2017年02月03日10時32分掲載
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核・原子力
福一2号機の格納容器内の映像について 谷克彦 (数学月間の会 世話人)
2月2日,17時からの東電会見で,福一2号機の格納容器内の映像についての報告がありました.この会見は定例で月・木に行われ,各社の記者にまじって,おしどりマコさんも必ず出席されています.私は,IWJのインタネット中継でこれを見ています.皆様もご覧になることをお勧めします.ただし,東電の説明はとても下手で,一般向けに説明しません.そこで,東電の発表事実を踏まえた上で,私の解説を加えてこの記事を書きました.
2月2日に発表されたのは,1月30日に実施した挿入カメラによる画像を解析した結果です.この実験は24日,5:30-8:00,26日,5:45-9:10,にも実施されています.カメラは格納容器のX6ペネという導入窓に直径11cmの穴を穿孔(この穿孔も大変でした.詳細は私のブログにあります),物干し竿の先につけた固定焦点のカメラをレールに沿って移動させ挿入しました.2月に,「原子炉圧力容器」を下から支える,コンクリートの部屋(ペデスタル)の中に,自走式のサソリ型ロボットを投入して観察しようというのです.これはそのための偵察実験です.
原子炉格納容器内で,「圧力容器(原子炉容器)」を支えているコンクリート製の構造物が「ペデスタル」.ペデスタル内に入り天井を見上げると,「圧力容器」の底から出ている多数の制御棒挿入機構や配管が配列しています(正常なら).原子炉建屋で言うと,「原子炉圧力容器」は2,3階を占め,ペデスタルは地下から1階を占めます.「原子炉圧力容器」を包む格納容器は地階から4階を占めています.
「原子炉圧力容器」の直径は7mほど,高さは22mあり,格納容器はこれを内部に含む大きなフラスコの様な形をしています.ペデスタルの入り口は,高さ1mほどで,屈まないと入れません.広さは直径7mほどの円形の空間で,天井には「原子炉圧力容器」の制御棒駆動機構に繋がるスタブチューブフランジが並んでいます.この配管に水圧をかけると,上にある制御棒が上昇し,燃料体に挿入される仕組みになっています.3.11の時も,制御棒の挿入まではうまく行ったということです.
1号機,3号機は,事故当時,ウエットベントが出来ましたが,それぞれの建屋は水素爆発しました.1号機は白煙,3号機は黒煙をあげて爆発したことを記憶されていることでしょう.どちらも核燃料はメルトダウンして,ほぼすべてが溶け落ちた可能性が高いと東電も認めています(2014.8.6).続いて,2号機も2011.3.14日深夜に格納容器圧力が異常上昇するもベントに失敗,圧力抑制室が破損し,直接放射性物質をばらまきました.15日,6時10分に圧力抑制室の圧力が外気と同じ1気圧になったのです.圧力抑制室というのは,建屋の地下にある直径33.5mのドーナツの様な形の水の入ったプールです.格納容器とはベント管というパイプ(直径2m,8本ある)で繋がっています.
2号機では,メルトダウンした核燃料の70%~100%が圧力容器の底にたまっているらしいことは,ミュー粒子(宇宙線)を用いた透視で判明しています(2015.3).同様の透視法で1号機のメルトダウンした核燃料は圧力容器にはとんどなく,圧力容器から抜け落ちたことがわかります(IRID資料,2016.10.4).(注)装荷核燃料の量は,1機あたり約1トンです.特に,3号機はプルサーマルで,我々の反対を押し切り,プルトニウムを含むMOX燃料が装荷されて運転を始めたところでした.
1月30日までの2号機での偵察実験でわかったことは以下のようなものです.サソリ型ロボットを走行させる床(グレーチング)の一部(1m^2)に脱落しかかった場所や脱落や障害物があり,可能であるかも含めて走行ルートの検討が必要である.X6ペネから格納容器内にカメラを挿入したとき,X6の内側で50Sv/h,原子炉直下のペデスタルに達する手前の2.3mの位置で530Sv/h,ペデスタルの入り口付近では20Sv/hの線量率が観測された.東電は明言を避けていますが,格納容器内のペデスタルの外が線量率が高いというのは予想外で,デブリがペデスタルの外に落ちているのではないか.おそらくデブリは水の外に出ていて遮蔽されていないし,事故の経緯を思い出すと,デブリの一部は,格納容器も破り地下の圧力抑制室に達した可能性も考えなければいけないと私は推測します.
核燃料デブリは,高い放射能を持ちます.原子炉に核燃料が入っているから,止めていても稼働しても同じことで,使わないのは損だというような暴論を言う経済評論家が居ります.とんでもない.新しい核燃料は人がそばにいても大丈夫ですが,使用済み核燃料には,核分裂で生じた放射性の高い核種がたくさん含まれます.さらに,核分裂が起きている核燃料からは中性子がたくさん出て,周りの物質を放射化(例えば,構造物のステンレスに当たると,普通の鉄やコバルトを放射性のある同位体に変える)し,これらを含むデブリは高い放射性を持ち人が扱えません.
今回の放射線量率の算定は,画像のノイズから(誤差が30%と大きい)ということで,東電は確定的な判断は避けています.ちょっと説明不足なので,解説を加えると,画像のノイズは,カメラの中にあるCCD(半導体)に入るγ線のためで,画像に写っている場所から来ているのではない.カメラの通った場所の線量率であります.今後,ロボット走行のルートが確保でき投入したとしも,サソリ型ロボットの眼となるCCDの累積寿命は1,000Svなので,高い線量率の場所があると短時間で壊れてしまう恐れがあります.また,デブリが地下の圧力抑制室に達しているなら,除去は無駄ではないかと思います.作業者の被ばく量(現在3mSv/日で管理)はさらに増加するでしょう.
谷克彦 (数学月間の会 世話人)
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