2017年04月30日10時49分掲載  無料記事
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政治

労働争議と共謀罪  フランス二月革命(1848年)以後の労働運動を振り返る  共謀罪は労働争議の防止が目的だった

  今、政府が導入しようとしている「共謀罪」が本当に必要な法律なのか、多くの識者から疑問が投げかけられています。そもそも施行されればテロ対策とは無縁の相当たくさんの犯罪に共謀罪が適用されることになり、これまでの刑法を一夜にして変質させ、政府・警察の恣意的な運用を招く恐れが存在することにあります。 
 
  共謀罪のような法律がなぜ今、制定されようとしているのか、時代的背景には外国人による「テロ」ではなく、むしろ国民の反政府運動の封じ込めにあるのではないか、と見ることもできると思います。 
 
  今日、アメリカ、日本、フランスなど先進資本主義国ではグローバリズムのもと、貧富の格差が急速に拡大しています。その結果、アメリカでは「ウォール街を占拠せよ」、台湾では学生による議会占拠、パリでは「立ち上がる夜」など、学生や労働者・市民による異議申し立て運動が多発するようになりました。これらの政府への抗議運動は非暴力を基本にしていますが、公共の場所を直接占拠する、という行動を特色としています。政府が国民に情報を伝えず秘密裏に自由貿易協定の締結・批准作業を進めたり、巨額の税金をバブルで暴利を得たはずの巨大金融機関の救済に投じたり、労働者の権利を一方的に切り崩す法案を議会無視で進めたりした場合に、やむにやまれず学生や市民が体を張って立ち上がったケースです。これらの運動の裏には既存の政党が機能不全になり、重要な問題でも国会できちんと議論が行われていないことが原因となっているのです。 
 
  貧富の格差が拡大すれば、そのようなシステムはおかしい、と思う人が増えるのは無理もありません。それが世代を超えて子孫まで連鎖して社会における階層を固定していくとなると、このまま黙って見過ごせない、と思う市民も少なくないでしょう。だからこそ、政府や資産家はすでに得た資産や様々な特権を守ろうと思いますから、市民革命や社会主義革命、その他のあらゆる抵抗権を核とした市民運動を封じ込める必要が生まれます。その際、直接行動を未然に防止できる共謀罪は公安当局にとっては非常に魅力的な法律です。まず共謀罪によって非暴力とはいえ、公共の場所を占拠して政治的主張を行う運動を未然につぶせます。とくに共謀罪は連帯責任を基本にしており、そのような情報が流れているのをひとたび見てしまったら、公安当局に通報しない限り、共犯者にされてしまう、ということになっています。 
 
  貧富の格差の拡大とそれに対する市民の抵抗運動ということでは世界には様々な歴史上の見本があることに注目したいと思います。以下の説明はフランスのクセジュ文庫「労働法」によります。 
 
  フランスでは19世紀に本格化した産業革命と資本主義の発展で都市の住民が増え、貧富の格差も拡大していきました。都市部では工場労働者が増え、それに伴い劣悪な労働条件を改善しようと言う労働運動も始まりました。当時は最低賃金で1日14〜15時間も働かされていました。幼い子供までがこのような労働を強いられていた時代です。労働者がストライキ権を核とする様々な権利を勝ち得るまでに度重なる弾圧と摘発、刑務所送りを経ています。 
 
  1848年に市民が起こした二月革命は(1789年の革命後)1830年に復活したオルレアン朝の王政を倒しただけでなく、労働者の労働条件の改善を進めました。経営者と労働者による委員会(リュクサンブール委員会とも呼ばれる)が生まれたのもこの時です。成人の労働時間も1日10時間に制限しました。ところが1851年にナポレオンの甥のルイ・ナポレオンがクーデターを起こし、翌年皇帝の座についたため反動政治が始まりますが、それでも1864年には労働争議行為を合法化する法律が制定されました。この法律が制定されたことで、逆に廃止となったものこそ、「共謀罪」と呼ばれた法律であったことに注目したいと思います。労働者の権利を求めるための運動をつぶすための法律がまさに共謀罪だったのです。 
 
  フランスでは戦後になってもさらに労働者の権利を守るための闘いが続けられてきました。絶えざる労働者の闘いによって初めて得られた諸権利だったからこそ、労働者が闘うことを忘れれば必ず労働条件は再び劣悪になっていくはずです。歴史を振り返れば共謀罪はまず労働者の争議行為を封じ込める性質のものだったことがわかります。これは単に言葉が一致している、というだけでなく、本質的に「共謀」という構成要件で逮捕できるという法律は労働争議の鎮圧と重なるものだと思われます。反戦運動などの政府への異議申し立てでも労働組合が中心になって行ってきました。国も経済も動かしているのは労働者ですから、労働組合の力は本質的かつ潜在的には大きいのです。国会が機能不全であれば労働者が団結して問題提起して抗議する、という議会の外での政治行動が伝統的にあります。とくにフランスではそれが顕著でした。その意味で、労働者が政治的要求を控え、経営者の方針に従順になり、闘うことを放棄するのであれば政府には共謀罪自体が不要なはずですが、今、なぜこれを制定しようとするかと言えば、将来さらに労働条件が悪くなり、貧富の格差が拡大していくことを政府が見越しているからではないでしょうか。 
 
 
村上良太 
 
 
■「労働組合が狙われる」 労働弁護団が「共謀罪」に反対集会 
えん罪で逮捕された当事者も証言(BuzzFeed 渡辺一樹) 
https://www.buzzfeed.com/kazukiwatanabe/20170412-kyoubouzai?utm_term=.jaewVr2RrL#.ud3MlPDoP4 
 「・・・(日本労働)弁護団幹事長の棗一郎弁護士は『労働組合の活動が弾圧される可能性のある、極めて危険な法案だ』と強調し、廃案を求めた。棗弁護士は、労働組合が不当解雇の撤回を求める抗議集会を計画してチラシをつくったり、ストライキの計画文書をつくったりすることで、処罰されうると指摘。『もし共謀罪ができれば、ちょっとしたことで『強要』や『恐喝』の疑いがあるといって、労働組合の事務所に捜索・差し押さえが入ることになりかねない。・・・』」 
 
 
■労働組合と安保関連法制 ドイツ労働戦線(DAF)と産業報国会 ドイツでは労組がまず解散させられた 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509061907550 
 
■林健太郎著「ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの」(中公新書)   ヒトラーを頂点に押し上げた大工業資本家たち 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607081756235 


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