2017年01月19日17時40分掲載
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コラム
映画における男女の非対称性 after 50
長年、フランスと言えば日本の少女礼賛趣味と異なり、成熟した大人の女性を尊重する文化だと思ってきました。僕が勝手にそう思い込んだわけではなくて、先人たちが雑誌や本などで時に応じてそのようなことを書いてきたのを読んでいたのです。たとえば、フランスではワインと同じように熟成した女性を好む、とか。実際に、映画の世界ではカトリーヌ・ドヌーブや、ナタリー・バイ、イザベル・ユペールと言った年配の女性たちが今日も主役をはり、恋や冒険の人生をスクリーンに披露しています。
ところが、フランスでは50歳から65歳までの女優が映画でもテレビでも出演する機会が非常に少ない、と俳優の組合であるAAFAから抗議の声が上がっています。昨日はそのリーダーである女優のマリーナ・トメ氏のインタビューを訳していました。AAFAの中でトメ氏が立ち上げた「50歳の女優のトンネル」委員会によると、50歳から65歳までの女優は役が少なくなり、またあったとしても、主体的な役というよりは陰気な、あまりイメージのよくない、あるいは目立たない脇役という扱いが中心だというのです。一方、65歳以後になると、今度はお婆さん役ということで出演機会が増えるそうです。そういうわけで、50歳から65歳までの女性はトンネルの中にいる、ということのようです。
こういった声を聴きながら思い出したフランス映画がありました。クロード・ソーテ監督の「とまどい」( Nelly et Monsieur Arnaud 、1995)という映画です。この映画では初老の元判事が若い女性と出会い、恋をします。年齢の差は30歳以上あるので、自分に彼女がふさわしいのかどうなのか、という初老の男の微妙な心の揺れ動きが描かれています。それはそれで面白い映画ではあります。クロード・ソーテ監督は伝統的なフランス映画の名匠と言ってよい監督です。とはいえ、この映画に男の元妻が登場します。彼女は離婚後長い間、外国で別の男と暮らしていたのですが、その男が死んだために帰国して、元夫の周辺に現れるのです。そして、元夫が若い娘に心を動かされているのを見て、昔できなかった夫婦旅行に強引に連れて行ってしまうのです。この元妻の役を演じていたのはフランソワーズ・ブリオンで、有名な女優ですが、当時62歳の彼女は打算的で陰鬱とも言える嫌な女の役をこなしていました。夫の恋の障害という記号と言えます。
初老の男に若い娘、こういうペアの映画は少なくなく、ソーテ監督は他でもイヴ・モンタンなどを起用して「ギャルソン」(GARCON ! ,1983) で描いています。実は、その逆のパターンの映画も作られています。たとえばナタリー・バイが主演でいくつか見た記憶があります。バイがエステティシャンを演じる「エステサロン/ヴィーナス・ビューティ」(Venus Beauty Institute 、1999)もその1つでしょう。この映画の中で当時51歳だったバイは喫茶店でふと若い芸術家の男に見初められて、店までつきまとわれ、やがて恋に落ちていきます。一方、この若者の恋人だった若い娘はバイに彼氏を横取りされた嫉妬もあり、なぜこんなおばさんに彼の心が虜になったのか知ろうとして娘も店に通うようになります。この娘も映画の中では〜「とまどい」の中のフランソワーズ・ブリオンの裏返しで〜若者の恋の障害という記号でしかないのです。
ナタリー・バイには「ポルノグラフィックな関係」(Une liaison pornographique 、1999)という映画もあります。中年を過ぎつつある女性が結婚生活では実現できなかった自由なセックスを求めて、交際誌を通して知り合った若い男とラブホテルで逢瀬を重ねる映画です。この映画ではそれまでの女性のイメージを破る衝撃を感じました。
とはいえ、AAFAの「50歳の女優のトンネル」委員会の報告によると、男優の場合は生涯にわたって様々な配役があるのに比べて、女優の場合はどうしても若い役に集中するという偏りが激しいのだそうです。というのことは女優としての人生を考えた場合に、年齢を重ねた時に大きな圧力を受ける、ということになります。映画の中でまず生き生きとした形で50歳以後の人生が描かれていないとなると、現実の人生の中でも普通の50歳以上の女性たちの活路が閉ざされてしまいがちである、と訴えています。
村上良太
■50歳以上の女優にもっと出演の機会を!俳優たちが自ら立ち上がる 「50歳の女優のトンネル」委員会リーダーのマリーナ・トメ氏に聞く Intreview : Marina Tome (l’AAFA-Tunnel de la comedienne de 50 ans)
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■50歳という名のトンネルを壊そう フランスの女優たちが立ち上がる 成人女性の2人に1人が50歳以上なのに登場の割合が10%未満なのは納得できない・・
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