2017年07月01日22時18分掲載
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コラム
シィエス著 「第三身分とは何か」 特権階級とその他の市民「第三身分」で国会の比率はどう配分されるべきかを論じた書
フランス革命の政治思想家の一人にエマニュエル=ジョゼフ・シィエスという人物がいる。シィエスは「第三身分とは何か」という著書で今日も知られている。第三身分とはフランス革命前夜において、カトリックの司祭や貴族に対抗する第三の政治勢力であり、言うまでもなく、新しく台頭してきた人々だった。この「第三身分とは何か」は1879年1月にパリで出版されたが、革命が起きたのはその半年後の7月14日である。7月14日にパリのバスティーユ監獄を市民の集団が攻撃したことで革命が始まったため、この日は今も「7月14日(キャトルズジュイエ)」として祝日になっている。
フランス革命以前は王政だったが、次第に司祭や貴族とは異なる市民階級が台頭し、第三の身分ということで「第三身分」と呼ばれた。上位の2つの特権階級はフランス全体(およそ2500万人の人口)のうち、20万人ほどに過ぎなかった。人口比では0.8%である。今日的に言えば「1%の特権階級 V.S.99%の平民」だろう。シィエスはこの圧倒的多数を占める市民こそ国民であり、この第三身分がふさわしい数の議員を三部会(国会)に送り込む必要があると主張した。
「特権階層は、その党派精神によるばかりでなく、存在するだけで有害なのである。特権階層が、共通の自由に反せざるをえないこれら特典から多くを得れば得るほど、国民議会から彼らを排除することがいっそう重要になる。特権者が代表されるとすれば、それは市民たる資格においてしかない。しかし、特権者には、そのような資格はもはやない」(岩波文庫「第三身分とは何か」)
シィエスは特権を持たない市民がいかに国会にその代表を送り込めばよいか、その問題を具体的に考えた。フランス革命にもっとも大きな影響を与えた思想家ジャン=ジャック・ルソーは議会制を否定し、国民の全体の意思は国民全員が参加する会議でしか決められない、と考えた。代表制だと選挙の時をのぞけば国民は主権を奪われしまうからだ、と英国の議会政治を批判しながらルソーは語った。しかし、小さな国ならともかく、2500万人もの人口のいる国で、全員が集まって共通の意思を決めることは物理的に不可能だった。ルソーの思想のままでは社会の転換は現実的に不可能だ。そこで、ルソーの社会契約論を生かしながらも議会政治と融合させる必要があった。それを成し遂げたのがシィエスだったのだ。これは本書の翻訳者の一人、伊藤洋一氏が解説で語っていることである。
本書が現代人に示唆的であるのは今日の世の中で圧倒的多数を占める人々が国会にそれに見合った数の自分たちの利益を代表する議員を送りこめていないことだろう。シィエスがこれを書いた時代は未だ、王政の時代だった。今私たちは民主制の時代に生きている。選挙権も持っている。にも関わらず自分たちに真に利益をもたらしうる政治家を選ぶことができているだろうか。そしてまた、今の世界で非常に厳しい生活を強いられている非正規雇用の人たちは、自分たちの声を代弁する人を国政の場に数に見合っただけでも送り込むべきではないのだろうか。少なくとも労働者の4割以上が非正規雇用と言われているのだから、非正規労働者党というものがあってもよさそうに思えるのだが。というのも既存の野党は正規雇用者が中心の労働組合が圧力団体として中心的な位置を占めているからである。だからこそ、非正規雇用の人たちは自分たちを代弁する政治力を今の10倍は持てるはずなのだ。
村上良太
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