2016年08月21日14時57分掲載
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TPP/脱グローバリゼーション
【行き詰まる新自由主義】大統領選にみるアメリカの矛盾 政治統治機構も国是の自由貿易も内から壊れ始めた 大野和興
アメリカの大統領選は民主党クリントンと共和党トランプの間で争われることになった。今回のアメリカ大統領選は、これまでにないおもしろさに満ちている。当初泡沫候補扱いだったドナルド・トランプが共和党候補にまで上り詰める過程、民主党でクリントンに決まる過程で巻き起こったもう一人の候補者バーニー・サンダースをめぐる熱狂をみていると、アメリカだけでなく民主主義国といわれている国家の民主主義政治制度の要に位置する政党というシステムが壊れかけているということを痛感する。
◆二人の異端
トランプとサンダースは両極に位置する政治家である。トランプは内向きの国家主義的排外主義者。サンダースはみずから社会主義者と名乗るリベラル左派と政治姿勢は全く異なる。共通しているのは、どちらも所属する政党の中では異端に属し、最近まで党員でもなかったということと、社会の現状からに不満を持つ人びとの熱狂的な支持を集めたということだ。それはそれぞれトランプ現象、サンダース現象と呼ばれた。
支持層も重なっている。5月に行われた米大統領予備選におけるウェストバージニア州予備選出口調査によれば、民主党サンダース候補支持者の44%が本選では共和党のドナルド・トランプに投票すると回答。クリントンーに投票する割合はわずか23%、31%は本選ではどちらも投票せずと回答したという結果が出た。候補者を指名した民主党党大会でサンダースはクリントンへの団結を訴えたが、多くの支持者がそれにノーと答えたという経過もある。これらの支持者は若く、非正規の貧しい労働者をいう共通点がある。トランプの場合は、グローバル化で中間層から脱落した白人、いわゆる“プアーホワイト“と呼ばれる層がそれに重なる。
◆アメリカを内部から侵食するグローバリゼーション
アラブ系移民の排斥や不法移民阻止もためにメキシコ国境に壁をつくるといった極端な排外主義を掲げた人物が二大政党の一つの大統領候補になるという現実は、誰も予測できなかった。同じく、自由な市場と小さな国家を伝統的に信奉するアメリカで自称社会主義者がこれだけの旋風を巻き起こすことも考えられなかった。
その背後にあるのは新自由主義グローバリゼーションに対する疲れ、あるいは反発だといってよい。アメリカの労働者も労働組合も、1996年に動きだしたNAFTA(北米自由貿易協定)によって、職を奪われたとみている。NAFTAの仕組みをより過激化したTPPが次にアジア太平洋地域に広がる。オバマ大統領が進めてきたTPPに対する候補者の姿勢に、アメリカに流れる反あるいは非グローバリゼーションの広がりをみることができる。
伝統的に自由貿易派であった共和党候補であるにもかかわらず、トランプはTPPを真っ向から否定する。サンダースはもともと反グローバリゼーション派であり、それに押されてTPP推進派だったクリントンは慎重派に転じざるを得なくなった。
新自由主義とそのグローバル化の世界の旗頭あったアメリカの政治システムが、自らが進めてきたグローバリゼーションによって浸食され、内部で反グローバリゼーションの塊を増殖させている―そんな光景が大統領選の推移のなかから透けて見えてくる。
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