2017年02月11日06時28分掲載
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国際
日本再建イニシアティブの船橋洋一理事長が安倍・トランプ会談を前にNYTに寄稿 安倍政権の安定ぶりを印象付ける評論
ニューヨークタイムズ国際版の2月9日版に船橋洋一氏の意見が掲載されていました。通常はオピニオンのページにある内容ですが、今回は異例の一面トップとオピニオンのページにまたがっています。見出しは" In Japan, no angry populism "(日本には怒りに満ちたポピュリズムはない)というものです。論旨は何か、というと、Brexitの英国やトランプ大統領を生んだアメリカのような意味での怒れる日本人の大衆は不在だ、と言っているのです。その証拠に安倍政権は常に50%の支持率を続けており、安倍首相を脅かすライバル政治家も不在だ、と。
そのあと、なぜそうなのかを語っていますが、たとえばバーニー・サンダースや、ギリシアのティプラス政権のような左派のポピュリズムが日本には不在であり、その理由としては2009年に政権を取った民主党の失敗が挙げられています。財源のあてのない子供手当などの社会保障政策は非現実的だったほか、沖縄米軍基地の県外移設にも失敗しアメリカを怒らせた、と。(ここでは外務官僚の不作為や、東日本大震災と福島原発事故の影響は語られていません)。とにかく、民主党がダメだったために、左のポピュリズムはないのだということですね。
そして安倍首相は右翼ポピュリズムの雰囲気はあるが、在特会や石原慎太郎のような右翼とは一線を画しているとして「安倍首相は福祉国家を守りながら、愛国主義の象徴性をプロモートすることによって国民を1つにした」と絶賛しています。日本国民はいつから愛国主義的な象徴主義で1つにまとまっていたのでしょうか? それに福祉国家を守りながらと言っていますが、福祉の水準はどんどん下がっているのではないでしょうか(※)。年金も減額される見通しです。とはいえ、確かにいろんな問題が噴出していても、自民党政権は圧倒的に強く前回の参院選でも多数派を維持したわけですから、見方を変えれば船橋氏のように「愛国主義の象徴性をプロモートすることによって国民を1つにした」と言えるのかもしれません。船橋氏はこのあともなぜ安倍政権が安定していて、怒れるポピュリズムが日本に不在なのかを挙げていきます。
これは安倍首相とトランプ大統領の首脳会談を前にした安倍首相への支援と見て間違いないでしょう。日本の安倍首相を軽く見ないでください、安倍首相は今後もずっと日本の首相を続ける人ですよ、と安倍首相の政治家としての卓越さと、安倍政権が長期化できる日本独特の政治構造を示しているのだと読めます。
船橋氏は朝日新聞の主筆だった人で、現在は「日本再建イニシアティブ」の理事長をしています。ニューヨークタイムズでも肩書に朝日新聞の言葉はなく、日本再建イニシアティブ(東京のシンクタンク)が表記されています。「日本再建イニシアティブ」(※)のウェブサイトを読むと、日本の危機の原因を探りながら、日本再建の処方箋を書く。日米軍人OBたちのコミュニケーションの強化(※)などを通して、「自由で開放的なアジア太平洋」を維持するために日本が果たせる新しい役割を再定義する。そして次世代のニューリーダーを掘り起こす、などとしています。
http://rebuildjpn.org/about-us/
※「日本再建イニシアティブ(RJIF)がリードする日米軍人ステーツマン・フォーラムが、2014年7月に正式に発足します。このフォーラムには、日米同盟の強化に長年尽力してきた、米国の統合参謀本部議長経験者と日本の統合幕僚長経験者をはじめとする日米の軍人トップOBが参加します。」
http://rebuildjpn.org/project/japanusmilitary/
※日本再建イニシアティブの「スカラー・シニアフェロー」には前米国務次官補カート・キャンベル (Kurt M. Campbell)や
米戦略国際問題研究所(CSIS) 上級副所長マイケル・グリーン (Michael J. Green)などが名を連ねています。
http://rebuildjpn.org/about-us/scholarsandseniorfellows/
※船橋氏は日本の社会保障予算は1990年から2倍に膨らんだとしています。このことが福祉国家を維持しながら、という論旨になっているのでしょう。では社会保障予算はどう推移してきたかというと、以下に財務省主計局のデータがあります。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia241015/01.pdf
「一般会計の主要経費別歳出額の推移」を見ると、確かに社会保障関係費は1990年代におよそ12兆円ほどだったのが、2012年度には26兆円あまりになっています。
「社会保障給付費の推移」(年金・医療・介護・福祉)では1990年に47兆円だったのが、2012年には110兆円と記されています。「1990年から2012年にかけて、国民所得はほぼ横ばいである一方、高齢化により、社会保障給付費は2.32倍。」そこで平成24年(2012年)8月=野田政権当時=に「特に財政に大きな負荷となっている社会保障分野についても、これを聖域視することなく、生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る」と閣議決定されたとあります。
■Smile and nod: Trump was not wearing translation device in Japan PM's speech(ガーディアン紙)
https://www.theguardian.com/us-news/2017/feb/10/shinzo-abe-donald-trump-earpiece-translation?CMP=fb_gu
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