2016年08月07日16時56分掲載
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王様の風格 復刻してほしいオットー・ソグロー作「とっても優雅なリトルキング」(Oh! Such free-born LITTLE KING!)
上に立つ人が気が短かったり、神経過敏だったり、思いやりの薄い人だったりして、部下が鬱病になったり、退職したりといったケースが増えているようです。そういう意味で、今、もう一度見直してもいいのでは、と思うのがアメリカの漫画家、オットー・ソグロー(Otto Soglow)による「とっても優雅なリトルキング」(Oh! Such free-born LITTLE KING!)シリーズです。原題を見ると、free-bornと書かれていますが、辞書を引くと「自由民」とか「自由の身の上に生まれた」と書かれています。言い換えると、奴隷ではない、ということのようです。
自由民に生まれた王様、というのは少し不思議な形容ですが、その心は主人公である「リトルキング」という王様の心が自由で、縛られていないという意味だろうと思います。この漫画の味わいはまさにその王様の鷹揚で、優しい、威張らない、けれども毅然とした精神にあります。これらはいろんな形容詞のようでいて、実は1つのことをいろんな側面から語った形容詞に過ぎません。一見、王様風に見えて、本質的には奴隷である、そんな組織の上に立つ人々がこの頃、少なくないようです。このリトルキングはそうした偽物ではありません。
たとえば王様は壁に、「王様は馬鹿だ」と落書きがあるのを見て、自分もペンを取り出し、「その通り」と書き記します。日常を振り返ってみると、なかなかできないことです。むしろ、町中の壁を真っ白にして、落書きを描いたら死刑にする、みたいな一見、王様風のまがい物ばかりです。
また、ある時は王国に強風が吹き荒れ、王城の人々の被り物が全部風にさらわれて、王冠も飛ばされていきます。王様は禿頭のまま、浴槽につかっていると窓から風が吹き込んできて、その頭に冠がおさまります。王城には魔術師もいて、妖精もいます。何が起きても王様は慌てず、落ち着いて行動しています。またある時は王城の浴室が全部、「使用中」になっていたため、王様は困ってしまう。そこへ妖精が現れ、王様の願いを聞き入れて、庭に盥の浴槽を作ってくれておまけに背中を流してくれます。
漫画は1つの話が10数コマで描かれていて、セリフはほとんどなく、サイレント映画に近い。漫画も洗練されたシンプルな線が特徴です。もともと雑誌「ニューヨーカー」に漫画を寄稿していて、演劇にも関心が強かったソグロー氏です。洗練されたタッチは「ニューヨーカー」の文人・漫画家のサークルの中で磨かれたのではないでしょうか。
王室を持たないアメリカ、しかも中でももっともモダンな都市ニューヨークでこのような漫画が描かれ、大衆の人気を得た理由は、そこに普遍的な上に立つ人間の理想の姿が詩情たっぷりに描かれていたからでしょう。都会のジャングルと言われたニューヨークの中に、清涼剤のような味わいをもたらしたのではないかと思います。
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