2017年04月27日12時13分掲載
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国際
フランス大統領選決戦へ 世論調査ではマクロン候補64% マリーヌ・ルペン候補36%
フランス大統領選は5月7日の2回目の決選投票に向かっている。フランスでの報道をウォッチしていると、世論調査が極めて正確に現実になっており、逆に言えばその見通しに対して波乱を起こすことができていないことでもある。左派にとっては社会党のブノワ・アモン候補が撤退せず、左翼党のメランション候補と票が割れて共倒れしてしまったことは、最初から予測できたこととはいえ、苦い思いを与える結果となった。19.5+6.3=25.8。これはネットで出回っているものだが、左派の2候補の得票率を合計した数字で、これだけあれば悠々トップで決戦に進めたのである。リベラシオン紙に公開書簡の形でアモン候補にメランション候補で1本化して欲しい、と訴えた哲学者のパトリス・マニグリエ氏の期待は実現されることがついになかった。
極右政党の国民戦線が決選投票に進むのは2002年のジャン=マリ・ルペン対ジャック・シラク以来である。あの時、シラク候補は80%に上る票を集めて圧勝した。逆に言えばフランスには極右政党の大統領が現実になるかもしれない、という激しい危機感と緊張感があった。だから、シラク候補が勝利した後のパリには1944年のパリ解放のような解放感と勝利で満ちていた。ところが今回の決選にはそのような危機感は弱まっている気がする。マリーヌ・ルペン国民戦線党首が父親と比べて、党のイメージをソフトな方向に変えてきたことが一因だが、それと同時にマクロン候補に対してシラク候補よりは顔の見えない不安が多少なりとも伴っているからのように思える。もう一つは第一回投票の前から世論調査でマクロン対ルペンの決戦となった場合はマクロン圧勝の見通しが早くも出ていたからだろう。マクロン候補は本質的には新自由主義の政治家だが、中道という看板でドゴール大統領のように左右のよいところを良いとこどりした、とアピールしている。だからこそ左の票はもちろん、中道と穏健右派の票もつかめるところに立っている。それが決選投票で64%の得票見込みとなって報じられているのだ(BFM TV )。
http://www.bfmtv.com/mediaplayer/video/sondage-elabe-emmanuel-macron-donne-large-vainqueur-face-a-marine-le-pen-au-second-tour-937787.html
英国メディアは少なからずマクロン候補に好感を持って描いているようだ。おそらくこれから欧州連合を撤退する英国にとって、将来も欧州連合を維持できてなおかつ英国の金融界に欧州市場にアクセス権を残してくれそうな候補はマクロン氏を除いていないからではなかろうか。ロスチャイルド銀行出身のエリート金融マンだったマクロン候補にシティの金融界は熱い眼差しを送っているはずである。
今回、最も意気消沈しているのは主要5候補の中で最下位になったブノワ・アモン候補をいただく社会党だろう。得票率が6%台と歴史的な惨敗となったからだ。決戦に出場するマクロン候補が社会党政権の経済大臣だっただけに、一層本命としては屈辱だろう。1月に行われた社会党の予備選挙で決戦はアモン候補とマニュエル・バルス前首相(大統領選出馬を控え、昨年12月に首相をカズヌーブ氏に交代した)で行われ、アモン候補が勝利した。バルス前首相にとっては〜おそらくだがオランド大統領の厳命で〜 社会党の中で労働法改正という嫌な任務を遂行することを余儀なくされその結果がアモン候補への敗北となったのだから割に合わないと思っているのではないだろうか。
バルス前首相は同僚だったマクロン候補とは仲間であり、マクロン候補には中道政党を率いてきたフランソワ・バイルという政治家の仲間がいる。このことから、マクロン候補が立ち上げた政治運動の"En Marche!" (始動!)がバイル氏らと本格的な中道政党の確立へ進む可能性もあるのではなかろうか。その場合に、社会党と共和党に見切りをつけた議員たちが中道政党に合流してフランスの政界再編が行われる可能性もある。
今回、社会党と共和党の二大政党がいずれも決戦に進めなかったことはアメリカにおける共和党の本命候補の敗退や民主党の異端児バーニー・サンダースの活躍とともに既存の政党政治の限界が露呈し、再編を促している時代に差し掛かっているように思われる。もちろん、フランスで社会党が党勢を立て直し、今回の惨敗を挽回する道もあると思う。だから未来は未知数だが、もし社会党から中道志向の議員がごっそり抜けてマクロン氏の側に移動した場合は残った左派の社会党議員たちはメランション候補を擁する左翼党や環境政党EELVなどと合流するか、超党派のグループを作る必要性もあるのではなかろうか。このことは日本の社会党の崩壊を否応なく思い起こさせるのである。かつて野党第一党だった日本社会党は自民党と連立内閣を作った後に従来の理想を見失った。あるいは少なくとも有権者にはそう見えた。その後、新進党などの新党運動に多くの社会党議員が参加した挙句、社会党は衰退した。フランスもまた、この歴史を思い出させる局面のように感じられるのだ。
フランスで政界再編が起こるかどうか、それを見極める鍵はマクロン氏が大統領に当選した場合に誰を閣僚に選ぶかだろう。社会党から価値観の近しい右派のバルス氏をヘッドハンティングして首相に任命するか、どうか。あるいはかつてお世話になった社会党に義理立てして、社会党以外から任命するか。いずれにしても個人で立ち上げた新たな政治勢力だけに内閣をつくるためには政治家が必要となる。フランスの報道ではマクロン候補は実力のある人材を抜擢するつもりだが、既存政党の要職についているかどうかは関係ない、と語ったそうだ。大統領はまず首相を任命し、首相の提案に沿って閣僚の任免を行うことになる。その意味ではバルス氏が引き抜かれるか、バルス氏以外の政治家が首相になるかが注目される。フランスの場合は執行権力は大統領と首相のツートップ体制なので首相に誰を任命するか、ということが大統領が具体的に何を目指しているかを見る指針となる。大統領が自分の所属する政党とは異なる政党の首相を任命する場合もあり、この場合はコアビタシオン(同居)と呼ばれる。ミッテラン大統領(社会党)とジャック・シラク首相(共和国連合)の場合がそうだった。マクロン氏が大統領になったとしても議会の実権を持つ社会党や共和党の力を無視することはできない。だから、バルス氏が仮に首相になるとしても社会党議員として参加するか、マクロン氏の政治運動「始動!」に所属を変えるかでも異なって来る。
村上良太
■フランス大統領選 先頭に出た男エマニュエル・マクロン氏(元経済相・元金融マン) その経済政策は?
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■フランス大統領選 左派総崩れの可能性 社会党ブノワ・アモン候補に撤退してメランション候補(左翼党)で大同団結することを勧めた哲学者
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