2017年07月29日12時34分掲載  無料記事
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文化

「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ)

  これまで僕が一方ならぬお世話になった先代の五十嵐輝昭総料理長。その退任に当たって僕に7年間ずっと厳しく伝えようとしてきたフランス料理の伝統とはなんだったのか。そんな思いをもって、今回改めて五十嵐シェフに話を聞きました。 
 
Q なぜフランス料理をやることになったのですか? 
 
(五十嵐) われわれの時代は、何より手に職をつけるのが必須だった。母親が寮母をやっていて、寮生たちに料理を作るのを幼い頃から見ていた。その背中を見続けていたので、福島県立田島高等学校を卒業後に、手に職をつけるとなったときに自然と料理を選んだ。なかでも洋食は、高いコック帽が憧れだったので、希望してまずは洋食の皮切りとして、イタリア料理店「レストラン西武」に配属され、そのシェフの紹介で横浜の高島町にあったフランス料理店「かわら亭」に移り、そこで初めてフランス料理に触れ、その魅力にはまっていった。それが自分のフランス料理への目覚めだったと今は思っている。 
 
Q  フランス料理のどこに惹かれたのですか? 
 
  修行を重ねるうちに、フランス料理の持つバリエーションや多様なソース、食材など、フランス料理の持つ学術的な体系や懐の広さに触れるにつれ、この職で一生の仕事としてやっていこうと強い意志が固まり、どうせやるならば究極のところまでいきたいと願うようになった。当時よりレシピノートを毎日の日課としてつけだしたが、35年間にわたり毎日の作業だったので、今では辞書9冊分ほどになった。これが自分の最大の財産であり、自慢の一つでもある。そのなかで自分も偉大なよいシェフや先輩、友人との出会いがあり、その人間関係の中に身を置く自分が、自信と共に実感できるようになり、それからは手当たり次第に技術の習得に明け暮れるようになっていった。時間がたつにつれ、自分の習得した技術や知識を、できれば誰かに伝承したいと思うようになり、そんななか原田と会うことが出来たのは、何かの縁だと今は思う。 
 
Q  シェフ時代はどんな時代で、どんな料理をつくっていたのですか ? 
 
  最初のシェフは結婚式場でフランス料理を主に提供する環境だった。初めてのシェフ職であり、一生に一回の記念の食事の料理長なので、そのプレッシャーは尋常ではなかったが、自分の料理で新郎新婦や幸せそうなその家族をもてなす大役に幸せも感じ、昼夜問わずしゃにむに働いた。それまでに習得したエスコフィエによるフランス料理の王道ともいえる方法論で地元の食材を融合させ、客をもてなすと言うスタイルを築いて行った。当時その地方では会場内でのフランベなどのパフォーマンス演出を取り入れた店舗はほぼ無く、非常に好評を博した。その分野では草分けに近いことをやっていたことは自分の勲章として誇りに思う履歴のひとつではある。その努力が実ったのか、最大で東北関内6店舗を任され、統括総料理長として大任を当時の代表よりもらい、経営に携わる中で、経営のセンスや人材の登用の仕方、円滑なオペレーションなどのマネジメント業務を磨いていった。 
 
Q いつどういう形で嬬恋に来られたのですか ? 
 
   以上の経歴を買われ、ある人物の紹介で嬬恋のホテル1130に来たときに、当時の藤本総支配人と出会い、環境の良いここで、ホテルの総料理長としてやっていく決意をした。なにぶん突然の登用だったので当時の料理のスタッフからの拒否反応も予想よりかなり強く、人材を登用するに当たって、ベースになる人材が無いと言う苦労が最初はあり、自ら現場に出てフォローを勤めることも多かったが、いかんせん一人で出来ることには限界もあった。なかなか思うような結果が出ず、帰り道に星空を眺め、涙を下に落とさないよう意地を張った時期もあった。嫌がらせらしきものもあり、それまでとまったく違う人の動きにかなりプレッシャーは感じた。が、原田をはじめ、他の優秀なスタッフがまるで「黒澤映画」のように結集してくるにつれ、自分がここにきた価値ややりがいを改めて感じるようになった。再びエスコフィエを基本とした偉大な時代の料理を再現できるところまでやってこられたのは人との出会いが織り成す運命のようなものだと思う。自分の理想とする料理をホテルの宴会の中で表現してこられた満足感はおおきいし、次世代につなげるというフランス料理の伝承者としての自分の仕事にもほこりが持てる。 
 
※エスコフィエ (Auguste Escoffier 1846- 1935) 
  近代フランス料理の基礎を確立した伝説のフランス人のシェフ。 パリの「オテル・リッツ」などを舞台に活躍した。 
 
 
原田理(おさむ)  フランス料理シェフ 
( ホテル軽井沢1130 ) 
 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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