2017年01月05日01時36分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201701050136484
医療/健康
夜勤ナースの独り言(33)
かなりご高齢な脳神経外科の医師は、午前の診療時間の終了間際に来た私たちに対し、少し迷惑そうな表情を浮かべ、一緒に診察室に入った妻の私を完全に無視し、夫に簡単な問診を行った後、「じゃ、もうMRI(磁気共鳴画像)撮りましょうね」と言いました。
そして、MRI検査を終えて待つこと40分ほど。診察室に呼ばれたとき、あれだけ面倒くさそうにしていた医師が、背筋をしゃんと伸ばし、神妙な面持ちで私たちを待っていました。
医師の机の上にあるシャーカステン(レントゲンを貼る後ろから光が出ている盤)には、夫のMRI画像が貼られていて、素人が見ても、明らかに「何か脳の中にいる!」ってはっきり分かるくらいの脳腫瘍が写っていました。それも、医学生とか看護師向けの教科書にモデルケースとして載せられるくらいの立派な脳腫瘍で、「これは、誰か他人のフィルムと間違っているのではないか?」と疑ったほどでした。
医師からは「大きな脳腫瘍があり、当院では対応できませんので専門の病院を紹介します。今日の午後、このまますぐに行けますか?専門の病院は、A市の脳神経外科のある民間の総合病院または大学病院、それか、ひと山超えて県の中央にある別の大学病院になります、どちらがよろしいですか?」と言われました。
「夢であってほしいけど、これは現実だ」と思いつつ、医師からの質問後、自分の頭を数秒間フル回転させた結果、A市の民間総合病院が、脳腫瘍の治療のためのガンマナイフなど、民間病院にしては設備が整っていることを看護師の仕事を通じて知っていたのと、私の知り合いの看護師が、仕事でその病院によく出入りをしていたのと、普段はあまり当てにならない私の直感で、A市の民間病院を選択しました。
この選択は、今振り返ると本当に正解で、「人って、大ピンチに直面すると直感が冴えるものなんだな」とつくづく思います。
紹介状を書いてもらい、A市の民間総合病院の午後からの診療受付開始時間に滑り込むべく、私は食事休憩も取らないで1時間ちょっと車を走らせました。
夫は、脳腫瘍が脳をかなり圧迫し、脳浮腫も凄かったことも影響してか、または私の深刻な顔を見て、普段のように能天気にいられなかったのか、車の中でずっと黙っていました。
普段は強気であまり泣いたりしない私も、車を運転しながら、いろいろと最悪なことを考えてしまって涙が溢れてしまいました。
「自分が患者家族になる・・・予想できそうで予想できていなかった・・・しかも親じゃなくて自分の夫。働き盛りの40代の夫。これまで健康診断では“健康優良”の判定だった夫に、まさか脳腫瘍なんて・・・」
「多分、あの大きさじゃあ、手術も必要だろう。でも、悪性か良性か分からない・・・」
「夫の仕事はどうするの・・・後遺症は残るのだろうか・・・」
普段、大きな病気の告知を受ける家族を間近で見てきた看護師の私も、実際に自分の家族が大きな病気を患うと動揺するものですね。
午後からの診療時間に間に合うようA市の民間総合病院に着き、CT(コンピュータ断層診断装置)検査を行った結果、医師からは「これは、もう手術の対象ですので、まずは日を改めて入院の上、脳血管の造影CTを撮り、血液検査もデータを揃え、それから高度な手術ができる都内の病院を紹介します」と言われました。(れいこ)
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。