2016年08月11日14時08分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】韓国の原発に耐震性問題が急浮上 山崎久隆

 7月5日に蔚山沖の日本海でマグニチュード5の地震が発生した。この地震は韓国で福島第一原発事故を思い起こさせると同時に、韓国の原発が抱える耐震問題への懸念へと広がっていった。ハンギョレ新聞が詳細にその背景を報じている。 
 
◆韓国の原発は 
 
  韓国の原発は日本の立地条件と似ている。海水冷却のシステムを持ち、海岸線に位置する。1つの発電所に何基も集中立地しており、1基の原発でひとたび過酷事故が起きれば発電所全体が危険にさらされる。このような立地上の問題は安全に対する考え方の重大な欠陥でもある。 
 
 原発のほとんどは加圧水型軽水炉だが、一部はCANDU炉(カナダ型重水炉)を保有する。月城(ウォルソン)1〜4号機である。 
 
 韓国には運転中の原発が25基ある。そのうちハンビッ原発(旧霊光ヨングァン原発)の6基は黄海に面しているが、後は全部日本海側に建っている。 
 
 ハヌル原発(旧蔚珍ウルチン原発)が最も北側にあり、月城、古里(コリ)と続く。古里原発は大都市の釜山にほど近い。最も古い古里原発1号機は福島第一原発事故後に2017年6月で廃炉にすることが決まっている。 
 
 原発の建設計画は新古里原発4号機が建設中で、6基の計画がある。いずれも既存の原発を増設するか、近郊に新設することになっており、集中立地がますますひどくなる。 
 
◆地震報道に見える地震への恐怖感 
 
 7月5日に発生した地震は、蔚山沖の日本海で午後8時33分頃だった。対馬でも震度2を観測している。 
 
 地震の規模は韓国気象庁はマグニチュード(以下M)5、日本の気象庁はM4.9、米国地質調査所はM4.8としている。地震の規模としては小さい。深さ10kmと比較的浅く韓国全土で揺れを観測しているが、最も大きな揺れは蔚山で観測されたようで、改正メルカリ震度階で4という。おおむね日本の震度で3か4と思われる。(米国地質調査所データより) 
 
 日本では、東京や東北、あるいは九州でも、このくらいの地震は日常的に起きているが、韓国では「観測史上5番目の強さ」(東亜日報7月7日付)とされることでも分かるとおり、地震が日常の日本とは事情がかなり異なることがわかる。 
 
 そのため、地震直後に7900件を超える通報が関係機関に殺到し、停電も発生、釜山の80階建高層マンションからは非常階段を使って避難する住民もいたという。 
  (朝鮮日報7月6日付) 
 
◆韓国でもある「地震と原発」の問題 
 
  震源から最も近い月城原発は直線距離で51km、南に位置する蔚山近郊の古里原発にも65kmと比較的近い地点で地震が起きている。 
 
 これらは原発の集中立地地体で、月城には1〜4号機とすぐ近くには新月城1〜2号機の合わせて6基が運転中だ。古里原発にも1〜4号機と新古里1〜2号機の6基が運転中で、さらに3〜4号機が建設中、5〜6号機が計画中とされている。ちょうど日本での若狭湾の原発集中立地点と似ている。これだけ密集しているのは、経済効率を上げようとするためとされる。また、武力攻撃に対して集中しているほうが守りやすいと考えているのかも知れない。ただし自然災害などにはむしろ危険性を増す。 
 
 韓国の耐震基準はあまり明らかではない。ハンギョレ新聞によると「環境運動連合エネルギー気候チームのヤンイ・ウォンヨン処長は「朝鮮半島で地震発生が最も多く活断層が最も多く分布した地域の原発の耐震設計基準がマグニチュード6.5〜6.9となっているが、最大予想地震規模の7.5は地震エネルギーでは20〜30倍になる」と批判されるレベルだ。 
 
 「韓国水力原子力のチョ・ソクジン言論広報チーム長は「原子力発電所の耐震設計値は、原子炉直下10kmで地震が起きた時に耐えられる」としているようだから、直下地震の想定も日本と似てはいる。 
 
 「古里原発はM6.5の地震に耐えられるように設計され、新古里原発はM6.9の地震に備えて設計されている。」としているのは疑問だ。これでは4倍もの違いがある。新知見で新古里原発をM6.9に上げたのならば、古里原発はそれに合わせるか廃炉にすべきだろう。 
 
◆大地震が迫っているかもしれない 
 
  朝鮮半島の過去の歴史地震記録は、日本語でも読める文献がある。 
 「韓半島で発生した最大級の地震」(歴史地震第20号2005)では、朝鮮半島で発生した歴史地震について記載している。その中にはM7.5と推定される江原道の地震があり1681年6月26日に発生している。 
 
 その推定震源からハヌル原発までわずか35kmしかない。韓国の歴史で最も大きな地震の至近距離に原発を集中立地しているのだ。さらに歴史地震で2番目のM7の慶尚道の地震(1643年7月24日)は、古里原発から約20km、月城原発から約30kmの内陸の地震だ。この地震についてはソウル大学ではM7.7と推定している。 
 
 まるで選んだかのように震源域の近くに原発が集中立地している。これら歴史地震の大きさに比べ、原発の耐震性が高いとは到底思われない。日本の原発が脆弱なのとほとんどかわらないようだ。 
 
 ハンギョレ新聞など韓国の新聞では、最近になって地震が増えてるという記事が見られる。 
 韓国の歴史地震でも大きな地震が記録されている16世紀から17世紀にかけて、日本でも「慶長地震」と名の付く大地震が頻発した。まさしく大地動乱の時代だった。 
 
 【慶長伊予地震(1596年9月1日)、慶長豊後地震(1596年9月4日)、慶長伏見地震(1596年9月5日)、慶長地震(1605年2月3日、南海トラフ巨大地震か伊豆小笠原海溝付近の地震)、慶長会津地震(1611年9月27日)、慶長三陸地震(1611年12月2日、三陸沖を震源として発生した地震か千島列島沿いのプレート境界地震)、慶長19年10月25日の地震(1614年11月26日全国的規模の被害だが震源不明)】 
 その後も1703年元禄地震、1707年宝永地震と、100年後にも大地震が続いている。 
 
  この巨大なエネルギーはもちろんプレートの移動によりもたらされた。主に日本列島を中心にエネルギーが解放され、巨大地震になっていった。 
 しかし地盤はつながっている。巨大な歪は日本海の形も変え、さらに朝鮮半島沿岸部の断層帯にエネルギーを伝えていったと思われる。 
 
 日本列島に甚大な被害をもたらした地殻変動の大きな力は、その後数十年をかけて地盤を伝わり朝鮮半島の断層を動かし、そこでも巨大地震を引き起こしたと考えても、あながち的外れとは言えまい。 
 
 これら巨大地震に耐えられる設計ではないことは、新聞で語られる対策地震の規模を見ても分かる。歴史的にはM6や7に比べて30倍もの地震が襲来する恐れを否定できないのにあまりに脆弱なのだ。 
 
 いまならば、まだ間に合うかも知れない。 
 韓国の原発も日本に勝るとも劣らぬ危険が迫っていることを知り、廃炉にすべきである。 
 
 (この文章は、たんぽぽ舎発行の月刊「たんぽぽニュース」7月号に  掲載されたものです) 


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