2017年06月10日17時48分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201706101748496
みる・よむ・きく
フランソワ・デュルペール(台本)&ファリド・ブーデジェラル(作画)「マリーヌ・ルペン大統領」 " LA PRÉSIDENTE " ( François Durpaire & Farid Boudejellal )
フランスで話題になった漫画に「ラ・プレジダント」(マリーヌ・ルペン大統領)がある。今年の大統領選で国民戦線のマリーヌ・ルペン候補が勝った場合を想定した未来世界である。作者はフランソワ・デュルペール(台本)&ファリド・ブーデジェラル(作画)のコンビだ。そして、最近、続編も出た。
国民戦線という極右政党がついにフランスの大統領を生んだら、どのような世界が出現するのか。それをシミュレーションしたのがこの物語であり、台本作家のフランソワ・デュルペールの意欲がこの作品を世に出したと言って過言ではない。フランソワ・デュルペールは歴史を教えている大学教員であると同時に、TVやラジオに頻出するコメンテーターでもある。本書のジャーナリスト感覚に彼の経験が生かされているのだろう。そして彼が組んだ漫画家がアルジェリア系フランス人の漫画家ファリド・ブーデジェラルである。
言うまでもなく、国民戦線が政府になればアルジェリアからの移民は標的とされるだろうし、すでにフランスで生まれたフランス人であっても犯罪を犯せばアルジェリアに移送されることになる可能性があった。ファリド・ブーデジェラルの作画は写真のネガのような非日常的なタッチを持つ白黒で、登場する政治家たちは基本的に実在の政治家ばかりであり、写真を活用してあたかもテレビ報道番組のようにリアルに描いている。
だが、政治家ばかりが出るのならニュースだろうが、そこに1つの家族を登場させ、家族を通して政変を見つめる構造になっている。そしてこの家族の一人と黒人の女性が恋愛関係にあり、彼女もまたこの家に同居しているのだ。そして、国民戦線のもとで不法移民摘発が始まると、彼女もまた逮捕され、収容施設に送られていく。マリーヌ・ルペン大統領になった場合の政策として、この移民摘発が柱の1つだが、もう一つの柱はユーロからの離脱である。この漫画でもユーロ離脱のあと、フランス経済が変調する過程が描かれている。マリーヌ・ルペン大統領はフランを復活させてユーロより20%程度、為替を低くして輸出を刺激しようとするが、同時にインフレとなり、外国からの借金が割高となって、決して良いことばかりではないことが明らかになる。その結果、激しいデモが繰り返され、ついに緊急事態の発令へ向かって動いていく。
マクロン大統領が誕生した今日となってみると、この漫画の想定は外れてしまったわけだが、国民戦線が次回、5年後の選挙でも恐らくはチャンスを狙ってくるだろうことは想像がつく。そして、本書を読んで感じたのは左翼のメランション陣営も、本書は結果的に批判することになったのではないか、ということだ。メランション候補は反欧州連合であり、反ユーロだと選挙戦でメディアを通して宣伝されたためだ。メランション氏は今の欧州連合は当初の理想を失った、金融権力が主導する市場以外の何物でもない、と批判している。このことはグローバリズムをどう考えるかと密接に関わるテーマであり、今後も検討を要することだろう。
※出版社のサイト
http://www.arenes.fr/livre/la-presidente/
※フランソワ・デュペールのホームページ
http://www.durpaire.com/
村上良太
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。