2017年06月13日10時46分掲載  無料記事
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欧州

フランス国会議員選挙(第一回目の投票)  第一位は棄権  行政権力と立法権力の不分離が民主主義の危機を生む

  フランスは議院内閣制の日本と異なり、大統領選挙と国家議員選挙(下院)が別々に行われる。期間は5年に一度だ。もともと大統領の任期は7年だったが、国会議員と同じ5年となり、今は同じ年に選挙が行われているため、大統領選で勢いのあった政党が国会議員選挙でも多数派を形成することが多い。これはフランス人がそういう風に大統領の権力を維持することをデザインした結果である。そして今、マクロン大統領は一気に577議席のうち400議席以上を得て行政府と立法府を自分の政治グループでがっちり占めようとしている。 
 
  この状況を朝日新聞は「欧州連合(EU)のパートナーであるドイツからは、歓迎の声が上がる。一方であまりの強さに、他党からは『民主主義の危機だ』との恨み節も漏れる」と書いた。だが、これは「恨み節」という言葉で冷やかされるような状況なのだろうか。 
 
  そもそも事態を案じているのは他党だけではない。著名ジャーナリストのエドウィ・プレネル氏はLCIテレビのインタビューで「民主主義の危機だ」と語ったほか、「マクロン大統領が率いるEn Marche!のタッグがついていたら、ロバでも当選できる」と揶揄した。 
 
  フランスのこの状況は日本でも「ねじれ解消」がマスメディアでキャンペーンされた結果、衆院と参院の両院で自民党が多数派を占めることにつながった歴史を思い出させる。今日、生じている行政権力の腐敗はこの時の「ねじれ解消」キャンペーンと無縁ではない。絶対的権力は絶対的に腐敗する、というのが政治学の基本である。行政府をチェックするためには立法府に必要最小限の野党の力がなくては不可能となるのだ。それが脅かされている事態をマスメディアが「恨み節」などと冷やかしてよいのだろうか。 
 
  たとえば今、マクロン大統領のもとで共和党から首相に引き抜かれたエドゥア―ル・フィリップ首相が提出したばかりの新法案である。「非常事態」でしか行使できない令状なき拘束や家宅捜索を「非常事態」が解除されても永続化できる法案を提案している。これは市民の権利を抑圧する市民社会にとっては非常に危険な法案である。もしマクロン大統領のグループが立法府の圧倒的多数を占めれば、この法案の撤回や修正も難しくなるだろう。 
 
  さらには今回、最大多数を形成したのはマクロン大統領のグループではなく、棄権票であったことも忘れてはならないことだ。そういう意味で「他党からの恨み節」と表現した朝日新聞の記者・編集者には与野党の討議を基本とした民主主義の基本に対する冷笑的な姿勢がうかがえる。 
 
 
村上良太 
 
 
 
■モンテスキュー著「法の精神」 〜「権力分立」は日本でなぜ実現できないか〜 
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■「現代政治学の基礎知識」(有斐閣) 〜政治の再構築に向けて〜 
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