2016年10月28日11時06分掲載
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東谷 穎人 著 「はじめてのスペイン語」 (講談社現代新書)
電車に乗っていると時々、若者たちがスペイン語をやろうと思っているんだ、という会話をしているのを耳にします。大学の第二外国語の選択の相談でしょう。昔だったら、ロシア語、フランス語、中国語、ドイツ語の4か国が第二外国語の主だったものでしたが、統計を取ったわけではないので正確な数字はわかりませんが筆者の印象では最近はスペイン語が台頭しているようです。その理由はスペイン語がスペインだけでなく、中南米や米国でも幅広く使える言語であることと、さらにはロシア語やフランス語に注力した先行世代との差別化ができることも理由の1つかもしれません。同じところで競争するより、これから伸びていきそうな新しい領域で勝負する方がよい、ということでもあると思います。
スペイン語はフランス語やイタリア語と根がラテン語で同じであり、文法構造がよく似ていることから、これらのどれか1か国語を習得すると他の言語の習得も簡単にできるメリットがあります。その中でスペイン語はフランス語よりも発音が日本語に近いだけに始めるにあたって簡単だ、と筆者も学生時代に先生から言われたことを思い出します。今思えば学生のフランス語の発音があまりにも悪いので、一種の愚痴だったのかもしれません。
スペイン語の入門書はすでにたくさん出ていますが、講談社現代新書の「はじめてのスペイン語」は学生に限らず、社会人にとっても、おそらくは年金世代の方々にとっても、手にしやすい便利な一冊です。文法の必須事項が一通り網羅されているのと、かつ枝葉末節はありませんから、当初はこれ1冊で基本パターンを頭に詰め込んでおけば、あとはその応用に過ぎません。
講談社現代新書からは他の言語の入門書も出ていてそれぞれ便利なのですが、イタリア語版やラテン語版、ポルトガル語版など、いくつか手にして見た結果、あえて筆者の独断と好みで言えば「はじめてのスペイン語」がベスト1だと思います。その理由は必須文法事項が一応全部網羅されていることと、それにまつわる背景の説明が簡潔ながら味わい深いことです。そして、その両者のバランスが最高によいのです。非常に巧みにミキシングされたカクテルのようです。
講談社の編集者は他の言語入門を作るに当たって、スペイン語版と差別化しようなどと思わず、できれば同じパターンを踏襲して欲しいものです。たとえばイタリア語版の「はじめてのイタリア語」は背景説明に重心が傾いて、必須文法事項を一部、割愛したのではないですか。それにイタリア語版はページ数もスペイン語版より50ページほど少ないのです。イタリア語版ももちろん入門書としてありがたいですし、郡史郎教授の蘊蓄もとても面白い。でも、1994年にスペイン語版を世に出してから4年後に初版が出版された「はじめてのイタリア語」が少し本として薄いのがまず手に取った第一印象なのです。なぜだろう、と思ってみると、ラテン語から派生した欧州言語の習得で欠かせない接続法がまるまる割愛されています。未来形と条件法もありません。著者の郡教授は動詞の活用表を1つ例に示したうえで、「ただ、この3種類の活用を使えなくても、他の言い方で言い換えが利きますし、こちらからしゃべる分には困りませんので、この本ではこれ以上詳しく説明しないことにします」と説明しています。しかし、これは文法の必須事項を一冊におさめる、という「はじめてのスペイン語」の特徴であるコンセプトを放棄したに等しいと筆者は思います。必須事項がどこまでを含むか、という考え方に違いはあるのでしょうが、「こちらからしゃべる分には困りません」というスタンスで会話ができるのでしょうか。庶民の財布のひもが固い今日、一冊の本を今どきの読者がどれほど慎重に選んで買うか、そこに投じる金の重さを是非考えていただきたいものです。
「はじめてのスペイン語」に戻りますが、筆者はNHKのテレビで東谷 穎人氏のスペイン語講座を見たことがあり、東谷教授の気取らない誠実な人柄を知っているのです。本書でもそれがにじみ出ていると思います。忘れた頃に紐解く、という形で、かれこれ7年近くこの本を愛読しています。
■語学に再挑戦 3 村上良太
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■語学に再挑戦2 村上良太
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