2017年01月24日22時41分掲載
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黒田龍之助著 「ロシア語の余白」(現代書館)
この30年ほどの間に日本におけるロシア語の学習者はかなり減ったのではないでしょうか。統計を調べたわけではありませんが、冷戦終結前はロシア(ソ連)はアメリカと世界を二分するくらいの影響力を持っており、その言語を学ぶことは鉄のカーテンの向こう側の人々にとっては出世のためでもあり、無視できない言語であっただけではなく、日本でも多くの人がロシア語を勉強していました。
黒田龍之助氏はロシア語の専門家で、この「ロシア語の余白」は楽しいエピソードやロシアの優れた文学、映画、漫画などの情報満載で、最近では珍しくなってしまったロシア関係の一冊です。とくになかなか日本で触れる機会のない、ソ連時代の低予算SF映画のカルト作品と呼ばれている「未来惑星キンザザ」や、あまり知られていない名作アニメ「今に見ていろ!」などに触れているのは嬉しいものでした。これらをみると、ロシアにはかなり面白いものが手つかずに近い状態で残っているような気がします。「不思議の国のアリス」のロシア版も、かなり面白いものでした。
こうした本はロシア語に関係なく、どんな語学関係のものでも、別にその言語を真剣に学習しよう、という人でなくても雑学的に、あるいは暇つぶし的に手にしてみると、普段自分が親しくしている世界にはないものに出会えて刺激になるのではないでしょうか。さらに言うならば本書のような娯楽的なエッセイばかりでなく、語学の入門書も「読み物」として読む、という楽しみ方がもっと知られてよいのではないか、と思います。暗記する努力なしで、知らない言語の構造を理解することは面白いものです。
もう一つは今の世界のニュースを見る時に、ロシア発のニュースは欧米発のニュースと合わせて読むと、世界の出来事を非常に立体的に見せてくれると思っています。冷戦終結前は「ソ連のことはアメリカに聞け、アメリカのことはソ連に聞け」という言葉があったくらいで、互いに仮想敵国のことは手厚く研究していましたし、出世コースでもありました。そして今日もその深層構造は変わっていないように思われます。
確かに一方の米国にとってはイスラム圏や中国に対する研究なども冷戦終結後には新たな「仮想敵国」圏としては広がってきているのでしょうが、ロシアに対する研究も将来的にも重要な要素であり続けるのではないでしょうか。世界が多極化すればするほど逆にロシアの影響力は再び増してきているとも言えると思います。だからこそ、ロシア発のニュースは欧米のニュースにはない視点があり、有益だと思っています。今の世界ではアメリカがロシアをどう見るか、という情報が一方的にあふれているからです。これが冷戦終結後のニュースの現状ではないでしょうか。
冷戦終結前なら「プラウダ」とか「イザべスチア」といったソ連の新聞は御用新聞としてジョークの対象ですらあったのですが、冷戦後の今、RTなどのロシア発のニュースは今日、欧米の、そして日本のメインストリームメディアが伝えない貴重な情報をたくさん含んでいます。RTは英語でも読めますが、しかし、そうした現状分析を行うロシア人とはどのような人々なのか、というロシア人論など、ロシアに関するキャッチアップされた研究も欠かせないと思います。その意味では今日、ロシア語の研究者は貴重な存在だと思えるのです。
■RT
https://www.rt.com/about-us/
■ニュースの三角測量 その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612151601554
■ニュースの三角測量 村上良太
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201304281127180
■ロシア構成主義の建築物の場所を示したモスクワ地図 「なぜ私たちはこの地図を今、作ったか?」 デザイナーの一人にインタビュー
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611031229554
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