2017年02月09日20時31分掲載
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欧州
英Brexit国民投票の裏に英政府=シティ金融勢力の欧州連合「改革」の野望があった Corporate Europe Observatory Kenneth Haar (ケネス・ハー) #2
将来、欧州連合は崩壊するのか。危機のはずみとなったのが昨年英国で行われたBrexit(英国の欧州連合離脱)国民投票でした。欧州連合本部に食い込む英国シティの金融ロビイストの活動を8年以上に渡ってウォッチしてきたCorporate Europe ObservatoryのKenneth Haar(ケネス・ハー)氏は驚くべき示唆を私たちに与えてくれました。キャメロン前首相が言い出した国民投票は欧州連合を改革するための交渉材料だったのではないか、という可能性です。キャメロン首相は英国の希望通りに欧州連合を改革しないと、英国は欧州連合から離脱する可能性があると言って、欧州連合から大きな政治的譲歩を引き出していたということなのです。ところが、予想外の「離脱」を英国民が本当に選んでしまったことで、キャメロン首相やシティの金融産業は思いもよらぬどんでん返しを食らってしまった、ということかもしれません。いったい、何が起きていたのか、再び金融ロビイストウォッチャーの第一人者、ハーさんにインタビューしました。
(以下はハーさんへのインタビュー)
1) What activities did the financial lobbyists try before the Brexit vote (since David Cameron's announce of referendum on Brexit) according to your observation? What was their motivation ?
Q あなたの観察では、実際に金融ロイイストたちは英国の欧州連合離脱の是非を問う国民投票が行われる前に何をしていたのでしょうか? 英国のキャメロン前首相が国民投票を行うと宣言して以後のことですが。
They did what they always do: use whatever situation to create a bigger political space for their demands. What they did, mainly, was to push the UK government to take their ideas with them to the negotiation table. Ahead of the referendum in the UK, Cameron's government negotiated a special agreement, to improve the position of the UK in the EU, and to enact reforms to the liking of the UK government in specific areas, financial regulation not least. Those negotiations provided an excellent ground for the financial sector to push their agenda, and they were quite successful.
金融ロビイストがやったことはいつもと同じことでした。どんな時であれ自分たちの要求を満たすために政治に対して大きな影響力を持つことです。彼らが行ったことは一言で言えば英国政府に欧州連合の交渉の場に金融界の考えを持ち込んでもらうということでした。
欧州連合に今後も所属するかどうかを決める英国の国民投票の前に、キャメロンの政府は欧州連合に対して交渉して、欧州連合の中で英国の立場を強化するという特別の取り決めを結ぶことができたんです。その結果、ある分野で欧州連合の制度改革を英政府の望むものに作り替えることができるようになりました。特に金融規制の分野に顕著でした。英政府が欧州連合と結んだこの取り決めによって、金融業界は自分たちの考えを制度改革に導入しやすくなりました。それは実に大きな効力を発揮したのです。
Ahead of the referendum we saw the selection of a British conservative to the post of the first EU Commissioner for financial regulation, Jonathan Hill, and we saw the emergence of several political strategies for deregulating financial markets. You would have to be very naive not to see the close connection to the upcoming referendum in the UK. The main political leaders of the EU succumbed to many demands - implicit and explicit - of the City of London.
英国の国民投票の前に、欧州委員会に初めて金融規制委員長というポストが設けられ、英国・保守党の政治家、ジョナサン・ヒルが就任したのです.
それ以後、私たちはいくつも金融規制が緩和されていくのを目のあたりにしました。これらの金融規制の緩和が英国の国民投票と無関係であると思う人がいればそれはナイーブに過ぎると言えるでしょう(※編集部注 つまり、英政府は国民投票を脅しの材料にして、英国人の要求を取り入れなければ欧州連合離脱になりかねない、と譲歩を迫ったという意味であろう)。欧州連合の政治上のリーダーたちは暗黙の形であれ明白な形であれ、ロンドンのシティの金融勢力の要求に屈したということなんです。
2) Could you give me some information of the money they used for the lobbying activities toward Brexit referendum ?
Q 英国の国民投票に向けた金融産業の動きとして、どのくらいのマネーが欧州連合の改造に向けたロビー活動で投じられたのでしょうか?
I'm afraid not. There is little doubt that it was considerable. But we worked hard to get information from the UK on the matter, and we got very little. But it is highly important to understand how the financial lobby operated in this case. I doubt it was ever questioned by the UK authorities that the occasion should be used to squeeze concessions from the EU partners. And what we found was a very close cooperation between public institutions in the UK and the financial lobby. So, actually, they didn't have to spend all that much to have an impact.
具体的な数字を挙げることはできません。ただ、莫大な金額が使われたと考えてよいのではないでしょうか。私たちはこの件について英国から情報を得ようとしましたが、ごくわずかしか得ることができませんでした。しかし、どのようにして金融ロビー勢力が国民投票を前にして暗躍したかを理解することは極めて重要なことです。欧州連合からの譲歩を引き出すために(ロビー金融勢力が)国民投票を利用した事実を英国の当局が問題にしたことはないのではないかと思います。私たち、Corporate Europe Observatoryが把握したことはシティの金融勢力と英国の公的機関がいかに緊密に連携していたか、ということです。ですから、金融勢力がその要求を実現するのにさして大きな取り組みも必要なかったということなんです。
3) You mentioned ”Some of the most dangerous projects of the financial sector, are less likely to become a reality ”in the previous interview. What was the most dangerous projects ?
Q あなたは前回のインタビューで「(英国の欧州連合離脱によって)いくつかの最も危険なプロジェクトの実現性が薄らいだ」と述べられましたが、最も危険なプロジェクトとは何ですか?
The two most dangerous projects are the Capital Markets Union and a process that is to lead to less - or weaker - financial regulation in the EU. The Capital Markets Union is supposed to remove barriers to - among other things - shadow banking. More money is to be provided to companies via complicated financial instruments. As it turns out, some of the initiatives that have been adopted so far, will further open the gate to the kind of speculative activities that were blamed for the financial crisis - complex, high risk securities. The Capital Markets Union is still there, but it has been weakened by the absence of its main political engine - the UK government.
最も危険なものは2つあります。1つはCapital Markets Union(統一資本市場)の構想で、もう1つは欧州連合における金融規制をもっと緩めていくことです。中でもCapital Markets Union(統一資本市場)構想で注目すべきことは「シャドーバンキング」に対する規制を取り払うことと見られています。(編集部注:シャドーバンキングとは通常の銀行ではない投資銀行やヘッジファンドが行う金融仲介業務を指し、金融システム全体に大きなリスクを与える)。シャドーバンキングでは複雑な金融上のからくりを経たマネーが企業に融資されることになりますが、規制が緩和されればその額も増えていくことになります。欧州連合で採択された金融規制緩和によって、将来さらに金融機関が投機的な活動ができる余地が増えたのです。これこそ、欧州金融危機を作り出したものに他なりません。複雑で、ハイリスクの証券です。Capital Markets Union(統一資本市場)の構想は今でも存在するのですが、それを最も進めていた原動力である英政府が離脱したことによって勢いを弱めています。
On top of this comes a process that was initiated by the then Commissioner for Financial Regulation Jonathan Hill. He started a consultation to have the financial sector suggest which EU laws should be removed or amended in order to provide for more seamless financial markets, with a good word, deregulation. The jury is still out on that initiative, but my feeling is it cannot be taken as far as it would have been, had we had the same Commissioner - and a UK government pushing for it.
こうした金融規制緩和の音頭を取っていたのが欧州委員会の金融規制委員長だったジョナサン・ヒルでした。ヒルは金融規制委員会の中に金融産業の代表を招いた一連の話し合いの場を設けました。招かれた金融産業のロビイストたちは統一資本市場を作るために今ある欧州連合の金融規制の何を取り払う必要があるか、また何を改正しなくてはならないかを指南したのです。つまり、規制緩和ということです。これについては欧州連合で未だ完全採択には至っていませんが、これを進めてきた金融規制委員長と英政府を欠く今となっては、Brexit以前ほどこの構想が完成される見込みは減少したように思えるのです。
Kenneth Haar ケネス・ハー
Corporate Europe Observatory (Researcher)
(金融担当)
https://corporateeurope.org/
※(編集部注)Corporate Europe Observatory
ブリュッセルに本部のあるCorporate Europe Observatoryには現在、15人の専従職員がいて産業ロビイストの監視・分析活動を行っている。金融ロビイストだけでなく、環境分野や食品分野、農業分野など様々な産業分野で欧州委員会や欧州議会などに対する産業ロビイストの活動が近年目立ってきている。遺伝子組み換え種子に対する規制緩和を求める活動もそうである。ロビイストの活動は主に欧州連合の産業規制を緩和することにある。ロビイストは欧州委員に頻繁に接触したり、欧州連合本部で頻繁に説明会を開いたり資料を配布したりして巨額を費やして広報活動を行っている。だが、こうした活動はほとんどメディアで取り上げられることがない(というのも多くのメディア企業の株主や経営者、スポンサーが産業界であるため)。そこでジャーナリズムができない調査・監視活動をCorporate Europe Observatoryが行っている。この組織の活動は寄附で賄われている。個人の寄附と同時に、欧州の様々な民主主義を守る活動をしているNGOなどが寄附をして支えているのだ。
日本のメディアでも欧州同様に産業ロビイ活動が表に取り上げられるケースはほとんどない。しかし、現実には産業ロビイストはTPPやTTIPなど自由貿易協定の推進で動いている。メディアの目の届かないところで産業界はロビイストたちを使って陰で巨大な政治力を行使しているのである。欧州における規制を決める欧州委員会の委員たちは選挙で選ばれるわけではないにもかかわらず、欧州議員よりもはるかに大きな政治力を有しているという。そして欧州委員会の委員たちの多くが退官後に大企業に天下っている実態がある。
Interview
Ryota Murakami
村上良太
■ナショナリズムの台頭の真の原因は欧州連合本部にある ロビイ活動を監視するCorporate Europe Observatoryのケネス・ハー氏 Kenneth Haar
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■ブルデューの死から10年 〜欧州を改造した知的傭兵部隊〜
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