2016年10月01日11時12分掲載
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人権/反差別/司法
米議会で問われたサウジアラビアとの関係 9・11のテロ被害者がテロを防止しなかったサウジアラビアに対して個人的に訴訟を起こせる法案が可決
米議会でサウジアラビアと米国の関係が問い返されている。2001年の9・11同時多発テロの発生に関してサウジアラビア政府関係者が関与していたことが米政府の報告に上がっており、たとえばロサンゼルスのサウジアラビア領事が2000年にサウジアラビアから入国したテロリストに便宜を個人的に与えていたとされる。こうした場合に、テロの被害者や家族が個人としてサウジアラビア政府や要人に対して、訴訟を起こすことを可能にする法案Justice Against Sponsors of Terrorism Actがアメリカ議会で可決した。もちろん、相手はサウジアラビアに限定されない。テロに関してはたとえ米本土で起きたとしても、テロリストの出身国や要人などに責任を問えることになる。この意味を報道番組の「デモクラシー・ナウ!」が報じている。
オバマ大統領はこの法案に対して大統領として拒否権を発動したが、議会で再可決し、拒否を覆して法案可決となった。オバマ大統領が反対した理由は、もし法案可決となった場合、国境を越えてテロ被害者が訴訟を起こせることになれば、海外で米軍が起こしている様々な暴力沙汰や誤爆などで米軍もまた訴えられることにもなりえるからだ。たとえばドローンの誤爆でパキスタンなどで多数の住民が被害を受けているが、これらの被害者が逆に米軍に対して訴訟を起こすことも、相互主義によってあり得る、というのである。
今、具体的に名前が挙がっているのがサウジアラビアであり、サウジアラビアに対して米国は様々な軍事支援や武器販売を行ってきた。しかし、サウジアラビアがテロの背後にいることがもはや隠しきれないほど明らかになったことから、サウジアラビアとの関係を改めるべきだという見方が強まっているようだ。そして、目下、米国はサウジアラビアが主導するイエメンの戦争に関与しており、この悲惨な戦争も問題視されてきている。今回の法案が可決し、サウジアラビア政府に対して米国民が訴訟を今後起こすことは確実だが、そうなれば米国とサウジアラビアの関係にも影響が出てくるだろう。サウジアラビアは報道によればこの法案を阻止するためにかなりのロビー活動を米国で展開していたとされる。
一方、「デモクラシー・ナウ!」に登場したアメリカとサウジアラビアの「関係」に詳しいMedea Benjaminさんは「もし、中東で米軍のドローンの誤爆被害にあった人々が米軍を訴えることができるようになれば、イスラム国などのテロ組織に加わらなくても済むようになるのではないか」という意味のことを語った。
うがった見方をすれば中東の石油大国サウジアラビアは長年、米国にとって貴重な資源産出国だった。しかし、オバマ政権になって以後、アメリカでシェールガス・シェールオイルの開発が実現して将来的にはサウジアラビアを越えるエネルギー大国になることが確実となった。この数年、生産コストが未だ高めにつく米国のシェールオイルの開発に対してサウジアラビアは石油増産によって石油価格の下落を引き起こし、採算割れに誘導して米石油産業を牽制していたとみられている。先日、アルジェで石油輸出国機構が減産の方針を採択したが、それまでアメリカとサウジアラビアは石油に関して競合関係にあり、サウジアラビアの米国に対する強い警戒感から自腹を切ってでも生産拡大を続けて原油価格の低下に誘導していた。しかし、もはや米国は将来的に中東の石油に依存する必要がなくなった。この米国のエネルギー革命が片や中南米で、片や中東で米国の外交を変えつつある。
ロシアのRTの報道によればサウジアラビアは過去2年間、原油価格がいくらに下がろうと生産を拡大してきたが、今年に入って石油担当大臣が更迭され、原油が1バレル50ドル以下では容認できない、と姿勢を変化させた。その背後には巨額の財政赤字が積みあがっているという。そして、今、米議会が採択した法案によって巨額の賠償訴訟が政府や要人に対して行われる見込みである。
■「デモクラシー・ナウ!」の特集
http://www.democracynow.org/2016/9/30/medea_benjamin_if_americans_can_sue
■オバマ大統領が拒否権を発動した時の報道NSNBC
http://nsnbc.me/2016/09/24/obama-vetoed-justice-against-sponsors-of-terrorism-act-implications/
■イラン外相がNYTで警告 サウジアラビアのワッハーブ主義がイスラム教をゆがめている
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