2016年08月30日09時47分掲載  無料記事
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政治

【編集長妄言】共謀罪復活 朝日新聞が珍しく怒っている  大野和興

 朝日新聞がこのごろでは珍しく怒りを込めた社説を出した。「またぞろ、というべきか」という書き出しで始まる8月29日社説「『共謀罪』法案、政権の手法が問われる」である。8月27日、「政府は共謀罪の国会提出を検討」との報道がメディアを通していっせいに流れた。市民の反対によって、これまで3度廃案になった共謀罪を「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変えて秋の国会に提出するという記事である。 
 
 犯罪が成立するには、具体的に犯罪行為に着手したり、被害が生じたりした場合に限られる。しかし、共謀罪が成立すると、何人かが犯罪を行うことを話し合って合意したとみなせば、罪に問われることになる。まだ何も起こっていないことを犯罪とするのだから、そのことを立証するために取り締り当局による盗聴行為など市民に対する監視が当たり前に行われることになる。ついこの間の参院選中も、大分で野党候補の選挙事務所に警察が監視カメラを備え付けた事件が発覚したばかりである。より日常的に、市民運動や朗号組合運動にこうした警察や公安による監視が行われることになるだろう。 
 
 法律は一度成立すると、運用次第で拡大解釈が可能になる。市民の権利として憲法で定められている表現の自由や思想・信条の自由、労働者の団結権は大きく損なわれることになるはずだ。 現在政府が準備している「テロ等組織犯罪準備罪」は、名称を変えただけで、これまで廃案になった共謀罪法案と基本的に何ら変わりはない。 
 
 共謀罪法案で、対象を「団体」としていたのを「組織的犯罪集団」と変えたり、単に犯罪の計画を話し合うだけでなく、準備行為をした場合、というのを犯罪構成要件に付け加えるなど、一定の制約を加えたかに見えるが、適用される犯罪の範囲は「4年以上の懲役・禁固刑が定められている犯罪」ということで変わっていない。罪となる行為は600以上に及び、道路交通法や公職選挙法も対象となる。人びとの日常生活に直接かかわる600以上の法律が対象になるわけだから、例えば町内会で選挙対策を話し合って、そのことが買収行為につながったと見なされれば、町内会が「組織的犯罪集団」とされる可能性もある。東京新聞は8月27日1面トップで政府の動きを伝えたが、その記事の中で、労働組合が「社長が譲歩するまで徹夜も辞さない覚悟で団交する」と決め、その準備に入ったら、社党に対する組織的強要の共謀で罪になりかねない、と解説している。この場合は労働組合が「組織的犯罪集団」とみなされることになる。 
 
 政府はこの法案を提出する理由に、2010年の東京オリンピックを見据えたテロ対策強化を上げている。テロ対策とかオリンピックを持ち出せばなんでも通るとでも考えているのだろう。前掲の朝日新聞社説は、参院選ではおくびにも出さなかったのに、選挙が終わるやいなや市民の自由や権利を脅かしかねない政策を出してくるのは、秘密保護法や安保法制を強引に成立させた安倍政権の本質が「またぞろ」出てきたと書き、「(法案の)内容以前に、政権の体質そのものがあらためて問われよう」と指摘している。 


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