2016年12月13日14時15分掲載
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刑務所を描いたアメリカ映画 「ロンゲストヤード」 多様性がアメリカの力の源泉であることを描いた傑作
先日、「刑務所法律ニュース」のアレックス・フリードマン氏のインタビュー記事を掲載したところ、予想以上に多くの方に読んでいただくことができました。フリードマン氏はかつて自身が囚人だったジャーナリストですが、いくら犯罪者だと言っても、今の刑務所のシステムは腐敗した差別と暴力の世界になっていてひどい人権侵害がまかり通っていると訴えていました。
そんなことが作用してか、偶然書庫からアメリカの刑務所を舞台にした映画を見つけました。「ロンゲストヤード」というタイトルの映画で1974年に公開されています。刑務所の犯罪者たちがアメフトチームを結成して、暴力看守たちのチームをぶちのめす、という物語です。主演は当時、スターだったバート・レイノルズです。
主人公はかつてアメフト界のスター選手だったものの八百長試合で転落し、その後養ってもらっていた金持ちの女性とトラブルを起こし、刑務所に入るという墜ちた人間に設定されています。この映画は刑務所の一見ダメ人間たちそれぞれの個性を魅力的に描きながら、主人公が彼らと試合に勝つ努力をする中で、失ってしまった夢と人間的誇りを取り戻す物語になっています。
主人公の成長と回心を描くために不可欠な脇役がこの刑務所の所長です。所長は自分の欲望のために囚人の刑期や待遇を自由にもてあそぶ人間に描かれています。刑務所長は主人公に八百長試合を持ちかけ、断れば一生塀の中に閉じ込めると脅しをかけます。主人公は仲間たちの期待を裏切るのか、それとも・・・主人公の回心までの心の試練が「ロンゲストヤード」という象徴的なタイトルに込められているのでしょう。
監督はロバート・アルドリッチで最近は耳にすることもなくなりましたが、1970年代はB級娯楽作品ながら骨のある監督として活躍していました。個性的なダメ人間たちが力を合わせると不可能を可能にして、素晴らしいことを成し遂げる、という物語がアメリカ映画の定番としてありますが、この映画もその系譜です。移民の国、アメリカには様々なバックグラウンドと能力を持つ人間がいて、一見ダメ人間の集まりみたいな集団でも力を合わせたら何かを成し遂げる・・・これはアメリカの持つ最良の物語だと私は思います。だからこそ、その多様性を損なう政治はアメリカの自己否定なのだと思います。
ロバート・アルドリッチ監督はこうしたエンターテインメントとアメリカ精神に基づいた映画を作ったのですが、その経歴を見ると大学をドロップアウトした人間のようです。フランスから一時ハリウッドに移って映画を作っていたジャン・ルノワール監督の助監督についたのを皮切りに、エイブラハム・ポロンスキー、ジョゼフ・ロージー、チャーリー・チャップリンら錚々たる監督の助監督を務めています。アルドリッチ監督が仕えたこれらの監督たちの多くが赤狩りで追われた左翼監督たちです。アルドリッチは1918年生まれなので、10代の青年時代は大恐慌の真っただ中、そして20代はアメリカで左翼が力を増していた時代でした。アルドリッチが仕えたジョゼフ・ロージー監督もエイブラハム・ポロンスキー監督も10歳ほどアルドリッチより年長世代で、彼らこそまさにすっぽり左翼時代を体現する監督たちだと言えるでしょう。アルドリッチ監督の面白さはそうした人脈に育てられながらも観念的にならず、娯楽映画の王道を歩んでいる点です。
アルドリッチ監督は塀の中で主人公に再び、自由人だった頃と同じ選択肢を与え、そこで過ちを避ける主人公の成長を描いています。塀の中は塀の外の象徴であり、不正な権力に庶民がノーを突きつける様を骨太に描いています。
■私はなぜ刑務所の民営化と闘ってきたか 元受刑囚で「刑務所法律ニュース」のジャーナリストに聞く Interview : Alex Friedmann , Managing Editor of "Prison Legal News."
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