2016年08月18日21時26分掲載
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「重要な任務 」としての虐殺 「生者が通る」(Un vivant qui passe ) クロード・ランズマンのインタビューから
排外主義は1930年代からドイツを中心として欧州に蔓延し、それはペストのように一部の極端な政治家だけでなく、多くの市民も巻き込んでいきました。自分たちは欧州の盟主であり、欧州を守るためにはユダヤ人を始末しなくてはならない、という風にナチスは提唱し、それがドイツの標準となってしまったことは恐るべき歴史です。
フランスのドキュメンタリー作家クロード・ランズマンはホロコーストを記録した映画「ショアー」で知られていますが、その映画を製作していた時にスイスの医師にインタビューしていました。このインタビューは独立したドキュメンタリー作品として公開され、さらには活字として書店にも並ぶことになりました。「生者が通る」(Un vivant qui passe )というタイトルです。ランズマン氏がインタビューしたスイス人の医師は第二次大戦末期の1944年にチェコのテレジエンシュタット強制収容所を赤十字国際委員会の視察団団長として訪れました。実は、この医師(モーリス・ロスル氏)はその前年に一人でアウシュビッツ強制収容所も訪問していました。
まったく何のアポイントもないまま、赤十字国際委員会ベルリン支部の職員として、アウシュビッツに医薬品を届ける交渉をしたい、というのがアウシュビッツを訪ねる口実でした。アウシュビッツ強制収容所はポーランドにあり、そのわきの町、ビルケナウにも同様の強制収容所が建設されていました。ロスル医師は一人アウシュビッツを訪ねていきますが、町全体の構造もあまりわからないまま、なんとか収容所の入り口をくぐり、警備兵に理由を告げて、収容所内の司令官の一人に面会することができたのです。しかし、予想通り、この時は視察は拒否されてしまいました。医師は当時を振り返って、収容所の中のドイツ人たちはユダヤ人の抹殺を行っているにも関わらず、重要な任務をこなしており、将来、欧州人は自分たちに感謝する日が来るであろう、と思っていたと語ります。
CL=クロード・ランズマン
CL「あなたは、たとえばビルケナウのことを一度も疑ったことはありませんでしたか、・・・
医師「いえ、ビルケナウについてはまったく・・・」
CL「・・・アウシュビッツからわずか1キロの距離にある隣の絶滅収容所ですよ」
医師「いえ、知りませんでした。何もです。もちろん、当時ジュネーブではその情報をつかんでいたのですが、現地に来ている者には知らされていなかったのですよ、何もね」
CL「ではあなたは当時何を知っていたのですか?」
医師「私が知っていたことはアウシュビッツに収容所が1つあること。そこにドイツがイスラエルの人々を集団で移送しており、彼らが死んでいるということです」
CL「そのことをあなたはアウシュビッツに行った時に知っていたんだ!」
医師「そうですよ、知っていましたとも」
CL「それを知って、やって来た?」
医師「知っていました。彼らが集団で移送されていることを」
CL「そして、死んでいた」
医師「彼らは列車で移送されていた。彼らは有罪宣告をされていた」
CL「そうです」
医師「そのことは確かです。」
CL「列車はご覧になったんですか?」
医師「列車は見ませんでした。見ていないですよ」
CL「司令官にこのことを尋ねるのは論外でしたか?」
医師「そりゃもう、論外でしたよ・・・彼らドイツの司令官たちというのはですね、信じがたいことですがね、結局はですよ、みな私が今ここであなたにお話しているようなことをあの頃話していたのですよ。彼らは自分のやっていることを誇らしく思っていたのですから」
CL「誇りを持っていた・・・」
医師「わかるんですよ・・・」
CL「・・・それが伝わってきた?」
医師「いやいや、しかし、彼らから、何がしか大切な職務をこなしているという印象を受けました。そんな感じがしたのです。彼らに収容所のことや、囚人のことや、そういったことを話すと、彼らはこんな風に述べたものです。<ええ、まぁともかく、ドイツは今ここで任務を実行している・・・>」
CL「で、あなたは?・・・」
医師(さえぎって)「・・・<信じがたい、とてつもない任務を。すべてのヨーロッパ人がいずれ私たちに感謝することになる>」と。
人種や属性で人を抹殺することに罪悪感ではなく、むしろ誇らしい気持ちを持つような人間を育成する、ここにナチスの排外主義教育の核心があったと思います。劣等民族や有害民族は根絶されるべきであり、その任務を遂げることは素晴らしいことなのだ、と若い人々が思い込んでいたのです。政治のトップがそれを公言し、その人間を大衆が仰ぎ見、そして皆、同じ思想を抱くことを求められる、教師も新聞も同じことを言っている。こうした時代になれば人々は殺人をも有益な任務と思うことができるようになるのでしょう。
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