2017年03月10日15時16分掲載  無料記事
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医療/健康

介護保険制度改定、重荷は家族に  会議殺人と介護難民の時代に

 今国会に介護保険法の改正案が出ています。大きな狙いは介護保険の自己負担の引き上げです。制度の持続性を高めるというのが、うたい文句です。従来受給者の自己負担は、かかった経費の1割でした。所得の低い人は1割で押さえながら、所得に応じて2割負担、3割負担を導入、介護保険は次第に使いずらいものになっています。介護保険の現状とこれからを追ってみました。(大野和興) 
 
◆介護保険制度改悪はどこまで進んでいるか 
 
 保険制度は2000年に発足しました。そして現在、「当初の理念とはかけ離れたものになってしまった」と語るのは、「守ろう!介護保険・市民の会」事務局長の富田孝好さんです。同市民の会は、富田さんが副理事長を務める日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会を母体に、介護保険の利用者、事業者、介護士さんなど制度を支えるスタッフら関係者が結集して2016年に発足した運動組織です。 
 
 なぜこうした運動組織が立ちあげられたのか。富田さんはいいます。 
「介護保険法は2,3年に一度改正されていますが、そのたびに悪くなっている。利用者だけでなく事業者も経営的に成り立たなくなり、必然的にそこで働く人の労働条件も悪化する。悪循環です」 
 
 制度改正のたびに後退する介護保険制度を「国家的詐欺」と指摘する人もいます。特に2015年から17年にかけての変化は目まぐるしいものがあります。2015年、介護保険の狙いの二本柱の一つだった「介護予防」を介護保険からはずす道が打ち出されました。安上がり介護保険を狙ったもので、訪問介護、通所介護を2018年4月までに市町村事業に移行させることが全市町村に義務付けられました。同時に、現役並みの所得のある人(年金収入340万円以上)の高齢者の自己負担を1割負担から2割負担に引き上げました。また、特別養護老人ホームに入所できる人を「要介護度3」以上の重度者に限定しました。 
 
 16年に検討され、今国会で法案成立をめざしている改正の中身はもっと強烈です。65〜74歳の利用料を所得に関わらず一律2割負担に引き上げ、自己負担を2割に引き上げたれたばかりの現役並みの所得のある人の自己負担を3割に引き上げます。そして福祉用具や住宅改修、生活援助を介護保険からはずし、自己負担するという案が政府から出ていました。これらを2018年4月から実施ということで、関係者の間で「2018年問題」といわれていました。 
 
◆高齢者だけの問題ではない 
 
 これが成立すると、どういうことになるでしょうか。 
 「要介護1,2」とはどういう人なのでしょう。介護保険利用者(2015年で605万人)の3分の2がこのランクに当てはまります。「要介護1・2の軽度者」と言っても、例えば片方の足が麻痺して、つえなしでは歩けない人や、自力で起き上がれず介護ベッドを使ってようやく車いすに移ることができる人もいます。生活援助とは、ヘルパーが掃除や洗濯などの家事支援を中心に生活全体を支えるサービスです。軽度者であっても生活に欠かせないサービスです。また、福祉用具とはつえや車いす、介護ベッドなどをさします。障害がある人にとっては身体の一部です。自己負担化とは保険給付の対象から外し、全額自費になること。これまでの1割負担から、10倍の料金を払わなければなりません。 
 
 自己負担の割合の引き上げやサービスの一部を介護保険から外し、自己負担化することによって、まず出てくるのは、介護サービスの利用を諦めてしまう人たちが増えることです。いま政府は、介護保険の制度改悪と並行して年金の引き下げを進めています。また非正規不安定就労が若い世代に拡がり、一家の収入は親の年金が頼りという家庭も増えています。そこに介護保険の改悪が追い打ちをかけます。ただでさえ苦しくなっている生活がいっそう追い詰められるのは必至です。その実態は、この特集で後述しますが、介護保険の受給をあきらめざるをえない人がふえています。 
 
 厚労省に資料によると、例えば要介護2の受給者の支給限度額は一か月約20万円です。これまではそのうちの1割が自己負担でしたから、月2万円ですみました。これが制度改正で自己負担が2割になれば4万円、3割だと6万円を負担しなければなりません。国民年金は現在1人月5万円ほどですから、全額を介護保険につぎ込んでも間に合わないことになります。 
 
 介護保険のサービスを受けられなくなったら、介護の重荷はそのまま家族に降りかかります。「介護殺人」という言葉があります。NHKスペシャルで2016年7月3日に放映された「私は家族を殺した “介護殺人”当事者たちの告白」は次のようなナレーションで始まりました。 
 
「いま、介護を苦に、家族を殺害する事件が相次いでいる。4月には、82歳の夫が認知症の79歳の妻を殺害した事件が起きた。こうした、いわゆる“老老介護”のケースに加え、介護を担っていた娘や息子が親を殺害する事件も後を絶たない。 
 
 こうした“介護殺人”は、NHKの調べでは、未遂も含め過去6年間で少なくとも138件発生していた。なぜ、一線を越えてしまったのか。防ぐ事はできなかったのか」 
 
 6年間で138件ということは、2週間に1回の割合で介護殺人が発生していることになります。これからいっそう介護殺人、介護心中が頻発する暗い予測に打ちのめされます。 
家族の負担が増え、介護のために仕事を辞めざるを得ない人も増えるでしょう。認知症や精神的疾患が絡んだ介護には、さらに過酷な現実が押し寄せます。認知症の高齢者は462万人、MCI(健常と認知症の中間状態)の400万人を合わせると、高齢者の4人に1人が認知症か予備軍といわれています。 
 
 こう見てくると、一見高齢者の問題を見られがちな介護保険問題は、若い世代を含めた社会全体の問題であることがわかります。現実には介護は女性に大きな負担をかけています。その意味では、介護問題は女性問題だということさえできます。 
 
◆どうすればいいのか 
 
 必要な介護を受けられないということは、その人の健康状態をの悪化させ、認知症の場合は重症化を進めます。結果は、かえって医療費や介護サービス費を増大させ、社会保障費をますます膨らませることになります。 


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