2017年05月27日14時06分掲載
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映画『ローマ法王になる日まで』 命をも脅かす政情不安 貧者と共にあることとは 笠原真弓
単なる宗教映画の予想を違え、弱者に寄り添う社会活動家の半生を示してくれた。2013年にローマ法王に就任したフランシスコ法王は、ホルヘ・マリオ・ベルゴリオとして、1936年にイタリア系アルゼンチン人2世として生まれ育った。法王を選ぶコンクラーベの朝、洗濯物を干す場面からベルゴリオの回想は、はじまる。修道院行きを決心したベルゴリオは、友人たちとの宴で翻意を促す女性と踊っている。「もう決めたことだから」と決意は固く、程なくイエズス会の修道院の門をくぐる。まだ22歳のころだ。
アルゼンチンの国情は、1950年から80年代中ごろにかけて軍と国家社会主義的政府(ペロンなど)が交互に政権をとるという不安定な状態だった。そんな中で経済は行き詰まり、貧困層が増加していく。
司祭として貧困層に神の救いを解くことは、ミサと同時に実質的な助けが必要なのは言うまでもない。反政府運動が地下に潜る中、締め付けは教会でも例外ではない。それでも彼は精一杯の「誠実」を人々に示していく。
「3人の反政府活動をしている学生を匿ってくれ」という電話に、1人の学生と10人を超える活動家が来たり、神父の間も一筋縄ではいかない。それでもひるまない。さらに敵陣に一人で行って交渉する。当時3万人もいた失踪者からすれば、彼が救えたのは、微々たるものだが。その信念は彼の持つ信仰心なのか、社会に対する正義感なのか。
政情が安定に向かい、経済成長も周辺各国より一歩先んじて回復してきた1985年、修道院の指示で勉強のため渡独する。救えなかった命、出来なかったさまざまなこと、たくさんの悔恨を抱え、そこで彼が出会ったのは、「結び目をほどくマリア」。アルゼンチンのカソリックは、マリアをことのほか慕う。ベルゴリオもマリア像に自分の抱えこみ絡まった“結び目”を重ねて祈る。
帰国後の立ち退き騒動では、政府の裏切りに抗してベルゴリオのとった行動は……。この国の信仰心の篤さを知る。
すべての人々が安寧な生活を送れるようにとのベルゴリオの祈りは、カソリックという範疇を超え、仏教にも通じるものを感じた。私たちも運動は「愛する心」「慈ね悲」を忘れず、常に原点に立ち返らなければならないと、国会で共謀罪の審議、市民の反対集会が続く中で思う。
監督 ダニエーレ・ルケッティ
113分/6月3日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
≪写真≫
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