2016年08月30日15時02分掲載
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アフリカ
「武力ではない貢献がある」と訴える国際協力NGO現地スタッフ PKO「駆け付け警護」に向け、自衛隊が武力行使訓練開始
自衛隊で国連平和維持活動(PKO)の「駆け付け警護」に向け、自衛隊が武力行使訓練が始まった。8月24日に発表されたもので、参院選挙で封印されていたものが、解禁された。安全保障法制に基づいて、集団的自衛権行使を含む他国を武力で守るための訓練だ。まず念頭にあるのは、自衛隊が派遣されている南スーダンのPKO(国連平和維持活動)における「駆け付け警護」。11月に交代で現地入りするする陸上自衛隊部隊を対象に訓練が始まる。いよいよ自衛隊が武器を持って戦闘に参加する現実が目前に迫ってきてわけだ。(大野和興)
スーダンがイギリスとエジプトの共同統治領から独立したのは1956年1月1日。独立後、内戦と紛争が続き、2011年、南スーダン共和国が分離独立した。
独立はしたものの南スーダンもまた内戦が続いている。独立してからまだ2年しか経っていない2013年12月に始まった大統領サルバ・キールを中心とする政府軍と、それに対抗する元副大統領リアク・マチャル率いる反政府勢力との間で始まった内戦は多くの惨劇を生んだ。大統領の出身民族であるディンカと元副大統領の出身民族ヌエルの武装グループが戦闘を繰り広げ、現在に至っている。
昨年8月に和平合意が成立したが、それも崩れ、再び紛争が拡大した。大統領派のディンカ民族に対する反発は、他の民族にも広がり、各地で武力衝突が発生、紛争は拡散していっている。
◆頻発する武装襲撃事件
今年に入ってからもいくつもの事件が起こったが、そのうち代表的なものを上げてみる。
アッパーナイル州の州都マラカルにおける国連の避難民保護施設への武装襲撃事件。2月17日、事件は国連の避難民保護施設の内部で起きた。施設にはいくつもの民族が生活していた。発端は、施設内のディンカのグループが斧などを手に他民族を襲撃したことから発生したとされている。殺戮、放火が始まり、争いはエスカレート。施設の外部から銃火器で武装したグループも入り込み、政府軍の一部が施設内に入り込んで襲撃に加わった。
7月5日には、南スーダンの首都、ジュバで5日間にわたり、大規模な戦闘があった。、大統領派と副大統領派(元反政府軍)との間でロケット砲など重火器が使用され、戦車や武装ヘリコプターが動員された。戦闘は市内各所に拡大、避難民が逃げ込んだ国連の保護施設までもが巻き込まれた。両軍による直接の戦闘だけではなく、この5日間に平服をまとった正体不明の武装グループが一 般市民の住居を襲撃、略奪を働いていた。商店が略奪され、国連が援助物資を保管している倉庫も襲われた。
◆武力で平和構築は出来ない
―国際協力NGOの現場からの発言
今、南スーダンの情勢にもっとも詳しいのは、国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター」(JVC)だろう。2005年からスーダンに拠点を置いて内戦による非難民支援をおこなている。2007年からJVCスーダン現地代表を務めている今井高樹さんが、JVCホームページに連載している「スーダン日記」から、その一部を紹介する。
<毎日数え切れないほどの弾薬が使われ、多くの命が失われている>
「(南スーダンでは)各民族グループの間での敵対意識、憎しみは和らいでいません。200万人を超える難民・避難民の大半は、戦闘が収束しても、『敵対』する民族グループからの襲撃を恐れて今も自宅には戻れないのです。そして残念ながら、国連の保護施設の中でさえ決して安全ではないことをマラカルの事件は物語っています。」
「(自衛隊が)任務拡大に伴って避難民保護施設の警備 などを担当するようになれば、マラカルのような事態に直面するかも知れません。自衛隊が、相手が武装した避難民・住民なのか、施設に入り込んだ民兵なのか、さらには政府軍なのかも判別できないまま発砲せざると得ない事態に追い込まれることはあり得ます。現地では毎日数え切れないほどの弾薬が使われ、そして多くの命が失われているのです。」
<非軍事の貢献こそが>
「平和憲法の意味を積極的に受け止めるならば、『武力の行使』以外のどのような方法で、南スーダンのような内戦や紛争の解決に貢献できるのか。いや解決とまで言わないまでも、現状を少しでも良くするために何ができるのか、それを考えることではないでしょうか。」
「PKOの任務は、停戦監視や市民保護だけでなく、内戦後の国づくりにおける法律や行政、警察機構の整備、兵士の武装・動員解除、復興支援など、実に多岐にわたっています。南スーダンにおいては内戦の勃発とともに市民保護に活動の重点が置かれていますが、統一政府が成立すれば、国家の再建と平和の定着に向けた活動が再びPKOの任務に大きく位置づけられるでしょう。」
「日本は、こうしたPKOの非軍事面での活動のための文民の派遣で貢献できるはずです。文民警察官の派遣という選択肢もあります。私は以前、インド人のPKO文民警察官と同じ宿舎で生活していたことがありますが(よくカレーをご馳走になった)、彼は現地の警察官への人権教育などを行っていました。社会の治安回復のためには、人々の間での和解の促進とともに、人権や非暴力の考えを理解した警察官の存在も重要ではないでしょうか。」
「自衛隊の任務を拡大し武器使用基準を緩和することではなく、もっと別の方法でPKOを通じた南スーダンの平和構築に貢献する道筋があること、むしろそのほうが日本ならではの貢献ができるであろうことを多くの人に知って欲しいと思います。」
(参考文献:「日本国際ボランティアセンター」ホームページ)
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