2016年08月29日14時40分掲載  無料記事
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武藤一羊著 『戦後レジームと憲法平和主義』 大日本帝国継承に向け暴走する安倍政権への根底からの批判  大野和興

 戦後一貫して左翼の理論戦線の一翼を担ってきた武藤一羊さんの最新刊である。原水禁運動、べ平連、アジア太平洋資料センター、そして現在はピープルズプラン研究所を拠点に、旺盛な理論活動を繰り広げている。本書の狙いは、戦後日本国家のありようを規定する諸要因を追いながら、欧米のスタンダードで見れば極右に位置づけられる安倍政権が登場した背景を解き明かし、安倍政権とは何者なのかを明らかにすることにある。 
 
 武藤さんは戦後日本の国家原理を三つの原理で説明する。アメリカ帝国の覇権原理、憲法の平和主義・民主主義原理、大日本帝国継承原理(日本帝国の過去の行為を正当化し継承する原理)、である。この三つの原理の葛藤と矛盾の絡み合いの中で日本の戦後国家は成立してきた。本書は、この武藤戦後レジーム論を確認した上で、現在の政治状況の分析に入る。安倍政権論とアジア太平洋をめぐる地政学的分析である。 
 
 安倍政権論の核心は、第三の原理「帝国継承原理」への日本国家の一元化への暴走だと武藤さんは説く。帝国継承原理は国のかたち=国体として戦後国家を陰から規定してきたが、それがいま公然を表に出てきた。1980年生まれに若き政治学徒大井赤亥は「密教の顕教化であり、国際社会が共有する歴史との衝突」とそのことを表現している(『季刊ピープルズ・プラン』73号)。 
 
 問題は、私たちはこの状況に対し、いかなる対抗軸とオルタナティブを用意できるのかということだろう。武藤さんは次のように述べる。 
 
「原理としての平和主義によって、私たちは安倍政権を倒す。それによって戦後国家に作り付けだった他の二つの国家構成原理の排除に向かう。それは、醜悪な野合をとげている帝国継承原理とアメリカの覇権原理を癒着のまま処分し、平和主義原理によって日本列島社会を組織しなおすことに踏みだすことである」(本書94ページ) 
 
 原理には原理で対抗する。必要なのは「原理上の代案なのだ」と武藤さんはいう。明快な論理で、確かにその通りだと思う。 
 しかしそれだけでいいのか、と鋭く批判を突きつけるのは女性史研究者の加納実紀代さんである。武藤さんの分析は納得できるが、それはあくまで「大文字の政治」の話であって、その政治を支えている、あるいは支えさせられている生活、女、家族、文化といった再生産のシステムの迫ることなしに、国家に対抗することはできないのではないか、と迫る(前掲『季刊ピープルズ・プラン』)。ぼくは加納さん派だな。この論争に参戦してみたい。 
 
(れんが書房新社 2016年3月刊 1700円+税) 


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