2016年11月01日21時21分掲載
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日本武器輸出大国化のリアル 池内了・古賀茂明・杉原浩司・望月衣塑子著『武器輸出大国ニッポンでいいのか』 大野和興
武器輸出三原則の緩和を言い出したのは民主党(当時)の野田政権に時代だが、政権が自民党に移り、安倍政権になってから急速に進んでいる。中国、北朝鮮の脅威をいいたて、自衛隊の軍備増強を進め、それをてこに東アジア・東南アジアを武器市場とし、日本の経済成長戦略アベノミクスの中心軸に据えようとする思惑が透けて見える。防衛省と日本企業はイスラエルとの無人攻撃機ドローンの共同開発に乗り出そうとするなど、軍事産業国家をめざして官民挙げて動き出している。それは、経済も科学技術研究も、企業活動もメディアも文化も、すべてが軍事化に向けて、ある時はソフトに、ある場合はハードな手法で統合される過程でもある。
本書はその実態を官僚世界、軍事ビジネス、学問研究などさまざまの分野から、元官僚、新聞記者、学者、市民活動家が報告したものだ。日本はアジア太平洋戦争の敗北から学んで平和憲法を持ち、国民的論議を経て軍事費の抑制、武器輸出はしない、といった宣言を国レベルで行ってきた経過がある。しかし、ここ何年かの動きを追った本書の報告から見えてくるのは、いまや日本で軍産官学複合体が形成されつつあるという現実である。
さらに問題なのは、そうした動きに対する歯止めが次第に劣化し、弱くなっていることだ。元通産官僚で、テレビ朝日の報道ステーションのコメンテーターを務め、安倍政権の圧力で降板させられて経歴を持つ古賀茂明さんは、本書で市民運動家杉原浩司さんの質問に答え、防衛利権・軍事利権が形成されてきている実態、そうした動きに違和感を持つ「良識ある官僚」が孤立せざるを得なくなっている状況、マスメディアも鈍くなっているさまを、リアルに語っている。
古賀さんは、アラブ世界の混乱でフランスの戦闘機が飛ぶように売れ、そのことをフランスの労働者が喜んでいたというエピソードを語り、次のように話す。
「いざ戦争を始めるというときは、政治家が決めるわけですが、それをとめるのは最後は市民です。戦争をとめる最大の歯止めになるはずの市民が、労働者という立場で武器が売れないと困る、逆に武器が売れればうれしいという立場に身を置いてしまえば、戦争をとめる歯止めがなくなります」
すでに日本でも電気産業の労働組合が脱原発運動を敵視してつぶす方に回るという現実がある。フランスの労働者の状況はひとごとではない。
武器輸出問題、日本の企業の軍事化を追っている東京新聞記者望月衣塑子さんは、幸い失敗におわったが、官民挙げて推進したオーストラリアへの潜水艦輸出の経過を詳細に追跡、日本産業の軍事化を実態をリアルの暴いている。同時に、武器商人を見られることに対する企業の躊躇も指摘。まだ経済の軍事化を止める市民の活動はまだ充分間に合うことを示唆して興味深い。
宇宙物理学者として、大学・研究現場の軍事化反対運動の先頭に立つ池内了さん(名古屋大学名誉教授)が展開する軍学共同の歩みと、それがもたらす影響を論じた章は圧巻である。安保体制の下での米軍の日本の科学研究への接近、安倍政権になってから急激に進む大学への接近と防衛省の軍事技術戦略、それに対する科学者の対応と右往左往ぶり、それでも広がる「軍学共同反対の科学者ネットワーク」の健闘。本書と合わせて岩波新書の収録されている池内さんの著書『科学者と戦争』をお読みになることをお勧めする。当時、世界最高峰だったドイツの科学者がナチスにどう対応したか、から始まる本書は現代社会を考えるための必読書である。
最後に、武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)を立ち上げ、精力的に日本の軍事国家化に対する反対運動を展開している市民活動家の杉原浩司さんが、運動の現場から「まだ間に合う」と報告する。古賀さんいう通り、市民の歯止めがあれば、まだ間に合うのだ。そんな確信が生まれる好論文である。
『武器輸出大国ニッポンでいいのか』
池内了 古賀茂明 杉原浩司 望月衣塑子 著
(あけび書房 1500円+税)
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