2016年07月17日20時25分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201607172025460
国際
トルコのエルドアン大統領に対する軍事クーデターの失敗 英語圏の新聞での報じられ方
トルコで先週末に起きたエルドアン大統領に対する軍のクーデターは200人以上の死者を出してほぼ鎮圧された模様です。このクーデターが何を意味するのか、英米の新聞を見ると、いくつかの解釈を伝えていました。参照したのはニューヨークタイムズとイギリスのミラー紙です。
・今回のクーデターは軍全部の総意ではなかった。が故のもろさがもともとあった。
・さらに市民の多くがクーデターに反対した。これは1960年代から80年代にかけてクーデターが多発した時代に戻りたくないという市民の意思が反映した。
・エルドアン大統領は携帯を使って市民に抵抗を呼びかけ、数千人が集まってきた。
・トルコではオスマン帝国崩壊後、軍は政教分離に忠実だった。そのため、イスラム原理主義には反対の立場をとってきた。
・クーデターを起こした軍人たちはクーデターを進めたら、市民が支援してくれると期待していたフシがある(ロジャー・コーエン=コラムニスト)。しかし、それは幻想だった。
・エルドアン政権はイスラム主義政党「公正発展党(AKP)」のリーダーであり、民主主義よりもむしろ政教分離を弱めて独裁的になりつつある。がゆえに市民は今回、クーデターに反対を示すべく、エルドアン政権の支援をしたが、皮肉にも今後、エルドアン政権がもっと独裁的になる可能性がある。すなわちクーデターは瞬時の軍事独裁への移行だっただろうが、エルドアン政権はゆっくりと独裁制に向かうのではないか。またエルドアン大統領はメディアに強いプレッシャーをかけてきたが、今後圧力がさらに強まる可能性がある。そして軍や警察、司法関係者のサークルから世俗派(=政教分離を原則とする人々)を一掃していくのではないか。それはエルドアン大統領は支持しないが軍事クーデターに立ち向かった市民にとっては悲痛な事態となりえるだろう。
・現在、アメリカのペンシルバニア州に亡命しているフェトフッラー・ギュレン師(Fethullah Gulen)という宗教指導者がクーデター関係者の背後にいるとして、エルドアン大統領はその影響下にある人々を軍人でないのに拘束しつつある。軍関係者およそ3000人が拘束されたほかに、驚くべきことは裁判所の判事ら2745人が解職されたと報じられていることである。これらの判事がクーデターに加担していたかどうかは不明であり、まして、ギュレン師自身がクーデターの背後にいたという証拠はない。ニューヨークタイムズの社説によるとギュレン師は宗教指導者だが、民主主義的な政治を説いている人物らしく、警察と司法関係者に影響力が強かったが、軍にはさして影響を受けた人は多くないという情報もある。しかも、ギュレン師自身はクーデターを非難する声明を出していたそうである。
・アメリカのオバマ大統領はクーデターを非難した。これはエジプトのムルシ政権を覆した軍事クーデターの場合とは異なる対処をしたことになる。その違いはエルドアン大統領がムルシ政権よりは大衆の支持が高いからという理由がある。
もし、エルドアン政権が倒されてトルコに世俗派の軍事政権が誕生した場合、トルコでエルドアン大統領を支持するイスラム主義の宗教家たちが各地のモスクで反政府運動を行う可能性があり、それはトルコがシリアのような内戦に突入することを意味する。トルコ国内が内戦になればイスラム国討伐作戦の基盤が崩れ、オバマ政権も欧州連合も中東政策全体を見直さなくてはならなくなる。またトルコ自身からも難民が大量に発生して、今欧州連合が抱えている緊張がさらに高まっていくことになる。
ニューヨークタイムズ社説
http://www.nytimes.com/2016/07/16/opinion/the-counter-coup-in-turkey.html?action=click&contentCollection=Opinion&module=RelatedCoverage®ion=EndOfArticle&pgtype=article
ミラー紙
http://www.mirror.co.uk/news/world-news/turkey-coup-live-updates-explosion-8431256
以下はロシアのメディアによる近年のロシアとトルコの確執。トルコがイスラム国から闇で石油を買っている、ということがロシアの告発の理由になっている。ロシアはシリアのアサド政権を支援してきたが、一方のトルコはイスラム国と同じスンニ派としてイスラム国を裏で支援してきたと見られている。イスラム国はシーア派系政権であるシリアのアサド政権と敵対関係にある。ロシアとトルコの確執はトルコ軍によるロシア機の撃墜事件として表面化した。これはロシア軍機がイスラム国空爆作戦を行っている時期だった(イスラム国兵士でなく、シリア領内の反アサド派を空爆しているのではないか、と米政府などからロシアは批判されていた)トルコ軍はロシア機が領空侵犯したと指摘し、ロシア側はロシア機は領空は飛んでいないと主張した。
■ロシアがトルコの Daesh(イスラム国)からの石油密輸入を告発 ルートは3つと糾弾 Daesh への国際包囲が強まる
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201512041517095
ロシアはエルドアン大統領の家族も密輸ビジネスに関係していると告発している。ロシアがトルコと対峙している背景にはトルコが旧オスマン帝国領に100年を経て再び影響力を拡大しようとすれば、すなわち旧ソ連のCIS諸国に影響力を拡大することになり、次第に無視できない存在になっているという事情もあるだろう。
■Daesh(イスラム国)への空爆作戦 ロシアが5日間で石油タンクローリー1000台を破壊したという発表に疑問を呈する米メディア 米主導多国籍軍はシリア=イラク国境地帯の8大油田を稼働不能にする狙い
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511300804571
■ロシアがずっと以前にイスラム国の台頭を警告していた・・・ 元イスラエル国家安全局長官のコラム
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201512050842196
■フランスからの手紙13 トルコは向きを変えるのか? La Turquie va-t-elle changer de cap ? パスカル・バレジカ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201512050552316
■【北沢洋子の世界の底流】「トルコの春2013」の背後にある事実 政治・経済、そして人びとの思い
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306131459284
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。