2016年06月04日02時46分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
TAFTA(大西洋自由貿易圏)およびTTIP=(欧州版TPP)を論じるパリの市民TV局 市民の機材持ち寄りとボランティアで公共の広場に設立 今論じるべきことを情報操作なく論じる
パリの共和国広場で続いている夜の市民の討論運動Nuitdebout(立ち上がる夜)。始まっておよそ2か月、63日目の今日はTAFTA(大西洋自由貿易圏)およびTTIP(Transatlantic Trade and Investment Partnership=環大西洋貿易投資パートナーシップ)などについて話し合いが行われ、インタビューがyoutubeにUPされた。ちなみにTAFTAとTTIPとは実質的には同じものである。TPPがアジア太平洋圏とアメリカ大陸を結ぶとすれば、TAFTAは欧州連合とアメリカを結ぶ自由貿易協定である。これにより8億人の市場が生まれるとされる。
「立ち上がるTV」(TVdebout)はこの日、「TAFTAの夜」と銘打ってエコノミストを広場の特設ミニスタジオに招いて、じっくり話を聞いている。話の要点はTAFTAによって起こりうる懸念である。エコノミストが話すだけでなく、運動に参加した弁護士も自分の視点から話している。1時間10分くらいにTAFTAの解説ビデオも挿入される。
https://www.youtube.com/watch?v=JMB0jEhR4UE
通常の放送局なら、政権に配慮した想定台本が作られて様々な細々したプロフェショナル的工夫のもとに放送されることになるが、共和国広場の簡易TV局「立ち上がるTV」は2台の民生用小型ビデオカメラと2台のパソコンでつないだもので、ほとんど打ち合わせすらなく、話し手を呼んで椅子に座ってもらって話してもらう。司会は適宜、聞きたいことを尋ねる。実に素朴な作り方だが、それだけに話し手に30秒でまとめろ、というような指示を出す人もいない。また、「朝まで生テレビ」のような暴力的な話の中断とか怒号もない。放送時間枠にあまりとらわれず、じっくり人の話を聞ける。これはインターネットメディアの特性である。「立ち上がるTV」(TV debout)は厳密に言えば放送ではなく、youtubeで視聴することを前提にしている。
視聴者は決して多くはないが、それでも自由に自前のコンテンツを広場で作ってすぐにインターネットにUPすることを毎日毎日続けている。司会をしているマージョリー・マラマク(Marjorie Marramaque)さんはこの広場で起きている議論を広場に来れない人にも伝えたいと思い、参加したという。マラマクさんにとってビデオカメラの前で司会をすることもインタビューをすることも初めての体験だ。市民が自由に意見を表明できることが大切なのである。そして、通常の地上波のTV番組ではほとんど聞くことができないNGOなど様々な取り組みをしてきた人びとの考えにじっくりと耳を傾けることができる。
パリは今、大雨が降り、セーヌ川の水位が限界寸前となっていてルーブル美術館などでは美術品の避難作業に入っている。そんな中、広場では今夜も雨の中、テントの下で議論が行われている。終わりごろ、飛び入りだろうか、住宅問題に取り組んでいるらしい男性やホームレスらしい人も自分の思いをマイクで話し始めた。パリは家賃の高騰などもあり、住み家のない難民のこともあり、住宅問題で困っている人も少なくないのだ。住宅で困っている人が集まって、暮らすための場所を持つための行動をパリ市庁舎前で起こそうと呼びかけた。このような困窮者による自発的な言葉はこれまで日本のTVで一度も見たことがない。困窮者は可愛そうな人びとという目線でしか語られない。可愛そうな人である限りで愛されるが、対等の権利を要求して自分で意見表明したりすることは許されない。それに日本ならセキュリティにつまみ出されただろう。
この「立ち上がるTV」は仕事や学校が終わった夜に三々五々、共和国広場に集まってくる「立ち上がる夜」の中の1部門として発足したもの。少しの機材を持ち寄って立ち上がったもので、維持費はほとんどかかっていない。というのは一種のクラブのような形で、仕事のオフの夜の時間帯にやっているので、人件費がかかっていないことがある。さらに独自のウェブサイトで発信しているわけではなく、毎日2〜3時間の番組にまとめたものをyoutubeにナンバーを振ってUPしているだけなので、ウェブサイト管理費がゼロなことによる。10人に満たない少数のスタッフが仕事を終えた後にやってきて手弁当でやっているから、時にはビールのロング缶を片手にタバコを吸いながら、リラックスしてやっている。そうでなければ続かないだろう。
そもそも「立ち上がる夜」という討論の運動には住宅問題から難民問題、政治経済、生活保護、精神医療、性的マイノリティ、フェミニズムなど100近いテーマごとの分科会があり、それらは週に1〜2回の割合で話し合いを広場で行っている。その分科会のリーダーたちに日替わりで話し合われている内容を「立ち上がるTV」でインタビューしているのである。この100近い委員会には様々なNGOの人びとやそれぞれのテーマに関心のある市民が集まっているので、話を聞けばそれなりに中身のある話が聞けるのである。これが「立ち上がるTV」の維持費がほとんどゼロである理由である。確かに独自に「現場」で取材していないため、放送局がニュースやドキュメンタリーでやっているようなコンテンツがあるわけではない。しかし、広場での話し合いの結果を集約したものが「立ち上がるTV」で話されるのを聞くと、今何が問われており、解決の道はどういうことなのか、何がしかのヒントがあるのではなかろうか。こうした行動が梃の原理となって、プロフェッショナルの放送の現場に波紋を投じる可能性はないのだろうか。さらに、「立ち上がるTV」の存在理由は「放送局のオルタナティブ」というよりは、市民が広場での話し合いに参加するための参考資料と考えた方がよいだろう。この話し合いの内容を聞いて関心がある市民は広場にやってきて議論に参加してほしい、ということなのである。情報の「消費者」になることを視聴者に求めるのではないところが特徴と言えるだろう。
■パリの「立ち上がる夜」 市民が自前で広場に設置したテレビ局「立ち上がるTV」の人気インタビュアー Marjorie Marramaque
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605290351570
■パリの「立ち上がる夜」 フランス現代哲学と政治の関係を参加しているパリ大学教授(哲学)に聞く Patrice Maniglier
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605292331240
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