2016年10月29日22時37分掲載
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核・原子力
核兵器禁止条約? 安倍は反対 私たちには何が?
クラスター爆弾(2008年)、対人地雷(1997年)、化学兵器(1993年)、生物兵器(1972年)―― 大量破壊、無差別殺傷、非人道的な兵器と、それを禁止する国際条約ができた年のリストだ。ここに核兵器がついに加わるかもしれない。
国連総会の第一委員会(軍縮問題)が10月27日、2017年に核兵器を禁止する“拘束力のある法文書”(=条約)について交渉する国際会議の招集決議「多国間核軍縮交渉の前進」を採択したのだ。
中立国のオーストリアや途上国などでつくる“非同盟諸国”が中心となり提案していた。賛成123、反対38、棄権16。この決議は委員会段階のものなので、12月の国連総会の全体会で採択される必要があるが、来年の国際会議招集は決まったと言ってよいだろう。
経過などはマスコミ報道に任せる。ここでは、想定されている核兵器禁止条約の中身を見ておこう。
今年8月に国連の作業部会が採択した報告(今回の決議のベースになっている)には、
「核兵器を禁止してその全面廃絶へと至り、核兵器のない世界を達成・維持するとの義務および政治的誓約とともに、全般的禁止を確立する、拘束力をもつ法的文書」
として、次のような要素を入れることが可能だとしている。
(a)核兵器の取得、所有、備蓄、開発、実験および生産を禁止
(b)核戦争計画立案への参加、核兵器のターゲット設定および核兵器制御要員の訓練への参加によるものを含め、核兵器のいかなる使用にも参加を禁止
(c)核積載艦船の入港および領海進入許可、核搭載航空機の自国空域への進入許可、核兵器の自国領域通過(トランジット)の許可、核兵器の自国領域への配備および展開の許可を含め、自国領域における核兵器の許可を禁止
(d)核兵器にかかわる活動への資金提供およびIAEA(国際原子力機関)の包括的保障措置を適用していない国にたいする核分裂性物質の提供を禁止
(e)条約の禁止する行為の支援、奨励、および直接および間接を含め誘導を禁止
(f)核兵器の使用および実験の犠牲者の権利の承認、犠牲者にたいする支援提供および環境改善への誓約
こうした条約が現実にできれば、たとえ核保有国が最初はボイコットするにしても、国際政治・世論へのインパクトは計り知れない。
守勢の保有国(中国は流れを見てか棄権)やその同盟国は、「核抑止力は必要」との立場から、核兵器禁止条約に反対している。「禁止条約は、地域の安全保障を崩す危険がある。核兵器が世界の一定部分で、平和と安定を維持する役割をひきつづき担っている現実を、否定できない」というわけだ(アメリカ政府の声明、10月14日)。
しかし、非核保有国からは「核抑止力なしに国の安全は保障できないというなら、さらに多くの国が、核兵器を開発しなければ、と思うだろう。核兵器は、安全をもたらさない。逆に、国際の安全とすべての諸国と国民の安全への脅威となっている」(オーストリア)などと、厳しい批判が相次いだ。
インド、パキスタン、そして北朝鮮と核開発をする国が続いた。どちらが現実を見た議論か明らかだろう。
もちろん、核保有国も「核兵器のない世界をめざす」とは言う。だが、その実現には「段階的(ステップ・バイ・ステップ)アプローチが唯一の道」として、実際上は、核兵器廃絶を遠い彼方に追いやっている。それは、ヒロシマ、ナガサキ以来の70年余りの歴史が示している。「核保有国の『段階的アプローチ』は、明らかに核兵器廃絶に向かう具体的で制度的な前進を作れなかったのだ」(インドネシア代表、10月3日)。
日本政府は、今回の決議に反対票を投じた。恥ずかしい限りだが、私たちはどうすればよいか。そのヒントも、国連の文書にある。先に触れた今年8月の国連の作業部会の報告には、「多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうる諸措置」という項目があり、そこでは“市民の役割”についても強調している。
「作業部会は、核兵器の脅威、なかでも健康とジェンダー、持続可能な開発、気候変動と環境、文化遺産と人権の保護に与える影響について、公衆の認識を高める上で、国連の加盟各国、国連諸機関、国際機関、市民社会(NGO、学術界、議員、マスメディアおよび個人など)がそれぞれ果たし得る役割を認めた」
「作業部会はまた、将来の世代に知識を引き継いでいくため、特別の若者メッセンジャーや学生平和大使の促進などにより、若者を参加させていく重要性を強調した」
「市民、若者の出番ですよ!」と国連、特に加盟国の多数を占める非保有国が呼びかけているのだ。
“核兵器を振りかざす一握りの保有国とその同盟国”VS“非保有国と市民・平和運動の連合”―― この闘いが来年に向けてヒートアップする。(西条節夫)
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