2016年09月03日18時41分掲載
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パレスチナの演劇人と共同制作の舞台 「ミラー」 9月9日から上演
パレスチナで演劇活動を続けてきた演出家と俳優が来日して、日本の劇団とともにいま、公演の準備を行っています。演出家のイハーブ・ザーハダ(Ihab Zahdeh)さんと俳優のムハンマド・ティティ(Mohammad Titi)さんです。ともに1977年生まれ。パレスチナの一線で活躍している国際的な演劇人です。二人が2008年にヘブロンに立ち上げた劇団がイエスシアターです。占領下で傷ついた青少年や女性たちに向けて演劇を通した教育活動を行ってきたそうです。彼らはブラジルの演出家、アウグスト・ボアール(Augusto Boal,1931−2009)が構築した「被抑圧者の演劇」という理論など世界とパレスチナの双方の文化をベースにしており、演劇を通して状況を理解し、それを乗り越える契機をつかむことを狙っているのです。ともにポーランドのグダニスク大学に留学して演劇を学んだ経験があります。
一方、遠来の客を迎えて共同で舞台を作り上げているのは東京・練馬に劇団を構える東京演劇アンサンブルです。ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの戯曲を中心に、商業演劇とはことなる先鋭な演劇に取り組んできました。イハーブ・ザーハダさんとともに演出を行うのが同劇団の演出家、公家義徳さんです。およそ70年間、国内が平和に保たれてきた日本と、戦火にさらされ続けてきたパレスチナ。2つの対称的な土壌で育まれた演劇人たちはいま、どのような舞台を作ろうとしているのでしょうか。東京演劇アンサンブルの製作者・小森明子さんに聞きました。
まず、この舞台は完成されたシナリオに沿って演出が行われる通常の劇ではないそうです。核となる物語は次のようなものです。
「初日の幕が開く直前、パレスチナの俳優が一人来ていない。俳優たちは、満席の客席を前に、この危機をどう乗り越えようか途方に暮れる。すべてを賭けて稽古してきた日々を思いながら、俳優たちは即興で舞台をやり遂げようとする」
このような設定だけ決めて、あとは俳優たちの個々の即興性を生かしながら、舞台に参加する面々の個性を生かして作り上げていくようです。来日したムハンマド・ティティさんも日本の俳優に交じって舞台に立ちます。では、このような共同制作は東京演劇アンサンブルにとって、どのような刺激になっているのでしょうか。
「(演出家の)イハーブから出された「例えば」に、即興で答えていく毎日です。役者たちは毎日毎日自分の経験したことや深層を掘り返して課題にチャレンジしていきました。テキストありきで芝居を作ってきたアンサンブルの役者たちにとっては、最初は戸惑いの日々でした。しかし、例えばブレヒトの作品を上演する際に求められるものも、演じて見せるのではなく、そこで感じて出てくる自分自身なんです。
イハーブは、頭で構築するのではなく、出てきてしまう自分自身を求めています。自分自身の葛藤を、アイディアをです。役者たちは心も体もフル回転でそれに挑んでいます。そうやって出てきた役者たちの生の声をテキストに落として、数々のシーンを構成して、一つの作品を構成していきました。本番直前の俳優の不在、という危機をどのように乗り越えるか。観客を前にした表現者として、なにをいま自分は言葉にしていくのか? 体で表現できるのか? それは演劇人としてどう生きるのか? というような問いにもなり、役者自身に迫り、観客にも同じことが投影されることになります」
そして、その射程には個人と世界の関係をもう一度考え直す契機が含まれているのだそうです。
「世界は確かに個人からは遠いところで回っているように見えます。しかし、ほんとうは小さな人間一人一人が作り上げているもので、その個々の人間の中に世界が反映しているし世界を不自由にもしています。個々の心の中に潜む壁(差別、区別、差異、違和)は、現実の分離壁を作り上げているともいえるのです。それを軽やかに飛び越えていく想像力は、逆に人間を動かしていく力にもなるはずです。イエスシアターの演劇論と東京演劇アンサンブルの演劇論が共鳴し、一つの舞台に結晶できるのではないかと思っています」
確かにこれまで東京演劇アンサンブルは舞台を通して、個人の意識の変革を目指してきただけに、今回の舞台はまさにその原点と言うことができるでしょう。その演劇のタイトルは「ミラー」です。「鏡」という意味でしょう。意味深長です。占領下の演劇という遠い演劇ではなく、日本でも生かすことができる身近な舞台が生まれるのではないでしょうか。
※9月9日から19日まで
「ブレヒトの芝居小屋」にて上演予定
■イエスシアター(Yes Theatre)
ヘブロン地域でのイエスシアターの活動は、毎年3万人の児童・青少年と多くの一般の観客に公演を届けています。イエスシアターの主要なプログラムは、12〜18歳の地域の子どもたちの体験を話しながら作品をつくりあげるワークである「Kids 4 Kids」や、小・中・高の生徒のために作品を上演し、フィードバックの時間を設け、現在のパレスチナの状況と劇中の状況の共通項を見出し、問題発見能力を育てる取組みをしている「Play 4 Kids」をはじめ、「Puppets 4 Kids」、「Taking Detention out of Palestinian Children」、「Yes 4 Youth」、「Yes4 Future」などがある。
■東京演劇アンサンブル
1954年創立。チェーホフ、ブレヒト、久保栄、木下順二、広渡常敏らの戯曲を中心に「演劇行為の中に人間の変化の契機をつくる」ことを根底においた活動を続ける。
1977年から現在の劇場「ブレヒトの芝居小屋」に拠点を置く。
東京都練馬区関町北 4−35−17
西武新宿線「武蔵関駅」下車徒歩5分
www.tee.co.jp
※写真提供 東京演劇アンサンブル
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