2017年02月20日14時21分掲載  無料記事
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『SMAPと平成』『高齢者風俗嬢−女はいくつまで性を売れるのか』 芸能界と風俗の現場から「働く」ことの意味を問う  西沢江美子

 2016年というのは、奇妙な年であった。SMAP解散、「下流老人」に代表される老人の貧困化、日本を代表する文化資本電通での過労死―。年を超えてもなお深化している話題でもある。ひとくくりでいうと、最も見えにくい労働現場の人権を明るみに出したのが、これらの話題だった。身体を張って、丸ごと身体を商品にして働く人々のなかにこそ、いまの時代を読み解く知恵がある、そんなことを考えながら、いま書店で目につくSMAP関連本と高齢者本の中から新書版2冊を選んでみた。 
 
 
中川右介『SMAPと平成』(朝日新書、820円+税) 
中山美里『高齢者風俗嬢−女はいくつまで性を売れるのか』(洋泉社、890円+税) 
 
 
◆平成のトッププランナーは天皇とSMAP 
 
 SMAP関連本は解散が公になったころから書店に並びだした。そのころ、ファンの声がネットや新聞の投書欄を埋め、ついに東京新聞の「個人広告欄」を埋め尽くすまでの「社会運動」になってきた。年が明け、解散が現実になっても、いまだに「SMAPありがとう」というファン広告は続いている。そんな社会現象のなかで何冊もの本が生まれたが、早かったのは『SMAPと平成』だった。国民的アイドルとして28年間ずっとトップの座を保ってきたSMAPを真ん中に据えながら、時代を分析したものだ。著者は、「長い平成という時代、ずっとトップの地位を保っていたのは、天皇とSMAPしかいない」といいきり、「浮き沈みに激しい芸能界にあってトップの座を維持し」ていたのは「芸能史においても・・・空前絶後ではないか」と述べている。 
 
 なぜか。著者は一筋縄ではいかない芸能界に深く入り込んでSMAPを生み育てたジャニー喜多川、ジャニーズ事務所の歴史を追いかける。ジャニーズ事務所から生まれる数々のアイドルのことは知っていても、そのアイドルを生み育てた人や事務所をほとんどの人は知らない。ジャニーズ事務所の歴史は、第二次大戦を抜きにしては語れないことを、この本で初めて知った。 
 
 それはともかく、SMAPが解散に追い込まれた大きな原因は、長い間彼らを育てマネージメントしてくれた事務所の一人の女性と事務所の関係がまずくなったこと、メンバーもその女性のマネージメントについていきたかったこと、ジャニーズ事務所はそれを認めなかったこと、にあるようだ。一般的な言葉でいえば、その女性に対する事務所のパワハラである。SMAPメンバーの労働条件の改善を要求し、それが蹴られた。芸能界にいまだに生きている、歯向かうものは切って捨てるという文化が、そこにある。 
 
◆老いと性と労働 
 
 性風俗で働く女性たちの本もいくつか出版されて注目を集めている。その中で『高齢者風俗嬢−女はいくつまで性を売れるのか』は新しい一つの視点を表現している。本書は50歳代以上80歳代までの風俗で働く女性に絞って聞き書きをしたもの。女性であるがために「風俗」でしか働けなくなった。しかし、その風俗の世界も若くなければ価値がない差別があった。 
 
 性を売ることに対する差別と若くないことに対する差別という二重の差別の中で、彼女らは経験(人生経験を含め)を生かしながら誇りを取り戻す。折から熟女ブーム。彼女らの存在は老いと性という究極の課題さえ突きつける。下手な女性労働書やフェミニズムを扱った本より、現代の女性労働を問い詰める本かもしれない。(ジャーナリスト) 


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