2017年07月09日14時50分掲載  無料記事
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政治

都民ファースト と マスメディアの報道  改憲運動に協力してきたメディア

  フジテレビの報道番組で小池知事に近い若狭勝衆院議員が地域政党として出発した「都民ファースト」が年内にも国政に進出する可能性が高いことを話し、さらに小池知事が安倍首相と憲法改正で同じ方向性を持っていることを述べたそうだ。政治に関心のある人々にとっては小池知事が自民党・安倍首相と同じ改憲運動の旗手になるであろうことは常識と言ってもいいことだ。というのも小池氏は戦後レジームからの脱却と日本国憲法の改正を悲願としてきた日本会議所属の国会議員だったからだ。 
 
 小池氏は日本会議設立10周年の記念にこう書いている。 
 
 「『日本会議・日本会議国会議員懇談会設立十周年記念大会』のご盛会をお慶び申し上げます。誇りある国づくりのため、皆様の叡智を結集していただけますよう祈念しています。貴会議の今後益々のご発展と、ご参集の皆様の尚一層のご健勝をお祈り申し上げます。」 
 
  他の議員より短く、具体的なことを書いていないものの、日本会議の力を集結して「誇りある国」を作ると信念を書き記している。その信念は日本会議の会員を多数擁する安倍内閣とさして違いはないのではなかろうか。そのことは日本国憲法無効論を説き、大日本帝国憲法復活を目指し全力を尽くすと述べた秘書の野田数氏を都民ファーストの代表に就けたことでもつながっている。 
 
  しかし、今回の都議選でもマスメディアの多くは都民ファーストを国政とは関係のない地域政党であるかの報道を行い、改憲運動とは無縁な印象を刷り込んだ。そしてマスメディアばかりでなく、インターネットのブロッガーの中にもそれらの報道に追随し、都民ファーストが安倍政権に対抗できる護憲勢力であると訴える人までいる。このような場合、真相は事後に少しずつ出していくものだ。日本会議は改憲運動を滞りなく進めるために、安倍首相の続投を期する一方で、ポスト安倍政権も育てどちらに転んでも改憲を実現できる保険をかけることに成功しつつある。これは自民党と民主党の二大政党制がすでに御用済みになり次の疑似的な対立構図が必要になったからだろう。現政権に不満を持つ浮動票を確実に回収し、国民主権を放棄させる改憲への回路に組み入れる大きな流れを作ることである。 
 
  マスメディアの改憲へのコミットメントは安倍政権に入って始まったことではなく、1990年代初頭の政治改革キャンペーンから続く流れである。マスメディアを巻き込んだこの政治キャンペーンによって小選挙区制が制定され、二大政党制を是とする選挙体制が敷かれた。この推進母体となった第8次選挙制度審議会のメンバーはマスメディアそのものだ。審議会の委員の27人中、12人がマスコミ関係者だったという。 
 
  新井明・「日経」社長、内田健三・元共同通信論説委員長、川島正英・「朝日」編集委員、清原武彦・「産経」論説委員長、草柳大蔵・評論家・元「産経」記者、小林與三次・「読売」社長・日本新聞協会会長、斎藤明・「毎日」論説委員長、中川順・日本民間放送連盟会長・テレビ東京会長、成田正路・NHK解説委員長、播谷実・「読売」論説委員長、山本朗・中国新聞社長、屋山太郎・評論家・元時事通信解説委員。 
 
   これは改憲に必要な両院の3分の2を制するための行動であり、その過程を含めれば25年に渡ってマスメディアは改憲運動に密かに協力してきたのである。というのもマスメディアのスポンサー企業にとっては国民主権を放棄し、労働者の権利を否定できる改憲は願ってもないことだからだ。この200年の間にコツコツ積み上げてきた人権を拡大する歴史をどぶに捨て、一切を昔に戻そうというのである。本丸は労働基準法の解体だろう。そもそも、この25年の間に派遣社員というものがどのくらい増大してきたか、それに伴い労働運動がどのくらい力を失ってきたかを見るべきだろう。憲法改正前からすでに労働者の多くがいわば「半労働者」とでも言うような不安定な立場を受け入れさせられてきた。だが、それでもまだ生きてこられたのは基本的人権を保障する現行憲法があったからだ。過労死が摘発されるのも現行憲法のおかげである。憲法は抽象的なお題目ではない。 
 
  新聞は販売部数激減の中で、企業の広告費に依存する率が高まっているだろう。テレビも視聴率低迷の中でスポンサー企業を見つけるのに苦労しているのだろう。こうした厳しい経済構造の中で報道機関が政財界に協力して世界の実像を描かないことは、起こるべくして起きた事態だ。報道機関とはいえ、労働者全員の運命よりも自社の社員の暮らし方がはるかに大切なのである。それは経営者としては当たり前と言えば当たり前なのだろう。 
 
  日本人の有権者の中には戦前の全体主義が好きだと言う人もいる。そのような人々も一票を持っているし、参政権がある。しかし、そうではない人々に対してマスメディアが正確な情報を届ける役割を放棄すべきではないだろう。戦前に回帰したくない人びとが誤った情報に基づく判断で投票を行ったとしたら、それは報道機関の背信行為なのである。小池百合子氏の戦略はできる限り、本音を秘めてマスメディアが作り上げるブームに乗り、権力をつかむことにある。 
 
 
村上良太 
 
 
※ 改憲を目指す政治勢力が積極的に取り込んで活用したのがマスメディアだったという証言がある。共産党の志位和夫氏は「日本の巨大メディアを考える」という一文の中で、小選挙区制と二大政党制を推進した勢力が巨大メディアであったことを綴っているのだ。 
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2012/05/-201222111-19.html 
  「決定的な転機になったのは、1990年代の小選挙区制導入だと思います。このときに、政府の諮 問機関として第8次選挙制度審議 会(注)がつくられますが、そこに主要メディアの幹部を軒なみ組み込こ んだのです。この審議会は、27人の委員中、メディア関係者が12人にものぼりました。 
 
 (注)第8次選挙制度審議会に参加したメディア関係者は、次の通りです。新井明・「日経」社長、内田健三・元共同通信論説委員長、川島正英・「朝日」編集委員、清原武彦・「産経」論説委員長、草柳大蔵・評論家・元「産経」記者、小林與三次・「読売」社長・日本新聞協会会長、斎藤明・「毎日」論説委員長、中川順・日本民間放送連盟会長・テレビ東京会長、成田正路・NHK解説委員長、播谷実・「読売」論説委員長、山本朗・中国新聞社長、屋山太郎・評論家・元時事通信解説委員。 
 
 これらは今日行われている首相との晩餐会のベースになった「日本固有のメディア文化」だろう。戦前・戦時中も時には虚偽を報じても国家と協力したのが日本のマスメディアである。 
 
■飯坂良明・井出嘉憲・中村菊男著「現代の政治学」(学陽書房) 小選挙区制が有効に作用するには条件があった、だがそれは導入した日本にはなかったものだった 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508240138091 
■堀江湛・岡沢憲芙編 「現代政治学」(法学書院) 早稲田・慶応出身の学者が集結 二党制の神話にメスを入れる 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508170231531 


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