2017年02月26日16時18分掲載
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人権/反差別/司法
絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(2)戦後体制はそもそも絵に描いた餅だったのかもしれない 小倉利丸
私たちがまず問わなければならないのは、戦後の憲法と刑法の規範を「公理」としながら、なぜ共謀罪のような「法」が登場できるのか、国会でこうした法案を審議することがなぜ可能なのか、である。なぜ「論外」とはならないのか。なぜ「荒唐無稽」だとみなされないのか。
戦争法案が議論された当時、あたかも戦争法の前と後との間に大きな質的な転換があるかのようにみなして、戦争法のない状態を維持することが9条を守る重要なポイントであるかのようにみなされたことがあったように思う。しかし、戦争法がなかった時代はどのような時代であったかといえば、その時代もまた9条に違反する自衛隊が存在し、海外派兵されていた時代であり、そもそも自衛隊あるいは自衛のための武力をもつこと自体が違憲であるという原則を主張すること自体がきわめて少数の理想主義的な(非現実的な)主張であるかのように見なされていた時代ではなかっただろうか。(とくに1990年代後半の村山政権の時代に、自衛隊合憲、安保体制支持をうちだした時代以降)
法案をめぐる反対運動のなかでは、法の問題を議論する枠組は、現行憲法の体制が旧憲法とは本質的に異なる好ましい体制であることが前提されるのが一般的かもしれない。しかし、現実の日本の法制度も政治や統治の体制も、とうてい書かれた憲法の理念(として私たちが解釈する内容)を体現するものとは言えないばかりか、ますますその理念から遠ざかるような立法が繰り返されてきた。こうした欺瞞的な事態は、憲法制定当時から存在していた。その典型が、日米安保体制と米軍基地の存在である。いったいなぜ、外国の軍隊を領土内に有するような違憲状態が常態化する事態が半世紀以上も続いてきたのだろうか。根本にあるのは、政権政党がこうした事態を法制化してきたにもかかわらず、憲法がそもそも違憲立法を排除する実質的な力を持てないように制度設計されていたからである。どのような違憲立法も国会で成立すれは法としての効果をもつという制度の欠陥を政権は利用してきた。
戦前と戦後を分ける敗戦の年、1945年は、決定的な転換点ではない。戦前も戦後も日本は、近代国民国家であり資本主義体制であった。官僚制は維持され、統治機構を支える人的な構成も維持された。天皇は「象徴」機能をもつという点で戦前から継承された。この政治と経済、ナショナリズムのイデオロギーの連続性は、憲法の断絶よりも強固である。(憲法を除く下位の主要な法律は戦前から継承されている。1907(M40)制定の刑法が現行刑法。1896年(M29)制定の民法、1988年の商法(M32)など。)
また、戦前から戦後にかけて、権力者たちの法意識が根底から変ったという明確な証拠はない。自民党は、一貫して改憲派であるから、戦後憲法や戦後民主主義はかれらの理念ではないし、憲法を国家に対する命令とは解釈せず、国家による国民への命令だと解釈する旧憲法の認識を継承している。彼らにとって法は支配者による民衆支配の規範でしかない。こうした政党が政権を担い続けてきたのだから、自民党政権が「法の支配」を受け入れているとみなすのは根拠のないことだ。政権の独断を抑制してきたのは、戦後の様々な反政府運動の存在である。
憲法は統治権力を抑制する現実的な力を持ちえているとはいえない。上に述べたように、憲法に反する立法は可能であり、法としての効果をもつ。「法の支配」は理念でしかなく、現実には、自主憲法制定派の自民党が、法の執行者(集団:行政府や警察など)として法を解釈し適用し、人の自由を奪う裁量権を持ってきた。権力者が法の支配を遵守する意思を持たないばあい、憲法も法も紙に書かれてはいても、それが文字通りに実在することにはならない。「絵に描いた餅」の憲法に定められた基本的人権や自由権は、極めて脆弱で実在しないと言っても過言ではない。実在しているのは、民衆的な権利を制約するためのルールを優先させ、政府・政権の自由を優先し、その残余を人びとに「自由」とか人権として割り当てているにすぎないのである。(法が認める限りでの自由しかない)この不在を招いたのは、戦後民主主義を過信し、主権者である「国民」が自らの権利のために十分に闘わなかったからだというしかない。一貫して戦後憲法を否定する自民党を政権の座につかせてきたその結果が、現在の日本の状況ではないだろうか。(以下続く)
(ブログ「mo more captalism」から)
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