2016年08月18日21時37分掲載
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国際
豪政府による難民虐待を国際人権団体が調査、公表
オーストラリア政府はこれまで、庇護を求める人びと約1,200人を太平洋に浮かぶ島国・ナウル共和国に強制的に送ってきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティは、8月3日、その実態を発表した。彼らは、ナウルで激しい暴力や非人道的な扱いにさらされてきた。政府は、庇護希望者が船でやって来るのを思いとどまらせるために、虐待を故意に放置していると思われる。(アムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ共同プレスリリース)
ナウルに送られた難民や庇護希望者の多くは、そこに3年間留め置かれ、オーストラリア政府に雇用された医療従事者や福祉従事者から日常的に放置されている。またしばしば現地住民から暴行を受けるが、それが罰せられることはない。命の危険がある状態でも、不必要に治療を遅らされ、時には治療を拒否される。多くの人が深刻な精神衛生上の問題を抱え、絶望の淵に追い込まれ、頻繁に自傷行為や自殺未遂に追いやられている。みな、将来が見えない不安定な状態に置かれ続けている。庇護希望者を国外に追放するオーストラリアの政策は、きわめて残酷である。
安全と自由を求めて避難してきた人びとに、このように故意に長期の苦痛を与える国は、数えるほどしかない。
オーストラリア当局は、ナウルで難民が虐待されていることを、十分に認識している。同国の人権委員会、国連難民高等弁務官事務所、上院特別委員会および国が選任した外部専門家らは、これらの問題の多くを取り上げ、政府に改善を要求してきた。同国が管理するナウルの施設での難民虐待に対して、政府が何の対処もしないのは、国が方針として虐待を容認しているということである。
◆政策上の問題
オーストラリアは、難民や庇護希望者をナウルに強制的に送り、非人道的な環境に長期間拘束し、適切な医療を与えず、多くの人々が精神を病むような扱いを、組織的に行ってきた。これらは拷問や虐待、恣意的な拘束から自由でいる権利、その他の基本的人権を侵害するものである。
「難民に対するこの残虐な扱いは、過去3年間で途方もない数の人々の幸せを奪ってきた」と、現地で聞き取りをしたヒューマン・ライツ・ウォッチのマイケル・ボシュネク上級顧問は語った。
長期の虐待で大人も子どもも限界まで追い込むこともひとつの目的としているようである。
オーストラリアとナウルの両政府は、難民申請者の手続き情報を厳格に秘匿し、報道や調査目的の訪問をほぼ拒否している。それでも、アムネスティとヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員は今年7月、合法的に入国し、計12日間滞在することができた。入国手続きの際、組織との関係は尋ねられなかった。調査員は、難民と庇護希望者計84人(国籍はイラン、イラク、パキスタン、ソマリア、バングラディッシュ、クウェート、アフガニスタンと、イランもしくはイラクに居住したことがある無国籍のクルド人)に聞き取りを行った。うち29人は女性、5人は少女、4人は少年だった。また、処分覚悟で情報提供に同意した施設スタッフ数人にも、話を聞いた。
ナウル共和国は、面積がメルボルン空港よりも小さい、わずか21平方キロメートルの貧しい島国だ。人口1万人のこの島の内陸部は、40年にわたるリン採掘で破壊されつくし、ほとんどの土地は、人が住むことも耕作もできない。雇用需要はほとんどなく、衛生や教育などに関わる基本的な公共サービスは、きわめて不足している。
オーストラリア政府は、ナウル政府との基本合意にもとづいて2012年9月以降、子どものいる家族や、身寄りのない子ども、独身の男女をナウルに強制的に送ってきた。合意に基づき施設運営や難民と庇護希望者の手続き費用を全額負担しており、昨年4月期の単年度で、4億1,500万豪ドル(3億1,400万米ドル)をナウルに支払った。難民1人当たりにすると、約35万ドルになる。
◆過酷な環境
ナウルに送られた人は、最初の1年あるいはそれ以上を、地域審査センターと呼ばれる収容施設内にある、窮屈なビニールテントで暮らす。テント内は、気温45℃から50℃に達し、豪雨や浸水に見舞われる。
難民や庇護希望者はこの施設での生活を、「刑務所のようだ」と語っている。テント内は、警備員の定期的チェックを受け、食糧や縫い針といったものは「禁止品」として押収される。シャワーの利用は2分間に制限され、トイレは不潔だ。
同センターは、オーストラリア政府から委託された民間企業が実質的な運営を請け負っており、庇護希望者の衛生と福祉を保証する責任もこの企業にある。つまりオーストラリア政府は、ナウル政府とともに、難民や庇護希望者に対する人権侵害の責任があるのだ。
両政府から難民と認定されると通常、自由に出入りできる施設か、島内のその他の住居が提供される。一般的には、既婚者世帯にはプレハブもしくはコンテナを改造した住居、独身者にはベッドと小さな棚がおけるだけの部屋を提供される。しかし、聞き取りをした人びとによれば、1,200人の3分の1が、テント暮しのままだという。
昨年10月以降、庇護希望者は、島の中での自由な移動を大幅に認められるようになった。庇護希望者の拘束が違法だとする訴訟がオーストラリア国内で起きたため、というのが大勢の見方だ。しかし、テント生活を送る者は相変わらず夜間の外出が禁止され、施設へのスマートフォンの持ち込みが制限されることがあり、警備員の監視を受けるなど、自由を制限されたままである。
オーストラリア人権委員会や国連難民高等弁務官事務所などの調査で、母国での迫害や、オーストラリアにたどり着くまでに受けた暴力や危険などのトラウマが、ナウルで長期間、過酷な状況に置かれることで、さらに悪化していることがわかっている。
聞き取りをした難民や庇護希望者は、ナウルに来て以来、強い不安、不眠、感情の起伏、長期にわたるうつ状態、一時的な記憶喪失を経験したという。子どもは、夜尿症、悪夢、破壊的な行動や問題行動などの症状が出ており、子どもも大人も、おおっぴらに自殺願望を口に出すようになっている。にもかかわらず、まともな支援や精神面でのケアを受けていない。
難民や庇護希望者に対する医療水準も非常に低い。医療器具は非常に古く、医師などの専門家の診察をいつでも受けられるわけではない。歯科治療は、抜歯だけだ。
たとえ病気がひどくても、診察まで長く待たされ、治療ができない場合は、オーストラリアの医療機関に送られる。新たな方針では、オーストラリアへ送られる場合、たいていの場合家族同伴が認められていない。これは、ナウルに戻らざるを得ないようにする国の意図が明らかである。
アムネスティとヒューマン・ライツ・ウォッチは、オーストラリア政府から委託を受け医療サービスを提供するインターナショナル・ヘルス&メディカル・サービス社に、現地の医療状況に対する懸念を伝えたところ、同社の担当者は、この懸念を否定した。
ナウルに留められている人びとの身の安全も大きな懸念である。多くが、暴力や略奪を受け、聞き取りした女性は全員、一人では出歩けないと答え、被害に遭っても地元の警察はほとんど、もしくはまったく相手にしてくれないと訴えている。
地元の学校に通う子どもたちは、現地の子どもたちから国に帰れと言われたり、いじめや嫌がらせを頻繁に受け、通学をやめてしまった子も多い。
このような環境の中で、迫害や危険が待ち受ける母国への送還を受け入れざるをえなくなっている人もいる。
オーストラリア政府は、ただちに難民を国内に定住させ、ナウルの施設を閉鎖すべきである。また、難民と庇護希望者がナウルにいる間は、良質の医療とメンタルケアを提供すべきである。ナウル政府は、第三者の人権監視団や報道関係者の入国を許可し、オーストラリアも収容施設への彼らの立ち入りを認めるべきである。
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