうか、と思い悩みました。たとえばBourgetではCOP21のときに国連のために仕事をしました。メディアの部屋を用意したりする仕事でした。国の首脳や要人らをNGOの記者会見などにも参加させたりしていました。そこでいろいろなことを吸収しました。国連の人材募集サイトに応募したり、世界の医師団に応募したりと何度となくこの世界の仕事にトライしました。でもそれらは結局採用されることはなかったのです。
私は先月、家族の事情でフランスの南部に行ったのですが、そこで「立ち上がる夜」(Nuitdebout)のことが話されているのを聞きました。私はパリのペールラシェーズ周辺に住んでいますが、共和国広場から遠くありません。シャーリー・エブド襲撃事件やバタクラン劇場への襲撃事件などが起きてから、追悼のためによく共和国広場に行くようになったのです。蝋燭にみんなで火をともすのです。南部から帰ってきてから、共和国広場で行われていた総会に参加し、そこでの話に耳を傾け、何かを感じ、エネルギーに触れたのです。とても素晴らしい思いになり、あまり孤独ではない気がしました。いろいろなところでこの運動の手伝いをしようと申し出ました。最初はロジスティックの役割を担当しましたが、そのあと市民テレビ局「TVdebout」(立ち上がるTV) をやるようになったのです。私は翌日、呼ばれました。運動が水平組織であることを強く求めていたおかげで作業効率は悪かったのですが、というのもコーディネーションと言うものは垂直的な権力構造に類似しているからですが、ともかく、広場の様々な委員会の人びとの名前や連絡先をメモしていき、彼らを市民放送局に招いて、彼らが話せる場を用意していきました。このように始まって、ずっと私は「立ち上がるTV」(TVdebout)を担当しています。
「立ち上がる夜」(Nuitdebout)についての見方は少しずつ出来上がっていきました。時間を要したことはよい兆候です。即席には長期間持続する基礎を築くことはできませんから。今のシステムに代わるものを築くためには今あるシステムを理解しなくてはならないですし、その規則がいかに私たちの無意識に刷り込まれているかを知る必要があります。今の枠組みから逃れて、遠くへ行くことが大切です。ここパリではその転換が見られ、同時にその他でも始まっています。グローバルdeboutはすでにこの運動が労働法改正問題にとどまらず、さらにはフランス一国にとどまるものではないことを示しています。これは欧州にわたる運動なのであり、というのは労働法改正の動き自体が欧州連合の本部のあるブリュッセルからもたらされているからです。そこにはたくさんの産業界のロビーストが徘徊しているのです。タフタ(Transatlantic Free Trade Area)もまた同じ構造です。諸政府は国民が与えた権力を多国籍企業に譲渡しているのです。これは欧州だけでなく、全世界で起きていることであり、というのも全地球が資本主義によって脅かされているからなのです。人間だけでなく動物や土壌も問題になっており、さらに地球温暖化も起きています。これらは金を儲けられるならどうなってもいい、という精神がもたらしています。私たちの世代は人類史上最初の後退する世代です。ここでストップせよ、と言うのです。私たちはすでに遠くまで来すぎてしまったのです。
私たちはこの自由化の代償を支払わなくてはなりません。私たちは犠牲になる世代です。セックスは死につながり、祝祭は警察につながってしまう。タバコはがんに、速度は危険に、栄養は毒素に、私たちには何も認められていない。そして雇用は規制緩和されようとしています。でもまだ考える時間は持てます。今を大切にしないとこれから先、もっと自分自身について考える余裕がなくなっていくでしょう。人間であることは働くこと?どんな代償を払っても働かないといけないの?尊厳のある暮らしが営めるだけの給料をもらえないのに、嫌な仕事を毎日やらされて、奴隷のように生きなくてはいけないのかしら?今、私たちの最期の鈴が鳴り渡っているように思います。どこに私たちがいようとも、自分たちの自由や尊厳を売り渡すことを拒否すること。金を稼ぐためにそんなことをする必要はないのです。なぜなら、自由も尊厳も売り渡すことができない私たちのものだから。これが「立ち上がる夜」(nuitdebout)の真実のメッセージなのです。これは奴隷の反乱なのです。
Marjorie Marramaque マージョリー・マラマク
TV debout (interviewer) 立ち上がるTVインタビュアー
インタビュー
村上良太
★ドキュメンタリー映画「明日」のPR映像
http://www.demain-lefilm.com/
以下は監督へのインタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=rkXluaB5fSY
■TAFTA(大西洋自由貿易圏)やTTIP =(欧州版TPP)を論じるパリの市民TV局
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