2017年07月13日10時18分掲載  無料記事
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コラム

「アベ政治」の源流は小泉政治  2005年が自民党の曲がり角

  今、安倍内閣の支持率が30%を切りそうな状態になり、与党自民党内でも安倍首相の政策に反対する声がぽつりぽつりと上がり始めた。これまで党内で異論がほとんど皆無だったから、国民から見れば本当に久々な感じを受ける。あったとしても声を出せなかった、ということだろう。安倍首相の政治、いわゆる「アベ政治」は野党や国民だけでなく、同じ党内においてもものが言いにくい空気を作り出してしまった。この「アベ政治」の弊害が波状的に国民に見え始めた今、安倍総理個人だけでなく、そのような異論なき政治を容認してきた自民党にも国民の疑問の目が移りだそうとしている。 
 
  「アベ政治」の特徴にはいくつかあるが、その最も目につくものはマスメディアを味方にして言論の場で主役を演じることと、メディアを味方につけ、その結果、世論を味方につけることで異論を許さぬ空気を醸し出すことだと思う。今、安倍内閣は内閣改造で小泉進次郎議員の入閣を検討している、という噂も流れている。その真偽はともかく、「アベ政治」は安倍首相が独創的につくりあげたものではなく、安倍晋三氏の師匠ともいえる小泉純一郎元首相が作り上げた政治文化と言えるだろう。小泉進次郎議員が入閣すれば否応なしに小泉=安倍の密接な絆を国民は感じるに違いない。いずれも参謀に竹中平蔵氏(オリックス社外取締役)を擁して新自由主義革命を推進してきた。 
 
  政治家・小泉純一郎は変人と呼ばれ、派閥文化の中では異端児だったが、マスメディアを味方につけ、「自民党をぶっ壊す」などのわかりやすい台詞を次々に切り出しながら、大衆を味方につけることで自民党内の力学に楔を入れ総裁になることに成功した。そして折しも90年代から進められてきた小選挙区制度の効果として候補の公認権は議員の生殺与奪を握るものとなった。その打ち出の小槌を手にした小泉氏は歴史的な2005年の「郵政解散」後の選挙で、「郵政民営化に賛成する候補者しか公認しない」として党内に異論を出させない方針を取った。自民党内の力学が変わった瞬間だ。 
 
  安倍氏はその当時、小泉首相(当時)から幹事長、そして官房長官に抜擢された。つまり、安倍氏はそのスターダムにのし上がる時期に自民党内の「変人」と言われた小泉純一郎氏の影響を受けたであろうことは間違いあるまい。当時のニュース番組では必ず小泉首相が記者団に囲まれ、何かひと言口にする、というのが定番となっていた。このマスメディアの小泉首相への殺到ぶりは今日にもこの国の政治報道文化として定着してしまったかの印象である。安倍首相がマスメディアを招いて夕食会を開き理解を求めているのも、そうした文化の一端だと考えられる。さらには候補の公認権を手に、党内に睨みをきかせ、異論を唱えさせない独裁的な人事の掌握も小泉首相(当時)が生み出したと言えるものだ。 
 
  小泉政権、そして安倍政権とかつての自民党文化とは異なる強圧的手法を取る総裁が長期政権を築いたことで、昭和時代の自民党の大らかで異論を容認し、自由に議論を行う政治文化は一変することになった。風を受けているときはそれによって一気に「チルドレン」なる新人議員を大量に生み出し、党勢を拡大できるが、ひとたび安倍首相の人気が低迷すると逆に大きなリスクになって跳ね返ってくる。今後の自民党はその流れの中に巻き込まれていくだろう。こうした時代を作り出したものは言うまでもなく「二大政党制」という幻想であり、それを生み出したものこそ政財界とマスメディア自身だった。派閥を解消し、党首に絶大なパワーを持たせることで二大政党による議論が活発化して民主主義が発展する、という幻想である。蓋を開けてみれば議論どころか忖度と命令しか存在しなかったのだ。有権者は国民の基本的権利にまで切り込んできたアベ政治に対し、一貫して口をつぐんできた自民党の幹部・中堅議員たちにも疑惑の目を向け始めている。 
 
 
村上良太 


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