2017年03月15日15時18分掲載
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コラム
ワイマール憲法とナチス党の憲法観を両論併記するか?
近年、新聞や放送局では両論併記というものが盛んになっています。これは「中立性」を意識したものではないか、と考えられます。しかし、中立性とはいったい何でしょうか。
たとえてみたいと思います。唐突ながら1932年のドイツだったとここでは仮定します。当時は世界でも優れて民主的な憲法と言われたワイマール憲法をドイツは持っていました。これは第一次大戦後に作られたものです。のちにユダヤ人抹殺を試みた独裁者のアドルフ・ヒトラーは1933年に首相になってすぐに全権委任法という法体系的には憲法より下に位置すべき法律を制定することにより、この憲法を巧妙に停止することに成功しました。
さて、1932年のドイツ。もし当時報道する立場の者がワイマール憲法を守ろうとする人の意見と、ヒトラーの意見を両論併記で報じた場合を考えてみます。
ドイツの主要報道機関で両者の考えを同等に扱う報道を繰り返せば繰り返すほど、ヒトラーの言説を人々はワイマール憲法と同等の言い分のある内容だと思うようになるのではないでしょうか。両論併記することによって、国民の人権を奪い、独裁国家に国を作り変えてしまう主張をワイマール憲法と「どちらにも言い分がある」「議論百出」というように同一レベルに置くことを意味します。これを繰り返せば繰り返すほど、新手の考えが広まっていき、ヒトラーには追い風になったはずです。
両論併記という報道の仕方には報道する人の意思が不在だということです。報道人によってはヒトラーの主義を推す人がいたかもしれません。それを見ると、この報道はヒトラーをよし、とする報道なのだ、と人々は気づくはずです。それをよし、とする人はその新聞を買って読んだでしょう。しかし、両論併記の場合はそうした意識もないままに、いつしかヒトラーの考えが広範に刷り込まれていくのです。
■山口定著「ファシズム」2 〜全権授与法(全権委任法)と国家総動員法〜
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