2016年06月18日02時03分掲載
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コラム
選挙と投票率 なぜ若い世代になるほど投票率が下がるのか この分析に野党躍進のヒントがある
参院選を来月に控える日本ですが、選挙の傾向として投票率が与野党の明暗を分けてきました。投票率が戦後最低だった2014年12月の衆院選では自民党が圧勝。投票率は52.66%でした。そのとき衆院を解散した安倍首相によれば「消費税を2017年4月に10%に必ず引き上げることでよいか民意を問う」というのが争点だとされた選挙でした。マスメディアは<無意味な選挙>とキャンペーンを張りました。その一方で、消費税が問題のように自民党は見せているけれども本質的には憲法や民主主義のあり方を問う意味の大きな選挙である、というような報道は非常に少なかったということがあります。
このことはマスメディアの幹部が安倍首相と会食をして、そのたびに考えを共有させられていたことが想像されます。つまり、安倍首相が訴えているように、消費税の先延ばしが争点になるのだとしたら<意味のない選挙>である、という風にマスメディアが連日大合唱することで有権者の政治意識を大いに低下させたことが推測されます。それが投票率が戦後最低になった経緯でしょう。
投票率を年齢別に分析してみると、基本的な傾向として年齢が低くなるほど投票率が低下しており、2014年の衆院選を振り返れば60代が68.28%とトップ、50代は60.07%、70代以上が59.46%、40代が49.98%、30代が42.09%、20代が32.58%となっています。20代に至っては投票したのは3人に1人となっています。この傾向は長期的なものですから、その意味では若い世代の投票率を上げることが野党には必要になるでしょう。以下は総務省の年代別の投票率のデータです。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/
いったいなぜ、年齢が高いほど投票率が高く、年齢が低いほど投票率が低いのでしょうか。若いほど政治に関心がなくなっている可能性があります。自分の半生を振り返ってみるとなるほど、このデータが示すように20代のころは政治に関心が乏しく、30代でもさして関心がなく、40代を越えてだんだん目覚めてきたことを思い出します。なぜかと考えてみると、年齢が高くなるほど、個人を越えて家族や組織に多かれ少なかれ関わるようになり、その結果、政治が自分たちの生活に影響を与えていると実感する割合が高まっていく、ということがあると思います。サルの社会にたとえてみると、雄ザルは若い間は群れを離れて「離れ猿」として放浪する傾向があり、一匹であるということは「政治」から距離を置いていることを意味します。政治とは基本的には限られたリソース(資源)の配分の方法であり、その配分というものは家族や社員あるいは地域社会の暮らしを考える必要がある人ほど、重要な関心事となるのです。
年齢が若くなるほど投票率が下がるというこの傾向は日本だけではなく、今年大統領選のアメリカでも同様の傾向になっています。以下はフロリダ大学の研究者が作っているUnited States Election Projectというウェブサイトのデータですが、18歳から29歳までの年代は基本的に20%〜40%あたりを反復しています。一方、60代以上は50%〜70%あたりを反復しています。
http://www.electproject.org/home/voter-turnout/demographics
また、以下は米商務省の一部門である、アメリカ合衆国国勢調査局による世代別の投票率のデータです。
https://www.census.gov/prod/2014pubs/p20-573.pdf
タイトルは’Young-Adult Voting: An Analysis ofPresidential Elections, 1964 - 2012’。先ほどのデータを裏付けるように若い世代ほど投票率が低くなっています。2012年の大統領選挙では65歳以上の投票率は69.7%ですが、18歳から24歳までの若者は38.0%に過ぎません。ここでも若い世代になるほど投票率が低くなっていく傾向が長期的なものであることがわかります。
しかし、そのように投票率が常に低い若者世代ですが、それが例外的に50%にほぼ達した時が日米ともに近年に一度ありました。アメリカでは2008年のオバマ候補の初めての大統領選挙の時でした。この時はイラク戦争を起こした共和党ブッシュ政権に対する審判と史上初の黒人大統領が誕生した画期的な年でした。一方、日本で若者の投票率が50%に達したのは2009年、民主党政権の誕生した年の選挙でした。この時は格差社会が問題となっており、派遣労働者の雇止めなど、若者を中心とした有権者の政治や経済に対する憤りが噴出し、それが野党だった民主党への期待となってあらわれた年でした。日米の傾向を見ると、若い世代は常に選挙に無関心というわけではなく、自分たちの未来が関わっていると感じられた場合には投票率が劇的に上昇することを示しています。
来月に参院選を控える日本で、ネットで最近、投票率は低いから自民党の圧勝になる、というツイートを何度か見た記憶がありますが、こうしたツイートが何か確かな根拠に基づいているのかどうか、出典が記されていませんでした。こうしたツイートは投票率を下げる方向に作用する可能性があります。また、2014年を振り返れば今回もマスメディア自体が選挙は無意味だとか、投票率は低くなりそう、という情報を意図的に流す可能性もあります。このような情報は選挙を低調にするだけであり、実際の調査が仮になされていたとしても、それに影響されて「じゃ、私も選挙に行くのはやめた〜」と同調する必要はまったくありません。
若者の投票率を上げるためには、野党は憲法改正の問題を語りかけるだけではなく、あわせて若者の暮らしを具体的に上向かせる政策を語る必要があるでしょう。2008年の民主党の勝利を支えたのはプレカリテと呼ばれる短期雇用の不安定な労働環境を何とかしてほしい、正社員と派遣社員の職場での待遇の差別や、生活できない低賃金をなんとか改めて生きていけるようにしてほしい、という根源的な欲求ではなかったかと思います。若者の多くの目からすれば、生活を改善してくれる政党であるなら、与党であれ、野党であれどちらでもよいのです。
■「誤報じゃないのになぜ取り消したの?〜原発『吉田調書』報道をめぐる朝日新聞の矛盾〜」(彩流社ブックレット)
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