2016年06月17日05時09分掲載
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「誤報じゃないのになぜ取り消したの?〜原発『吉田調書』報道をめぐる朝日新聞の矛盾〜」(彩流社ブックレット)
昨今、新聞は政治や経済、社会の動きを本気で伝えているのだろうか?それとも、噂の通り、首相との会食に象徴されるような政権との関係に縛られて、書きたいことも書けなくなっているのだろうか・・・。4月に出版されたばかりのブックレット「誤報じゃないのになぜ取り消したの?〜原発『吉田調書』報道をめぐる朝日新聞の矛盾〜」(彩流社)はそんな疑問を感じる読者に1つの手がかりを提供しています。
朝日新聞と言えば東京新聞や毎日新聞などとともに、政府批判を比較的行ってきた新聞ですが、その朝日新聞に激震が走ったのがこのブックレットのテーマになっている「吉田調書」問題でした。「吉田調書」問題はかいつまんでいえば次のようになります。
2011年3月11日の東日本大震災と津波で福島第一原発の職員たちは未だかつてない原発事故の対応に追われました。それまで長年、原発は安全である、と歌ってきた神話が瓦解した瞬間でした。事故がいったいどのようなレベルの惨事まで引き起こしてしまうのか、結果は未知数で、職員たちの現場の作業も手探り状態でした。なにしろ、原子炉の中で何が起きているのか正確に理解している職員は一人もいなかったのです。
その渦中の3月15日に、福島第一原発の吉田昌郎所長が発した福島第一原発にとどまるようにという命令に反して、職員たちが安全な福島第二原発に退避してしまったとされる問題です。「吉田調書」とはこの時の対応が適切だったかを検証するため「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)が行った聴取の結果をまとめたものとされます。ブックレットによれば「吉田調書」は全7編で構成され、2014年7月22日から11月6日までの間、のべ6日にわたって計28時間行われたとされます。
2年前の2014年5月20日、朝日新聞は入手していた「吉田調書」をもとに、「所長命令に違反 原発撤退」と見出しを打ってこの問題をスクープして報じ、大きな反響を呼びました。ところが、のちにこれは「撤退」ではなかったという職員らなどからの反論を受けることになったのです。さらに朝日新聞に対する批判キャンペーンが他の新聞で行われ、朝日新聞は予定していた連載を中断することになりました。そして9月に木村伊量社長(当時)が記事の取り消しを記者会見で述べ、謝罪をしたのです。
朝日新聞の記事の取り消しの理由は、「誤報」だったからではなく、「記事が読者に誤った印象を与えた」ため、という曖昧な表現になっていたとされ、本当に「取り消す」必要があったのかどうかを検証したものがこのブックレット「誤報じゃないのになぜ取り消したの?〜原発『吉田調書』報道をめぐる朝日新聞の矛盾〜」です。当時の経緯や、朝日新聞に対する公開質問、朝日新聞の体質に知悉する人々による座談会など、多角的な情報が含まれています。
詳しくは本書を手にしていただければわかるのですが、1つ1つ問題を詰めていくと、朝日新聞の記事は間違っていなかったんじゃないか、というのが本書の最大のメッセージであり、なぜ朝日新聞があのような不可解な幕引きをしなくてはならなかったのか、という謎を浮き彫りにしています。朝日新聞がこのような形で報道を中断したために、真実を追求するジャーナリズムの萎縮が起きているという印象が世間に広まりました。しかも、これまでに公開された吉田調書の聴取内容は全772人のうち未だ、200数十人にとどまっているとされます。全容解明とは程遠いところで幕引きがされてしまったのです。
このブックレットを取り上げ、ジャーナリズムのあり方を問うシンポジウムが6月16日、東京・千代田区で開かれました。講演を行ったパネラーの一人、斎藤貴男氏(ジャーナリスト)は新聞産業と政府との見えない癒着を問題にしました。今、政府は来年4月に行う予定だった消費税の10%への引き上げを、2019年10まで2年半延期する発表をしたばかりです。
この消費税率の引き上げ問題のさなか、水面下で新聞業界は10%の消費税率の適用を新聞業界だけは特別に避けてもらうため、政府への協力を余儀なくされるのではないか、という疑いがあるのです。特に、税率が実際に引き上げられる予定の2019年10月以後よりも、引き上げられる以前の現在の方が政府が取り引き材料をもっている分、優位に立っている可能性があると斎藤氏は指摘しました。これから2019年にかけてはまさに憲法改正問題の時期にかぶります。10%の消費税率の適用を除外してもらうために、報じるべき報道を自粛しているのだとしたら、新聞の未来は暗いと言えるでしょう。
一方、このブックレットの作成にも携わった東電株主代表訴訟の事務局長、木村結氏は昨今、マスメディアには確かに問題があるが、だからと言って新聞でもテレビでも「もう見るのをやめた」「取るのをやめた」と言うだけでは真の解決にはならない、と会場の人々に訴えました。テレビが唯一の情報源という人がたくさんいて、テレビは大きな影響力を持っている。だから、テレビがくだらないから、と言って無視することはできない。テレビを批判するだけでなく、よい報道を行ったときは応援しながら、「見ている」ということを伝えていく努力が必要ではないか、と訴えました。
福島第一原発事故が起きたのち、「新聞やテレビはマスゴミだから、もうやめよう」というようなキャンペーンが起きましたが、それが本当の解決につながるのか、という問題です。雑誌記者だったパネラーの大場久昭氏(ジャーナリスト)は日本では水と情報は無料だと今でも思っている。それではいけない。大切なことは市民がメディアを後ろから支えて、ともに闘う姿勢を見せることではないか、と訴えました。
■「日本 川内原発が3・11のトラウマを呼び覚ます」 社会学者 セシル・浅沼=ブリス Cecile Asanuma-Brice (翻訳・紹介Ryoka)
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■メディア観戦記11 木村結
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■【たんぽぽ舎発】熊本地震と免震棟 九電川内原発が放棄した安全対策 山崎久隆
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