2017年01月06日15時11分掲載  無料記事
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環境

リニア、引っ越して来たら、そこはリニアが地下走行する家だった  樫田秀樹

 2160年11月下旬。神奈川県相模原市緑区で3人の住民に会いました。それぞれが、リニアの地下通過でいろいろと思い悩んでおります。 
 
●一人目。Yさん。「水がなくなる」 
 
 Yさんは、シイタケ栽培農家。 
 福島第一原発の爆発事故で、特に大きな農業被害を被った一つがシイタケ栽培農家です。放射性物質が蓄積しやすく、東日本のシイタケは売り上げが激減しています。Yさんのシイタケも例外ではありません。 
 とはいえ、Yさんは、シイタケをビニールハウスで育てている。つまり、放射性物質が降りかかることはないのに(実際、測定をしても高い放射線は検出されない)、風評とは怖いもので、売り上げが激減しているようです。4人いたパートタイマーさんにも辞めてもらい、栽培規模も5分の1にまで縮小しています。今はお得意様を相手にビニールハウス前の直売場などで売る、固定客に宅配するなどでしのいでいますが、いったい、いつ以前のように売れるようになるのかまったくわからない状態です。 
 
 こういう「泣きっ面」の状態にやってきた「蜂」がリニア計画です。 
 Yさんのビニールハウスの真ん前の市道には、JR東海が実施した中心線測量の赤いビョウが打たれています。つまり、ビニールハウスの真下をリニアが通過するということです。 
 ここで、なぜ地下走行のリニアが「蜂」かというと、Yさんは、シイタケ栽培に大量の水を散布するのですが、それがすべて地下水で賄っているため、もしリニアが地下を通ると、その地下水が枯れる可能性があるからです。 
 
 暑い夏には最大で一日10トンの地下水を使い、冬でも3トンは使うシイタケ栽培。その地下水がなくなるのは、すなわち廃業を意味しますが、JR東海からは、もし水が枯れた場合の対処についての具体的な話はまだないようです。 
 
 Yさんは、リニアに賛成するとか反対するとかの立場にはありません。もっといえば、水さえ確保してくれるなら、地下走行するリニアに反対する理由はありません。 
 
 ただし、これまでの一連の経過にYさんには強い不満があります。それは、いったい誰が自分の将来についての窓口なのかがまったくわからないことです。 
 
「これはJR東海の事業ですね。では彼らが対応してくれるのかと思ったら、機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の人から挨拶の連絡があり、では機構の人が来るのかと思たら、やってきたのは地質調査の会社の人やボーリング会社の人で説明もなく測量やボーリングが始まるのです」 
 
 一昨年の豪雪でYさんのもつビニールハウスの一つは潰れました。当然立て直しを考えるわけですが、そのタイミングでリニア計画の話がやってきたので、もし新設しても水が出なかったら、新設の意味もなくなるので、Yさんは踏み切れないでいます」 
 
 この点でJR東海に質問をすると、JR東海は「工事には7,8年かかります」と答えただけで、地下水が枯れるかどうかには言及しませんでした。ただし「水は確保します」とだけは回答したようです。 
 しかし、Yさんが求めるのは地下水。なぜなら上水道なら塩素を含むため、シイタケ栽培には不適切なのです。もし上水道を使うなら塩素除去装置が必要とのことですが、それへの回答もありません。また、仮に塩素除去装置を使ったとしても、上水道は地下水の2倍は代金がかかります。その補てんもなされるのか。 
 
 いずれにせよ、Yさんは「ほかの土地に行くつもりはサラサラない」と言うように、この土地でシイタケを作り続けるしかありません。 
 一つには、ここが愛着のある土地であること。 
 一つには、かつて坪20万円はした地価が、原発事故後、ほぼ0円になり、売るに売れないこと。だから、他のシイタケ農家のように「放射線が検出されればよかった。そうすれば補償金がもらえたのに」とぼやくのもわかります…。 
 
 
●二人目。Aさん。引っ越して来たら、そこは地下をリニアが走る場所 
 
 同じ緑区に住むAさんは、今年5月、分譲の一軒家を購入。 
 ところが、引っ越してきて初めて知ったのは、その地下20メートルをリニアが走り、自分たちの駐車場とリビングルーム半分が補償対象になるということでした。 
 これはなんだ! 分譲を仲介した不動産業者は一言もそんな説明をしていなかったのです。 
 
 また、平日に働いているAさんは説明を聞こうにもJR東海の事務所に行けないため、説明を求め、JR東海に電話。 
 
「すると、電話に出たTという職員の態度がよくないので、言いました。『ウチに来て説明して』と。考えてみれば、私たちがわざわざ出向くことじゃない。来てくれるのが筋です」 
 
 そして10月29日、JR東海の職員3人が自宅に来て説明をしてくれました。Aさんがそのときに撮影していたビデオ動画を見せてくれたのですが、この時、JR東海とガシガシ対応に当たったのはAさんの妻です。 
 
 地下40メートル以深なら、事業者には地上の地主との交渉や保証も不要になる「大深度」開発が可能になりますが、地下20メートルであれば、地主との交渉も補償も必要となるため、Aさんご夫妻の依頼を無下にできなかったのかもしれません。、 
 
 まず、JR東海がどういう説明をしたかというと、大雑把には以下のようになっています。 
 
★家屋調査 
 工事前に調査をして、工事後にひび割れや傾きなどが確認されれば、補償の対応とする。 
★水枯れ 
 地下の水枯れは起こらないと考えております。そういう工法でやります。リニア中間駅(JR橋本駅の隣に予定)でも地下水には10センチの変動が出るだけと予想しています。 
★自然破壊 
 極力ないようにいたします。 
★地価の下落 
 地下は社会的情勢で変わります。少なくとも弊社では(因果関係があれば)補償金は払います。 
 
 そしてご夫妻はJR東海と以下の会話に入ります。 
 
A「私たちがここを移転したくないと言えばどうするのですか?」 
JR東海「まずはご理解が第一と考えております。来年中には測量説明の機会を設けます」 
A「土曜、日曜、祝日も工事事務所は空けておくべき。平日の昼間はみな働いているので、事務所に行けないのです」 
JR「貴重なご意見として社内に持ち帰る。(中略)まずは事業を進めるため、測量をさせていただきたい」 
A「ということは、測量をさせなければ、計画は中止になるということですね。そうかあ、測量させなければいいんだ」 
JR「…」 
A「リニア計画で私たちに具体的なメリットってあるんでしょうか?」 
JR「…」 
A「デメリットしかないんじゃないですか? それで理解はできません。あなたが逆の立場なら嫌ですよね?」 
 
 この会話のほとんどはAさんの妻によるもので、その発言には白黒はっきりさせようとの強い意志が見えます。 
 
 とはいえ、今、Aさんご夫妻が困っているのが、不動産の瑕疵の保証期間は不動産購入後から1年間であることです。 
 つまり、引っ越すなら来年の5月がタイムリミット。 
 とはいえ、そもそも、地下をリニアが通ることを不動産業者が説明しなかったことが、不動産の売買で必要な「重要事項説明」を怠ったかと問えるかです。これも、はっきりさせたいところで、リニア裁判の弁護団の一人、和泉弁護士も「今後、3,4人の弁護士でチームを作って、宅建業法や民法上の瑕疵担保責任を調べてみたい」とのことでした。 
 
●三人目。Oさん。測量はさせません。 
 
 Aさんのご近所に住んでいるOさんはもうここに20年も住んでいる人です。 
 Oさんは2年前、JR東海が開催した事業説明会に参加したところ、その内容がほとんど理解できず、質問に対しても具体的な回答がないことに、未だにリニア計画を認めることができません。 
 Oさんの場合も、リニアはまさしく自宅の真下を走ります。 
 Oさんの主張は「測量させません。まだ、騒音、振動、電磁波など具体的な予想や対策を何も説明されていないのに、この計画を受け入れるわけにはいきません。そして、私が今さらよそで暮らす理由はどこにもありませんから」 
 
(ブログ「記事の裏だって伝えたい」から) 


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