2016年12月12日17時58分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201612121758571

医療/健康

世界の水道事業民営化に逆風 <料金の高騰><不透明な経営><質の低下>などの問題から再公営化する自治体が増えている 今、なぜ日本で・・・

  食が日々の健康に大きな影響を与えるとしたら、水道の水は命にかかわっています。その水道事業を財務負担の解消を歌って世界各地でこの四半世紀に次々と民営化してきましたが、実はここに来て民営化を打ち切る動きが起きており、調査によるとわかっているだけで過去に民営化した世界各地の自治体のおよそ4分の1が契約を打ち切り、再び公営に戻していることが明らかになっています。 
 
  その象徴とも言えるのが水道事業民営化の先鞭をつけたフランスです。1984年に花の都パリでも市が水道事業を25年契約でヴェオリア社とスエズ社に委託して民営化していました。ところが2010年にパリ市は契約を更新せず、再び公営に戻したのです。いったいなぜなのかと言えば、水道料金が契約期間中に2.25倍に高騰し、なぜそんなに高くなったのかの理由もきちんと開示されなかったそうです。研究者によれば水道事業全体を請け負った親会社が個々の水道事業を傘下の子会社に請け負わせ、その際、技術料を取ると言った中間マージンを得るなど、公務員が一元で管理していた時よりもコスト高になってしまったと指摘されています。このヴェオリア社とスエズ社は水道事業の分野では世界的なブランド企業でそれが自国で契約打ち切りという結果になってしまったのです。再び公営化したら水道料金がすぐに8%下がったというから驚きです。 
 
  フランスではパリだけでなく、今世紀に入って自治体が契約を打ち切るケースが増えていて、パリより先行して2001年にはグルノーブル市がスエズ社との契約を打ち切り再公営化しました。理由は経営が不透明で料金が高額になったからだそうです。ここで考えなくてはならないのは、「野村資本市場クオータリー」の分析によれば、民間企業が請け負った場合、たとえ人を減らして「効率化」できたとしても、そこでういた税金の多くが市民に還元されるよりは企業利益として株主に還元されたり、内部留保に回されたりする可能性があるということです。それと地方公共団体に比べて、民間企業は信用力で劣るために資金調達コストが高くなるということです。このことは民営化事業に常に付随する問題でしょう。 
 
  このように水道事業を一度民営化したものの、再び公営に戻すケースが増えていて、「世界的趨勢になった水道事業の再公営化」という資料によると、ドイツのベルリンやアメリカのアトランタやインディアナポリス、インドネシアのジャカルタやマレーシアのクアラルンプール、アルゼンチンのブエノスアイレスなど、2000年以来わかっているだけで2014年までに世界で180件に上っています。資料に目を通して毎回目につくのが料金が高騰する、ということです。水が値上がりしたら、いったいどれだけ物価に波及するか、そのことを考えてみる必要があるでしょう。さらに別の資料によると、2015年までに再公営化はもっと増えていて225件に上るとされます。 
 
  世界ではUターンを始めている水道事業民営化の動きがまさに今、大阪で導入されようとしているそうです。しかし、政府は民営化という言葉を避け、「コンセッション方式」というわかりにくい言葉を使っています。これは今政府が骨太改革として導入しようとしている経済政策で、官民協力による「コンセッション方式」のために「改革」に必要なコストなどをリサーチするなら国は助成金を出すと言って参加自治体を募っています。大阪市の水道事業は毎年黒字を計上していて優れた経営を続けてきています。しかし政府によると今後施設の更新などが必要だから今までと状況が異なってくるため、将来は水道事業に官民による新しい方式を導入する必要があるということですが、先述の通り、世界で民営化した水道事業をもう一度公営化するのがトレンドになっていることを考える必要があります。つまり、民営化すれば税金が本当に節約できるのか、水質は維持できるのか、料金は高騰しないのか、事業内容はきちんと市民に公開されるのか、と言ったことが不透明です。一度民営化した水道事業を再公営化した世界各地の自治体に共通する理由がまさにそこにあります。 
 
 
資料 エマニュエル・ロビーナ、岸本聡子、オリヴィエ・プティジャンらによる「世界的趨勢になった水道事業の再公営化」(2014年) 
 
■ロイター 2014年7月の記事 ”Paris's return to public water supplies makes waves beyond France”(パリの水道事業の再公営化がフランス各地に波及) 
http://in.reuters.com/article/water-utilities-paris-idINL6N0PE57220140708 
  パリの再公営化に続いてルーアン、サン・マロ、ブレスト、ニースでも民営化を打ち切り、再公営化が決まったと報じられている。さらにボルドー、ルーアン、レンヌ、モンペリエでも再公営化の可能性があるという。 
 
■内閣府「上下水道コンセッション事業の推進に資する支援措置」 
http://www8.cao.go.jp/pfi/shien/h28_conseccion.html 
上下水道事業については以下。 
「地方公共団体に対し、コンセッション事業等導入に係る検討に要する調査委託費を全額助成します。」 
一次募集: 
平成28年10月19日(水)〜11月7日(月) 
二次募集: 
平成28年12月2日(金)〜平成29年1月31日(火) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。