2016年08月16日13時30分掲載  無料記事
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国際

ヒラリー・クリントンとその外交  2009年のホンジュラスのクーデターを振り返る

  中南米に詳しいマーク・ウェイスブロット氏(Mark Weisbrot)がヒラリー・クリントン国務長官(当時)の中南米外交の問題点をアルジャジーラ(2014年9月掲載)で指摘している。<Hard choices: Hillary Clinton admits role in Honduran coup aftermath>というテキストである。 
http://america.aljazeera.com/opinions/2014/9/hillary-clinton-honduraslatinamericaforeignpolicy.html 
  2年前、ヒラリー・クリントン氏は長官時代を振り返った「ハードチョイス(困難な選択)」という自伝を出版した。これは2015年に大統領選(予備選)に出馬するためのステップだとアメリカでは受け取られた。本書の中でヒラリー・クリントン氏はリビア外交の失敗なども触れており、それが「困難な選択」というタイトルの由縁である。その中の中南米の部分で、ウェイスブロット氏はヒラリー・クリントン氏がホンジュラスで2009年6月に起きたクーデターについて都合よく弁明していることに腹を立てている。ウェイスブロット氏はアルジャジーラで次のように指摘している。 
 
 (要約)「ヒラリー・クリントン氏は、当時、セラヤ大統領が憲法を迂回して大統領の任期を延長するのではないか、という恐怖の中で逮捕された、と書いているが、それは嘘である。セラヤ大統領が試みようとしたのは11月の大統領選の期間に憲法改正の国民投票をするべきかどうか、まずそれを問う国民投票を6月に行おうとしていたにすぎず、6月の最初の国民投票の結果自体は法的拘束力を持つものではなかった。いずれにしてもセラヤ大統領自身は11月に大統領の任期を延長することはありえなかったのだ(※注 憲法を改正して大統領の任期を延ばして再選できるように変えたとしてもそれは11月の大統領選挙のあと。セラヤ大統領自身は11月の大統領選に出馬することはできなかったという意味だろう)」 
 
  ホンジュラスの憲法では大統領の再選は禁じられている。セラヤ大統領は11月の次期大統領選に出馬し、再選することを狙っている。そのために国民投票で憲法改正をしようとした。そこでホンジュラスの最高裁が国民投票は違憲である、と判断した・・・当時、こうした情報が流されていた。筆者もそう思っていた。ところが。 
 
  2009年6月に軍部がクーデターを起こし、当時大統領だったマヌエル・セラヤ大統領に銃をつきつけ、ただちに外国に連れ去った。その頃、米国務長官だったのはヒラリー・クリントン氏であり、米国はクーデターの後、何度かホンジュラスに特使を送って調停を行っていた。しかし、本質的に米国はクーデター政権の側についていた。当時、ニューヨークタイムズでウェイスブロット氏がオバマ政権の中南米外交を批判していた記事を読んだことがあるので、このことは記憶に残っている。 
 
  セラヤ大統領が自己の大統領任期を引き延ばすために憲法を改正しようとしたことに対して、民主主義に対する脅威であるからという理由で裁判所が反対し、やむをえず軍によるクーデターが起きた・・・・このようにその後、国際報道で支配的な論調が作り上げられていったが、ウェイスブロット氏によれば、それはありえなかったというのである。 
 
  当時、ラテンアメリカでは左派政権が連携してアメリカに対抗する力を持ちはじめていた。ホンジュラスのセラヤ大統領もこうした左派政権に連帯しようとしており、そうした流れを食い止めようという力がホンジュラスの軍部を動かした。そして米政権もまた裏庭の左傾を許さない選択を行ったと見られている。 
 
  結果的にセラヤ大統領は電撃帰国してブラジル大使館にたてこもったものの11月の選挙には出馬せず、選出されたのはクーデター政権が推したロボ氏だった。クーデター以後、ホンジュラスの治安はどんどん悪化し(1年間で50%以上、殺人率が上昇したとされる)、またジャーナリストも多数殺される最悪の状況となった。ところが、ウェイスブロット氏の批判によると、米政権はこの状況に対して沈黙するばかりであるという。 
 
※ウェイスブロット氏のガーディアン紙への寄稿 
https://www.theguardian.com/profile/markweisbrot 
  <Mark Weisbrot is co-director of the Centre for Economic and Policy Research in Washington DC. He is also president of Just Foreign Policy. He co-wrote Oliver Stone's documentary South of the Border.> 
 
■ホンジュラス クーデターで追放されたセラヤ大統領が電撃帰国  G20を控え世界にアピールを意図http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200909221318222 
 
■ヒラリー・クリントンとホンジュラスのクーデター 米外交を批判していた環境活動家が暗殺される 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603121136346 
 
■西側で最も記者にとって危険な国 ホンジュラス 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111070211231 
 
■米国がホンジュラスのクーデターに関与していたとする記事(2009年8月)United States Involvement in the Coup in Honduras 
https://nwoobserver.wordpress.com/2009/09/01/united-states-involvement-in-the-coup-in-honduras/ 
  2009年6月にセラヤ大統領を拘束した軍用機は最終的にコスタリカに向かうのだが、実はホンジュラスの大統領官邸から一度、ホンジュラスの中にある米軍のSoto Can基地に着陸していたというのである。 
 
■選挙とハリウッドとシナリオライター 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201412182221434 


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