2017年04月15日13時10分掲載  無料記事
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コラム

テロを表明する作家

  排外主義で知られる作家の名前のアカウント名を持つ人物がツイッターで、もし北朝鮮のミサイルが日本に着弾して家族が殺されたら、テロ組織を作って日本国内の敵を潰していくといった内容を拡散している。この人には17万人のフォロワーがいるので、作家本人がそれを実行しようとしまいと、このメッセージに影響される人も出てくるかもしれない。 
 
  そもそもそうなる場合、きっかけはトランプ政権が先制攻撃を仕掛けた場合ではないか、と思う。だから順序としては家族を守りたければ、そういう事態になるのをまず食い止める努力の方が先ではないのだろうか。 
 
  私が思うに、この作家の狙いは北朝鮮や米国や日本の有事事態より、むしろ今、国会で議論が始まった共謀罪法案を肯定する空気を醸成することにある。あるいはそういう意図を作家自身が持っていなかったとしても、そういう影響を持ちうるのではないか、と思う。 
 
  ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアで危険な発言をしたら、取り締まるべきだ、しかも「共謀罪」で取り締まるべきだ、という考え方がこのメッセージの底流にあるのではなかろうか。つまり、作家は挑発的なメッセージによって反面教師的な役割をしていることになる。もちろん作家はメッセ―ジの中で決して他人にも一緒にやろうとは呼びかけていない。しかし、少なからぬ影響力のある作家がそういう発言をしたら共鳴する人も出てくる可能性はあると思う。なぜなら「組織」を作る、と言っているのだから。作家のこのメッセージが「共謀罪」法案から逆算して作られたものに見えてしまう理由がこの「組織」という言葉なのだ。 
 
  今日、日本では殺してやりたい、と書いたとしてもそれ自体では殺人未遂にも予備にも問われない。そういう発言は公の場で気持ちの良いものでは決してない。しかし、実行が伴わなければ逮捕されることがないのは近代刑法の原則である。そしてこのことは思想や表現の自由を支えているのである。だから作家が何を発言しようとそれはヘイトクライムに該当しなければ自由なのだ。とはいえこの危機に乗じて憎しみを拡散し、暴力を扇動する人々がいるなら注意が必要だと思う。犯罪の構成要件に該当しようとしまいと、倫理上の問題としてだ。 


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