2016年10月16日15時23分掲載  無料記事
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コラム

【編集長妄言】“真実後の日本政治“と”真実後の大学教授“ 虚偽を振りまいているのは誰なのか  大野和興

 日本の自衛隊がPKO(=国連平和維持活動)を行う南スーダンで武力衝突が拡大し、1週間で60人が死亡した。 これはロイター通信が14日、南スーダン政府軍の報道官の発表として伝えたもので、政府軍と反政府勢力の戦闘などにより、過去1週間で少なくとも60人が死亡した。反政府勢力が、政府軍兵士11人と市民28人を殺害し、 反政府勢力も21人が死亡したとしている。 
 
 毎日曜に掲載される読売新聞の一面コラム「地球を読む」。16日の執筆者は慶応大学教授の細谷雄一さんという人だった。タイトルは「政治は誠実か 広がる『虚偽』で世論誘導」。米国の評論家、ラルフ・キ―ズの著書から「真実後(ポスト・トルース)」という言葉を引きながら、2012年の米大統領選挙で共和党のミット・ロムニー候補が、オバマ大統領はいわなかったことや実際に行わなかったことを、言ったことにしたり行ったことにして、うそのキャンペーンを繰り広げた例をあげ、「『真実後の世界』においては、虚偽が日常に浸透して真実は無力化し、人々は情緒的に重要な決定を行う」と述べている。 
 細谷さんによると、この言葉は2010年頃から政治の世界で広く使用されるようになった、という。 
 
 ここまではよい。このコラムの結論部分で日本の「真実後」の例が出てくる。昨年の安倍政権による安保法制強行に当たって、当時の民主党(現・民進党)が「配布しようとした」「いつかは徴兵制?募る不安」と書いたパンフレットをやり玉に挙げ、「根拠を示さ」ず「国民の恐怖を煽る戦略を」選んだと糾弾している。 
 
 このコラムで細谷さんという教授が本当にいいたかったのはこの結語の部分だろう。そのために「真実後」などといった概念を持ち出して、なぜそうした言説がいま政治の世界に出現したのかの論証抜きに理屈をこねた。しかも、細谷センセーが例に挙げた民主党のパンフは、事前に党内から異論が出て実際には配布されていない。このコラムそのものを、執筆者の大学教授に「真実後の大学教授へ」と書いたのし袋に入れてご本人にお返ししたい。 
 
 ついでに細野センセーにお尋ねしたい。安倍政権はいま、南スーダン派遣の自衛隊に「駆け付け警護」の任務を新たに付与したいと躍起になっている。そこで、政府軍、反政府軍に1週間で60人の死者が出る現実を前にしながら、安倍首相は南スーダンで起こっていることは戦闘ではなく衝突だといいはり、「それは永田町よりは危険ですよ」と軽口をたたいている。 
 
 『日刊ゲンダイ』10月14日号が次のように書いている。 
「もし死者が出たらどうするのか。『衝突死』とでも言うつもりか」 
「過去には『事変であって戦争ではない』と強弁し、『敗退』を『転進』と言いくるめた権力者が日本を破滅に導いた」 
 
 慶応大学教授の細谷センセー、一国の首相が行っているこういう虚偽の国会答弁こそが、センセーがこのコラムで書いておられる「建設的な政策論争の機会を放棄しようとする戦術」なのではないでしょうか。 


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